第9回:ラオスで障害者の社会自立のための就労支援に取り組んでいます!アジアの障害者活動を支援する会 中村 由希さん

【画像】第9回は、ラオスで障害者の社会自立のための就労支援に取り組む、特定非営利活動法人 アジアの障害者活動を支援する会の中村由希さんに筆を執っていただきました。

Q1. 所属団体とラオスでの事業概要を教えてください!

団体/組織名 特定非営利活動法人 アジアの障害者活動を支援する会
主な活動国・地域 ラオス人民民主共和国・ルアンパバンを中心としたラオス北部
 団体が目指していること 社会参加の機会を閉ざされてきたラオスの障害者が、スポーツや就労支援を通じてエンパワーされ、尊厳を持って活き活きと社会自立ができるようになること
事業名 「北部ラオスにおける障害者の社会自立のための就労支援事業」
事業概要 障害者の社会統合・社会自立において重要なのは、障害者の段階的な心の成長とその成長に歩調を合わせた社会経済的自立のためのきめ細やかな就労支援の提供です。
本事業ではラオス北部の障害者の社会・経済自立生活を促進するために、社会参加の機会の入り口ともなる障害者スポーツ活動を実施し、スポーツを通じて障害者間のネットワークを促進しています。

Q2. 国際協力に関わるようになったきっかけ、理由を教えてください!

私の父は事故で脊髄を損傷し、車椅子を利用する障害当事者でしたが、1981年頃から、途上国の障害者とたくさん交流していました。ちょうど国連の国際障害者年の頃、今から35年くらい前でしょうか。当時中学生だった私が家に帰ると、アフリカのジンバブエ出身の大きな身体で大きな声で笑う車椅子の人がいたり、バングラディッシュの全盲の人が「宿がないから泊まらせてくれ!」と突然泊まりにきたり、なんだか、にぎやかで楽しかったです。英語もあまり得意でない父が、笑顔でジョークを言いながら、彼らと楽しくコミュニケーションしているのを見ていて、「障害がある人も国を超えて元気な人はたくさんいるんだなぁ。仲間がいるっていいなぁ」と漠然と思ったのを今も覚えています。
世界にはどの国にも障害者がいます。先進国では障害者施策がしっかり整っているものの、開発途上国では法律も支援体制もほとんどない国が多いのが現状です。バリアフリーも整っていないところばかりで、健常者にとっても日々の生活に困難が多い途上国に住む障害者を取り巻く生活環境は大変厳しいものです。しかし、それでも障害のある人たちはたくましく力強く生きています。障害当事者の家族を持つ者として、国際的な障害者支援に関わりたいなぁと漠然と思った、あの中学生のときの「思い」が私の原点だと思います。

Q3. ラオスで事業をはじめたきっかけや対象地域、対象者を選んだ経緯・背景を教えてください!

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スポーツは障害者に生きる力を与える−車椅子バスケ試合−

当会は23年前に設立されたNGO団体です。当初は障害当事者同士のエンパワメントが重要と考え、日本の障害者のリーダーの方々を途上国にお招きし、「障害者リーダー育成セミナー」をアジア太平洋の国々で毎年開催していました。セミナーには多くの開発途上国の障害者が集まりました。日本でスポーツをして自立している障害者アスリートや、障害者の就労ロールモデルの方々をスピーカーに迎え、日本の障害者の歴史や制度の様子を紹介し、ご自身の経験を、ご自身の言葉で途上国の障害者の方々に伝えていただくことで、障害当事者同士のエンパワーに貢献いただきました。「われら自身の声で国を変えよう!」というテーマで開催していたこのエンパワメントセミナーが当会の原点であり、活動の主体でした。
セミナーはアジアの国々で順番に開催し、最後になかなか当事者活動が見えない「ラオス」に出会いました。確か1996年頃だったと思います。ラオスでは当時やっと障害者の当事者団体である「ラオス障害者協会」が設立されたころで、障害者の実態や情報などは全くわからない状況でした。そのため、まずは首都ビエンチャンでセミナーを開催し、当事者の声を聞いてみようということになりました。これがラオスで活動を始めるきっかけです。
セミナーには、国立障害者リハビリテーションセンターやラオス障害者協会の初代会長の声かけで、ビエンチャンに住む様々な障害を持つ35人の若者が集まりました。その後、何年かかけ障害者のリーダーが少しずつ育成されていく中で、首都ビエンチャンでは少しずつ状況が変わり、障害者も比較的顕在化されてきました。しかし、地方の障害者は社会自立には程遠い状態で、家族の庇護のもとでひっそりと暮らしている現状がありました。それで、ラオスの地方をターゲットにした障害者支援はできないものか、と長く案件形成を考えていたところ、特にラオスの北部の障害者の現状は厳しい状況があることがわかり、彼らをエンパワメントするような事業、すなわち当会が長く携わってきた「障害者スポーツ」を切り口とした社会参加のきっかけ作りと就労に結びつくような支援を、と考え事業を始めました。

Q4. 事業に関わる上で、一番気を配っていること/気を付けていることはなんですか?

日本では長い歴史の中で障害者施策が進んできた理由として、まず現状に困難を抱える当事者が声を上げ、運動を通じて社会に訴えてきた障害を持つ人たちの粘り強い活動がありました。「障害当事者目線」はラオスでは大事ですが、障害当事者自身の運動や活動については「日本では成功したけどラオスでは果たして…?」という一歩下がったクールな視点が大事だと思います。やはり歴史や文化背景が異なる点をまず理解し尊重することが大事です。そのため、ラオスの人の意見を第一に考えています。よくラオスの人と話し合います。当会はラオスで長く障害者支援に携わっているので、ラオスの関係者とはとても良い人間関係を築けていると思っていますが、やはりラオスも昔に比べ大きく経済発展が進んでいますし、社会的価値も変化しています。若い障害者の状況も変化しています。ラオスは何事にもゆったりしており、のんびり「ボーペンニャン」(ラオス語で「問題ないよね〜大丈夫〜」の意)の国と言われますが、ラオス人はとてもプライドの高い人たちです。このようなラオス人の国民性を十分理解しつつ、尊重しつつ、いつも共に歩んで行くスタンスを忘れずにいようと気をつけています。

Q5. これまでに一番困った/苦労したことはなんですか?また、どのように乗り越えましたか?

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日本人美容師による美容訓練

「文化の違い」「価値観の違い」です。合意形成の際には遠回りと思っても大事に1つ1つ説明しながら、担当者の方々に説明していきます。お互いが納得するまでには、ものすごく長い時間がかかることがありますが、あきらめず、しぶとく、理解が得られるまでこちらの考えを伝え続け、ラオス側の考えを引き出します。合意までのプロセスに「本当に時間がかかるなぁ…」とくじけそうになることもありますが、とにかく「気長に待つ」スタンスで、今まで難題を乗り越えてきました。1回きりの単発プロジェクトで成果を出すことは、ラオスでは本当に難しいなぁ、と思います。でも一度「信用」を得てしまえば、ラオスの人は本当にまじめに一緒に取り組んでくれますよ。

Q6. では、一番嬉しかった/やりがいを感じたことはなんですか?

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スポーツは障害者に社会参加の機会を与える−第2回ラオス全国障害者スポーツ大会−

やはり、「ラオス政府が動き出した!」ことです。10年以上ラオスで障害者スポーツ支援を行ってきましたが、3年前に政府との合意の下で、国民体育大会の後に全国障害者スポーツ大会が開催されることとなりました。第1回全国障害者スポーツ大会は2012年に世界遺産の古都、ルアンパバンで開催され、今年の1月には北部の都市ウドムサイで第2回全国障害者スポーツ大会が開催され、大成功のうちに幕を閉じました。この2回目の大会はラオス教育スポーツ省とウドムサイ県が全面的に組織した大会であり、政府がイニシアティブを取り、今後は国として障害者スポーツを振興していこうというコミットメントが確認できた大会でした。当会のスタッフ一同、その結果がとてもうれしかったです。
はじめはラオスの障害当事者に向けて、エンパワメントのツールしての「障害者スポーツ」を紹介する活動をしてきましたが、障害者スポーツの価値が政府内でも高められ、だんだんと政府にも動きが出ていることはNGO冥利につきます。草の根技術協力事業を通してラオス全国に障害者スポーツを広め、健常者もサポーターとして共にスポーツを楽しむ機会が増えることで、障害者理解も進みます。
現在の教育スポーツ省で障害者スポーツを担当している課長は、若い頃からずっと当会の障害者スポーツ活動に参加してくれていた人で、日本の障害者スポーツ指導員認定システムを参考に、ラオスでも障害者スポーツ指導者を育成することにとても前向きす。これから一緒に仕事をする上でとても頼りになるカウンターパートです。そのような政府のサポーターが増えることがとても心強いです。

Q7. 事業を進めていく中で、現地の人々にはどのような変化が見られますか?
今後重要になると思われること、今後の抱負を教えてください!

元気な障害者が増えると社会も変わります。障害を持っていても、スポーツを楽しみ、就労自立もしていて、社会の一員として活き活き活躍している障害を持つ人々が地域で増えれば、障害者に対する理解は進んでいきます。だから、ロールモデルを作ることは大事だと思います。スポーツをしている障害者の就労率は本当に高いのです。このことはラオスではデータとしても実証されています。障害者が元気になれるのもスポーツだと思っています。障害者と健常者が共にスポーツを通じて協力し合うことも十分に可能です。
ラオス国民はみんなスポーツが大好きです。サッカーに対して、ブラインドサッカーやCPサッカーがあるように、バスケットボールがあれば車椅子バスケットボールがある、障害者スポーツはなんら特別なスポーツではないのです。既存のスポーツにちょっとルールを足したり工夫したりすることで、障害者でも楽しめるようにしてあるだけです。
スポーツを通した障害者と健常者の交流は、もっともっと活性化できると思います。審判や指導者などは既存のスポーツの人材を活用するのも一案です。事業の受益者である若い障害者がスポーツを通じてエンパワーされ、社会的・職業的自立を果たし、ラオス社会の活力となる。このようなロールモデルをこれからもどんどん輩出していきたいです。
ラオスにはまだまだ機会に恵まれない、声なき声の障害者がたくさんいます。彼ら、彼女らのためにも、目標となるような、社会自立を成し遂げた障害当事者のロールモデルを全国規模で作っていく必要があります。そのためには、ラオス政府、教育スポーツ省のイニシアティブがますます重要です。これからも、スポーツを通して障害者の元気を一層促進していきたいと思っています。

Q8. 最後に…国際協力で「なぞかけ」を作ってください!

「国際協力」とかけて 蛇とイカの大活躍と解く。

その心は?!

「ジャイカ(蛇イカ)」

ありがとうございました!