イラク共和国向け円借款契約の調印

−35億ドルを超える円借款支援を開始、本邦企業の技術を活用しさらなる関係強化へ−

2012年10月15日

国際協力機構(JICA)は、10月14日、イラク共和国政府との間で、計4件、総額670億3,000万円を限度とする円借款貸付契約に調印しました。今回の円借款貸付契約調印により、イラク復興のために日本政府が2003年に約束した35億ドルを超える円借款支援を開始したことになります。

調印式の様子

日本政府は、2003年10月のマドリッドで開催された支援国会合において、イラクの緊急復興需要に対する15億ドルの無償支援に加え、中長期的な復興支援として円借款による最大35億ドルの支援を表明しました。現在、既往円借款15事業(貸付契約総額3,646億円〔約32.8億ドル相当〕)が進捗中です。今般の本邦技術活用条件(STEP)(注)を含む4案件に対する新たな円借款支援は、日本政府のイラク復興支援への強いコミットメントを象徴し、両国のさらなる関係強化に向けた道をひらくものとなります。

特に今次調印する4件のうち、「バスラ製油所改良事業(I)」については、イラク政府の要請に基づき、STEPをイラクで初めて適用し、日本のプラント建設に係る技術の活用が期待されています。イラク政府からのSTEPの適用要請は、1970〜80年代にイラク国内のプラント建設等で活躍した日本企業への技術・ノウハウ面での強い信頼と、他国企業が積極的な活動を見せるイラク市場への再進出に対する高い期待を表すものです。

イラクは、3,000万人超の人口を抱え、人口増加率も2パーセントを超えており、ビジネス市場として世界中の注目を集めています。一方、1980年代以降の度重なる戦争および経済制裁などにより、経済の基盤となるインフラ施設の老朽化等は未だ深刻であり、膨大な復興ニーズを抱えています。例えば、石油の精製施設の設備能力は低下しており、産油国でありながら、石油製品の輸入国となっています。産業にとって不可欠な基盤である通信セクターも同様に破壊・劣化が著しく進んでおり、経済制裁により新技術導入からも途絶されていたことから、近隣諸国と比べて脆弱であり、イラクが民間セクターの活性化を図っていく上でも障害となっています。また、イラクの人々の生活の安定に直結する医療施設・機材について、そのほとんどが老朽化しているとともに、医療従事者も国外に流出したことから、医療サービスが著しく悪化しています。

このような状況を踏まえ、今次調印する円借款の特徴は以下のとおりです。

(1)経済成長の鍵となる石油セクターへの支援
イラク経済における最大の基幹産業であり、ほぼ唯一の外貨獲得源である石油セクターのうち精製部門については、老朽化による施設の整備能力低下に加え、戦後復興に伴う国内の石油製品需要の増加から、ガソリン等の民生用石油製品に大幅な需給ギャップが生じています。そのため、イラクでは需給ギャップ解消のために他国からの石油製品輸入を余儀なくされており、関連支出が経済の大きな負担となっています。このため、既存の製油所において流動性接触分解装置(FCC)を含む精製プラント(FCCコンプレックス)新設あるいは新設のための計画策定を行い、石油精製能力向上を支援します。(ベイジ製油所改良事業〔E/S〕、バスラ製油所改良事業〔I〕)

(2)民間セクターの活性化
イラク政府は通信セクターを、経済活動と市民生活の基盤を提供する分野として重視しています。イラク国家開発計画(2010〜2014年)では、公的資金と民間資金双方を有機的に活用することにより、通信サービスを国際水準まで高めることを目指しています。イラク政府のこの方針を受けて、産業基盤として不可欠な通信環境向上のため、イラクの主要都市において基幹伝送路網と加入者をつなぐ加入者網の整備を支援します。通信セクターに対する本格的な円借款支援は民間セクター活性化と持続的開発に貢献します(主要都市通信網整備事業)。

(3)生活基盤の整備
イラク政府は総合的な医療システムの構築を目指しており、その取り組みの一つとして都市部と地方部の医療サービスの格差是正を進めています。現在、イラク政府の自己資金により各県の県都での400床クラスの大規模病院の建築が進められていますが、地方部における病院建設は財政難により進んでいない状況にあります。このため、地方部における200床クラスの病院建設により、地方における初期診療施設と高度専門医療をつなぎ、イラク全土での医療システムの構築と生活環境の向上を支援します(保健セクター復興事業)。

JICAは今後とも、円借款を柱に技術協力など、他のODAスキームの連携を強化しながら、イラクの開発課題に対して積極的に取り組んでいく方針です。

(注) Special Terms for Economic Partnershipの略。わが国の優れた技術やノウハウを活用して途上国への技術移転を通じて、わが国の「顔の見える援助」を促進するために創設された円借款の供与条件。

(参考)借款金額および条件

案件名 借款金額
(百万円)
金利(%/年) 償還期間
(年)
据置期間
(年)
調達条件
本体 コンサルティング・サービス
保健セクター復興事業 10,245 0.65 0.01 40 10 一般アンタイド
主要都市通信網整備事業 11,674 0.65 0.01 40 10 一般アンタイド
ベイジ製油所改良事業(E/S) 2,676 - 0.01 40 10 一般アンタイド
バスラ製油所改良事業(I) 42,435 0.2 0.01 40 10 日本タイド

(1) 「保健セクター復興事業」
Health Sector Reconstruction Project

(a) 事業の背景と必要性
イラク国では、1980年代以降の幾多の紛争、経済制裁、また、ガバナンスの低下などによる医療施設・機材の老朽化と医療従事者の流出に伴う医療サービスの著しい悪化に伴い、人口1,000人当たりの病床数が1.3床(2009年)と国際基準(3.0〜3.3床)に比して低く、また、乳幼児死亡率(23人/1,000出生〔2009年〕)が他の湾岸諸国の2〜6倍に上るなど、保健指標が目立って低い状態が続いています。近年になって、治安の安定化とともに人材の帰還が進み、医療人材育成も積極的に進められているものの、老朽化した施設・機材の更新は十分になされず、医薬品や資材の不足は続いています。このため、保健セクターはイラク政府の最重要分野のひとつとされ、とりわけ医療需要に対する施設・機材等の対応力の欠如が喫緊の課題となっています。

(b) 事業の目的および概要事業の背景と必要性
本事業は、ディカール県、バスラ県、サラハディーン県、キルクーク県、ディヤラ県、バビロン県、カルバラ県を対象に、中核総合病院(200床程度)を整備することにより、イラクの保健システムの強化および保健サービスの地域格差を是正し、もって同国の健康改善と社会経済・社会開発に貢献するものです。借款資金は、中核総合病院の建設、医療機材の調達、コンサルティング・サービス等に充当されます。

(c) 事業実施機関
 保健省(Ministry of Health)
 住所:Ministry of Health Building, Bagdad, Iraq
 Web: http://moh.gov.iq/english/index.php

(d) 今後の事業実施スケジュール(予定)
(i) 事業の完成予定時期:2020年1月(対象土木工事の完成をもって事業完成)
(ii) コンサルティング・サービス(基本設計等)招請状送付予定時期:2013年2月
(iii) 本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
調達パッケージ名:本体工事(Construction and Procurement of Equipment)
予定時期:2014年8月

(2) 「主要都市通信網整備事業」
Communications Network Development Project for Major Cities

(a) 事業の背景と必要性
通信インフラは産業にとって不可欠な基盤であり、国民生活にとっても重要な社会インフラですが、過去のイラクにおける通信セクターへの投資は不十分だったため、1990年以前の固定電話普及率は5.6パーセント前後で停滞していました。加えて、1991年の湾岸戦争やその後の経済制裁等による通信インフラの破壊・劣化は著しく、固定電話普及率は2002年には4.0パーセントにまで落ち込んでいます。イラク戦争終結後、復興支援等を通じて基幹伝送路網の復旧・整備は一定程度行われましたが、基幹伝送路網と利用者をつなぐ加入者網の整備が進まず、2009年の固定電話普及率は6.1パーセントと依然低水準に留まっています(隣国ヨルダンの普及率は12パーセント台)。世界の通信インフラは従来の公衆交換電話網から音声・データの一体的な通信を可能とする次世代ネットワーク(Next Generation Network: NGN)への移行が進んでおり、イラクでも従来のインフラ復旧に留まらないNGNの構築が課題となっています。

(b) 事業の目的及び概要
イラク国の主要都市において加入者網の整備を行うことにより、産業基盤として不可欠である通信環境の向上を図り、同国の経済・社会復興に寄与します。借款資金は、加入網の整備に係る土木工事、機材調達、およびコンサルティング・サービス等に充当されます。

(c) 事業実施機関
 通信省(Ministry of Communications)
 住所:Ministry of Communications Building, Bagdad, Iraq
 Web: http://www.moc.gov.iq/english/e-contactus.htm

(d) 今後の事業実施スケジュール(予定)
(i) 事業の完成予定時期:2016年8月(対象土木工事の完成をもって事業完成)
(ii) コンサルティング・サービス(詳細設計等)招請状送付時期:2012年4月
(iii) 本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
調達パッケージ名:IPコミュニケーションシステム(IP Communications System)
予定時期:2013年5月

(3) 「ベイジ製油所改良事業(E/S)」
Baiji Refinery Upgrading Project (E/S)

(a) 事業の背景と必要性
イラクの石油セクターは、GDPの約6割、国家歳入の約9割を占める最大の基幹産業であり、同国ほぼ唯一の外貨獲得源です。しかし、度重なる紛争や経済制裁により生産量は200万バレル/日程度のレベルまで減少しました。更に石油精製部門は戦災・老朽化等により国内14ヵ所の既存製油所では設備能力低下が深刻で、稼働率は60〜75パーセントに留まり、三つの大型製油所でも計58万バレル/日の精製能力という状況が続いています。このためガソリンの国内供給量不足分が4万バレル/日に上るなど、民生用石油製品に大幅な需給ギャップがあり、産油国ながら石油製品を他国から輸入せざるを得ず、経済の大きな負担となっています。膨大な復興ニーズを抱えるイラクにおいて石油製品の輸入による外貨流出を防止するとともに、石油製品の増産による輸出を通じて外貨を獲得するためにも石油精製部門への投資は急務ですが、不安定な政治・治安情勢等のリスクが大きく、民間部門から十分な投資が得られていません。

(b) 事業の目的及び概要
イラク北部サラハディーン県の既存のベイジ製油所において、流動性接触分解装置(FCC)を含む精製プラント(FCCコンプレックス)を新設することにより、生産性向上を通して、石油製品の品質向上と需給ギャップの縮小、環境負荷の低減・関連技術の移転を図り、もって同国の経済・社会復興に寄与するものです。本借款は、本体工事に先立ち、プラントの基本設計業務(Front End Engineering Design: FEED)等に必要な資金を供与するエンジニアリング・サービス(E/S)借款です。

(c) 事業実施機関
 石油省(Ministry of Oil)
 住所:Ministry of Oil Building, Bagdad, Iraq
 Web: http://www.oil.gov.iq/moo/contact.php?lang=en

(d) 今後の事業実施スケジュール(予定)
(i) 事業の完成予定時期:2016年12月(FEED業務完了をもって事業完成)
(ii) コンサルティング・サービス(基本設計、ライセンサー選定支援等)招請状送付予定時期:2012年11月
(iii) 本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
本事業においては本体工事に係る国際競争入札の予定なし。

(4) 「バスラ製油所改良事業 (I)」
Basrah Refinery Upgrading Project (I)

(a) 事業の背景と必要性
イラクの石油セクターは、GDPの約6割、国家歳入の約9割を占める最大の基幹産業であり、同国ほぼ唯一の外貨獲得源です。しかし、度重なる紛争や経済制裁により生産量は200万バレル/日程度のレベルまで減少しました。更に石油精製部門は戦災・老朽化等により国内14箇所の既存製油所では設備能力低下が深刻で、稼働率は60〜75パーセントに留まり、3つの大型製油所でも計58万バレル/日の精製能力という状況が続いています。このためガソリンの国内供給量不足分が4万バレル/日に上るなど、民生用石油製品に大幅な需給ギャップがあり、産油国ながら石油製品を他国から輸入せざるを得ず、経済の大きな負担となっています。膨大な復興ニーズを抱えるイラクにおいて石油製品の輸入による外貨流出を防止するとともに、石油製品の増産による輸出を通じて外貨を獲得するためにも石油精製部門への投資は急務ですが、不安定な政治・治安情勢等のリスクが大きく、民間部門から十分な投資が得られていません。

(b) 事業の目的及び概要
イラク南部バスラ県の既存のバスラ製油所において、流動性接触分解装置(FCC)を含む精製プラント(FCCコンプレックス)を新設することにより、生産性向上を通して、石油製品の品質向上と需給ギャップの縮小、環境負荷の低減・関連技術の移転を図り、もって同国の経済・社会復興に寄与するものです。本借款は、イラクで初めて本邦技術活用条件(STEP)を適用するもので、日本の技術を活用して推進される事業となります。

(c) 事業実施機関
石油省(Ministry of Oil)
住所:Ministry of Oil Building, Bagdad, Iraq
Web: http://www.oil.gov.iq/moo/contact.php?lang=en

(d) 今後の実施スケジュール(予定)
(i) 事業の完成予定時期:2019年12月(対象土木工事の完成をもって事業完成)
(ii) コンサルティング・サービス(基本設計、ライセンサー選定支援等)招請状送付予定時期:2012年11月
(iii) 本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
調達パッケージ名:本体工事(Construction and Procurement of Equipment)
予定時期:2014年4月

(e) JICA情報提供窓口
本事業の調達スケジュールに関する情報は、下記窓口にお問い合わせください。
国際協力機構中東・欧州部中東第二課 石油・ガスセクター情報窓口
住所:〒102-8012 東京都千代田区二番町5-25 二番町センタービル 4階
TEL:03-5226-6829、FAX:03-5226-6365

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