バングラデシュ人民共和国向け円借款契約の調印

−経済成長と貧困削減を支援するため、過去最大規模の円借款を供与−

2014年6月16日

国際協力機構(JICA)は、6月16日、ダッカにてバングラデシュ人民共和国政府との間で、5件、総額1,209億8,600万円を限度とする円借款貸付契約を調印しました。

署名を終え、握手を交わすモハマド・メズバウッディン財務省経済協力局次官(左)と廿枝幹雄JICAバングラデシュ事務所長(右)

世界第8位の人口、約1億5,000万人を擁するバングラデシュは、縫製・衣料関連産業の発展などにより、過去10年間で年平均6パーセントの経済成長を続けています。安価で豊富な労働力とその潜在的な市場規模などから、近年、有望な生産拠点、投資先となり得る新興国として、日本をはじめとする海外の企業から注目を集めています。しかし、経済成長に伴う急速な都市化の進展や経済活動の活性化に対して、特に都市部のインフラ整備や電力供給が追いついておらず、さらなる経済成長や投資のボトルネックとなっています。一方、農村部においては、農業生産性の向上や自然災害への対応が行き届いておらず、都市部との経済・社会格差の拡大とともに、人口増加による食料の安全保障が懸念されています。今回貸付契約を調印した5事業は、都市部、農村部双方におけるこうした状況の改善を支援するものです。

今次調印した円借款の特徴は以下のとおりです。

(1)「超々臨界圧」石炭火力発電所の建設−経済成長を支える電力インフラ−

調印式でスピーチをする田中明彦JICA理事長

バングラデシュでは電力不足が深刻な問題です。電力供給は需要の約8割(2013年)にとどまっている一方、今後10年間も引き続き電力需要が毎年10パーセント増加する見込みです。さらに、現在の発電設備の約7割がバングラデシュ国産天然ガスを燃料とする火力発電ですが、国産の天然ガスの新規開発は進んでおらず、安定した発電燃料を確保する観点からも、エネルギー源を多様化した電力供給が課題となっています。「マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業(I)」では、輸入石炭を燃料とする定格出力1,200メガワット(600メガワット×2基)の発電所を建設し、急増する電力需要に対応します。石炭は石油や天然ガスに比べて安く輸入することができ、発電に必要な燃料費が安く抑えられることや、今後長期的に安定した供給が見込まれることから、バングラデシュ政府は石炭を有望なエネルギー源と位置付けています。

本事業で採用する「超々臨界圧」技術は、資源の少ない日本が燃料を効率的に使うために培ってきた、世界をリードする技術です。バングラデシュは、輸入石炭による発電を効率的に行い、燃料費を節約するため、超々臨界圧技術を採用することを決めました。高効率な発電によって石炭の使用量が減り、従来技術による同規模の石炭火力発電と比較するとCO2換算で年間40万トン分の温室効果ガスの排出の抑制にもつながることから、本事業は気候変動の緩和にも貢献します。

(2)農業生産性の向上と作物多様化−農家の農業金融アクセスの改善−

バングラデシュでは、GDPの17パーセント、就業人口の45パーセントを農業が占め、全農家世帯の8割、総作付面積の5割を小規模・零細農家が占めています。現在は穀物の自給率100パーセントを達成していますが、今後の人口増加にともなう需要増加や、都市化にともなう耕作地の減少から、農業生産性を高めていく必要があります。また、農家の生計向上のためには作物の多様化も進めていく必要があり、これら農業支援のために政府による農業融資が拡充されています。しかし、これらは主に担保を必要とする銀行融資であり、小規模・零細農家は融資を得にくい状況にあります。「小規模農家農業生産性向上・多様化振興融資事業」は、マイクロファイナンス機関による融資を支援することで、小規模・零細農家の金融アクセスを改善します。また、マイクロファイナンス機関を通して借入農家に対する農業技術指導を行い、農業生産性向上を支援します。本事業によって、約50万人の農家が融資を受け、一戸当たりの農業収益が30パーセント向上することを見込んでいます。また、融資対象の50パーセント以上を女性とし、金融アクセス改善による女性の社会的地位向上に貢献します。

(3)天然ガスの安定供給と効率的なガス利用に貢献−国産の天然ガスを有効活用−

バングラデシュの国産天然ガスは、発電用をはじめ(発電設備の約7割はガス発電)、工業・商業から家庭用まで幅広く利用され、バングラデシュの経済発展を牽引するとともに国民生活に直結する必要不可欠なエネルギー源となっています。しかし、急速な経済成長にともなう需要の伸びと、新規ガス田の開発遅延により供給が制限されていることによって、天然ガスの需給ギャップが発生しており、さらなる経済発展のボトルネックとなっています。また、ガス関連施設の整備の遅れによる不安定なガス供給や、家庭用ガスの料金が安価に固定されていることによる家庭用ガスの浪費等が、問題とされています。「天然ガス効率化事業」では、ガスコンプレッサー、送ガス管、ガスメーターなどの機材・施設を整備して、ガスの安定供給と効率的な利用を図り、ガスの需給ギャップを緩和することによってバングラデシュの経済活動の活性化に貢献します。

(4)中核都市の経済活動を支援−都市インフラの改善と行政サービスの向上−

バングラデシュ全土に11ある中核都市(シティ・コーポレーション)は、産業の集積地として国の発展を牽引する重要な経済活動の場となっています。中でも、チッタゴン市と2011年以降に新設された4つの中核都市(北西部のロングプール市、首都ダッカ近郊のガジプール市およびナラヤンガンジ市、ダッカ−チッタゴン間の要所であるコミラ市)は、全国に8区ある輸出加工区の半数が集中し、またベンガル湾から内陸部への水陸交通の中継地になっていることから、特に重要拠点となっています。しかし、毎年2.9パーセントの伸びで人口が増加している中核都市では、道路や排水溝などの都市インフラの整備が遅れており、著しい交通渋滞や都市環境の悪化の原因となるなど、経済活動の阻害要因となっています。また、中央省庁と地方自治体の行政機能の役割分担が明確でないため、開発事業や行政サービスの提供が効率的に行われていないことも大きな課題となっています。「包括的中核都市行政強化事業」は、これら5都市において都市インフラの整備と行政官への研修・技術指導を行うことで、都市環境の改善と行政サービスの向上を支援します。これにより、ビジネス拠点である中核都市の経済発展と都市部住民の生活向上に貢献します。

(5)ハオール地域の洪水被害の軽減−洪水対策と住民の生計向上を支援−

バングラデシュは、三つの国際河川(ガンジス川、ブラマプトラ川、メグナ川)が流れ込むデルタ地帯に位置し、毎年雨季には河川の氾濫によって国土の20パーセント以上が浸水します。特に、北東部のメグナ川上流域にはハオールと呼ばれる低湿地帯の盆地が広がり、雨期には東京都、神奈川県、埼玉県の合計を超える面積が水没し全体が大きな湖のようになります。住民は点在する微高地に生活し、乾季の稲作を主な収入源としていますが、一期作のため生産性が多くない上に、稲の収穫期である雨季の始まりにはフラッシュ・フラッド(鉄砲水)による洪水被害が発生し、住民の生計を不安定にしています。また農村道路等インフラ整備も遅れており、アクセスが悪いため経済活動に支障があるほか、保健医療や教育といった公共サービスも受けにくい状況にあります。「ハオール地域洪水対策・生計向上事業」は、ハオール地域で洪水対策施設と道路や市場、船着き場などのインフラの修復・建設を行うとともに、同地域の主な生計手段である農漁業の生産性向上のための支援を行います。これにより、ハオール地域の洪水被害を軽減し、人々の生活水準の向上と地域経済の活性化に貢献します。

(参考)

借款金額および条件

案件名 借款金額
(百万円)
金利(%/年) 償還期間
(年)
据置期間
(年)
調達条件
本体 コンサルティング・サービス
マタバリ超々臨界圧石炭火力発電事業(I) 41,498 0.01 0.01 40 10 一般アンタイド
小規模農家農業生産性向上・多様化振興融資事業 9,930 0.01 0.01 40 10 一般アンタイド
天然ガス効率化事業 23,598 0.01 0.01 40 10 一般アンタイド
包括的中核都市行政強化事業 30,690 0.01 0.01 40 10 一般アンタイド
ハオール地域洪水対策・生計向上事業 15,270 0.01 0.01 40 10 一般アンタイド