イラク共和国向け円借款契約の調印

−イラクの本格的な経済社会復興に貢献を−

2015年6月30日

国際協力機構(JICA)は、6月29日、イラク共和国政府との間で、計2件、総額881億8800万円を限度とする円借款貸付契約に調印しました。これによりイラクとの間で交わされる円借款貸付契約は、計23件となり、イラク向け円借款の支援総額は5,000億円を超えました。

今次貸付契約を調印した2件のうち、「電力セクター復興事業(フェーズ2)」は、イラク国内でも特に電力需要が高い中部および南部において、送変電設備の復旧を実施するものです。「クルド地域下水処理施設建設事業(I)」は、クルド地域初の本格的な下水道システムの整備を図るものです。

イラクでは、1980年代以降の度重なる戦争および経済制裁などにより、経済の基盤となるインフラ施設の未整備および老朽化が未だ深刻であり、膨大な復興ニーズを抱えています。戦後10年以上が経過した現在も、イラクの国民は劣悪な環境のもとでの生活を余儀なくされています。電力セクターは、あらゆる経済・社会活動の基盤であるにもかかわらず、慢性的な電力供給不足の状態であり、社会安定回復と経済復興の大きな障害となっています。また、下水道セクターに関しては、イラクの下水道普及率は全国平均で約3割強となっており、汚染された水の使用に起因する下痢や感染症等の被害も各地で報告されています。

今般貸付契約を調印した2件の円借款事業は、イラクの本格的な経済社会復興に向け人々の生活や民間セクターの活動に直結する電力・下水道分野を支援するものであり、持続的な復興開発に寄与するものです。

JICAは今後とも、円借款を柱としつつ技術協力などとの相乗効果を図りながら、イラクの開発課題に対して積極的に取り組んでいく方針です。

(参考)借款金額及び条件

案件名 借款金額
(百万円)
金利(%/年) 償還期間
(年)
据置期間
(年)
調達条件
本体 コンサルティング・サービス
(1)電力セクター復興事業(フェーズ2) 53,771 0.95 0.01 20 6 一般アンタイド
(2)クルド地域下水処理施設建設事業(I)※ 34,417 0.1 0.01 40 10 日本タイド

※(2)はSTEP(本邦技術活用条件)を適用

(1)「電力セクター復興事業(フェーズ2)」
Electricity Sector Reconstruction Project (Phase 2)

(a)事業の背景と必要性
イラク国では、1980年代以降、3度にわたる戦争と長年の経済制裁の影響により、発電所や送配電施設等の電力インフラの破壊と老朽化が進行しました。2003年のイラク戦争終結以降、電力インフラの復旧は徐々に進捗しているものの、現在イラクでは16,000〜18,000メガワット程度の電力需要に対して、約12,000メガワットの電力供給能力に留まっており、1日10時間以上の停電も珍しくありません。また、2003年以降、徐々に復興が進んではいるものの、湾岸戦争時の既存の送配電網の破壊や整備不足等により、送配電時の電力損失率は約35パーセントと、他の中東諸国と比較して著しく高い状況が続いています。このような状況の下、十分かつ安定的な電力供給が喫緊の課題となっています。

(b)事業の目的及び概要
本事業は、イラク国内において、送変電設備を整備することにより、電力供給の安定化を図り、もって同国の経済・社会復興に貢献するものです。借款資金は、変電所の建設、送配電設備復旧、コンサルティング・サービス等に充当されます。なお、本借款は治安情勢や復興ニーズに速やかに対応するため、セクターローン形式で供与され、今後サブ・プロジェクトを決定する予定です。

(c)事業実施機関
イラク電力省(MOE: Ministry of Electricity)
住所:MOE Building, Baghdad, Iraq

(d)今後の事業実施スケジュール(予定)
(i)事業の完成予定時期:2019年8月(試運転確認時をもって事業完成)
(ii)コンサルティング・サービス(基本設計等)招請状送付予定時期:2015年9月
(iii)本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
調達パッケージ名:本体工事(Construction and Procurement of Equipment)
予定時期:2016年8月

(2)「クルド地域下水処理施設建設事業(I)」
Sewerage Construction Project in Kurdistan Region(I)

(a)事業の背景と必要性
イラク共和国では、2003年のイラク戦争終結以降、高い経済成長、人口増加が続き、石油関連産業等の経済インフラについても整備が進められつつあります。一方、下水道分野は80年代までに多くの施設が整備されましたが、80年代前半以降のイラン・イラク戦争、湾岸戦争、経済制裁、イラク戦争等により、下水道施設の更新・維持管理が殆ど行われておらず、下水処理場や管渠の機能低下が著しい状況です。イラクの下水道普及率は全国平均で約3割強に留まっています。
特に、人口増加率が年3.5パーセントを記録し、急激に都市化が進むクルド地域の中心都市エルビル市では、し尿を地下浸透させており、飲料用水源である地下水の汚染リスクが懸念されています。雑排水は近年整備された雨水管渠を通じ市外に放流されているものの、下水処理場は設置されておらず、希釈された雑排水が公共水源となる河川にそのまま流入し、病原菌の拡散や水質の悪化の原因となっています。農業を営む周辺地域では灌漑用水として河川水を利用しているため、健康被害の発生が懸念されています。

(b)事業の目的及び概要
イラク北部のクルド地域エルビル市にて、下水道システムを整備することにより、下水処理能力の向上を図り、もって同地域の衛生環境の改善、水資源の確保・有効利用に寄与するものです。本借款は、本邦技術活用条件(STEP(注))を適用するもので、維持管理性に優れ、電気代を大幅に削減できる省エネ効果の高い下水処理システムや、管渠の敷設工期を短縮する推進工法等の日本の技術を活用して推進される事業となります。本借款の貸付資金は、下水処理施設の建設工事、下水管網の整備にかかる資機材調達およびコンサルティング・サービス(入札補助、施工監理等)に充当されます。なお、詳細設計についてはJICAの技術協力により作成される予定です。

(注)Special Terms for Economic Partnershipの略。我が国の優れた技術やノウハウを活用して途上国への技術移転を通じて我が国の「顔の見える援助」を促進するために創設された円借款の供与条件。

(c)事業実施機関
クルド地域自治・観光省(MOMT:Ministry of Municipalities and Tourism, Kurdistan Region)
住所:The City Center, Erbil Governorate, Kurdistan Region, Iraq

(d)今後の実施スケジュール(予定)
(i)事業の完成予定時期:2023年12月(保証期間完了時をもって事業完成)
(ii)コンサルティング・サービス(施工監理等)にかかる招請状送付予定時期:2015年9月
(iii)本体工事に係る国際競争入札による最初の調達パッケージ入札公示:
調達パッケージ名:下水道施設の建設工事(Construction of Sewerage System)
予定時期:2016年11月