海外経済協力基金プレスリリース

通貨危機後のタイを緊急支援—基礎インフラ整備による雇用創出(約27万人/月)と、内貨融資による既往案件の円滑な実施を支援—

Press Release:98/07/31

 OECF (総裁 篠沢 恭助)は、タイ王国における「社会投資事業」及び「既往案件内貨融資事業」の2案件の所要資金として、総額498億2,500万円を限度とする貸付けを行うことを決め、1998年7月31日、借款契約に調印した。これは「アジア支援策」(1998年4月政府発表)の一環として、通常の年次借款から切り離し、緊急分として前倒しで供与するものである。

調印は、バンコクのタイ大蔵省で行われ、OECFを代表して篠沢 恭助総裁が、各借款の借入人を代表して、タリン・ニンマンヘーミン(Mr.Tarrin Nimmanahaeminda)大蔵大臣、プラパット・チョンサングゥアン(Mr.PrapatChongsanguan)首都圏高速鉄道公社総裁、ビブンヤ・クヒルン(Mr.Vibulya Kuhirun)地方配電公社副総裁、スラブット・ダマシリ(Mr.SaravudhDhamasiri)タイ国有鉄道総裁が署名することによって行われた。
この結果、OECFのタイ王国に対する貸付承諾累計は、212件、1兆5,334億5,900万円となった。

今回の借款は、タイがIMFとの合意に基づいて経済困難克服のため推進している構造調整努力への支援を目的として実施するものであり、本年6月19日に太田駐タイ国特命全権大使より、タリン蔵相に対し供与を表明したものである。

各借款の金額及び条件は以下の通りである。

1. 借款金額及び条件

案件名金額
(百万円)
金利
(%/年利)
償還期間(年)
(うち据置)
調達条件
社会投資事業13,4121.0*25(7)一般アンタイド
既 往 案 件 内 貨
融 資 事 業
(i) 地方幹線道路網改良事業(2)1,6002.225(7)一般アンタイド
(ii) バンコク地下鉄建設事業29,7920.75**40(10)**一般アンタイド
(iii) 地方配電公社事業2,0422.225(7)一般アンタイド
(iv) 国鉄軌道改良事業2,9792.225(7)一般アンタイド

36,413   
合計

49,825   

* 構造調整借款特別金利
** 特別環境案件金利

2.今次緊急借款の考え方

 タイ経済の現状と、タイ政府が実施している経済再建努力(《参考》タイの経済情勢 参照)を踏まえ、当面の通貨・経済危機を乗り越えるためのタイ政府の政策を支援するとともに、タイの中・長期的な発展基盤整備のための支援を継続していくため、今次の緊急円借款を供与することになったものである。
今次緊急借款は、特に深刻な失業問題に対処し、経済構造調整下におけるソーシャルセーフティーネットを付与すること、及び、投資予算削減の中、事業進捗への遅れが懸念される既往円借款事業の実施を促進するための内貨費用支援を行うことにより、事業効果の発現を図ることを目的としている。

3.事業概要

(1)社会投資事業   Social Investment Project

(i) 事業の必要性
タイ政府は、97年7月に顕在化した通貨・経済危機を克服するために、国際通貨基金(IMF)等による国際金融支援を受けつつ包括的経済再建策を着実に実施している。他方通貨・経済危機は経済成長の大幅低下など大きな影響を及ぼしており、今年に入ってからも失業者が、98年1月15日時点では132万人と推定されていたのに対し、3月末では189万人(何れも労働社会福祉省等の調査に基づく)へと急増するなど、深刻な状況が続いている。
タイ政府は第8次五ヶ年計画の目標でもある地方分権化・民衆の社会参加や経済構造改革を中・長期的視点から進めるとともに、経済危機とその後の緊縮財政政策により大きな影響を受けている社会的弱者に対する支援が早急に必要であるとの認識を持っている。このような状況下において、短期的には失業者や貧困者に対して深刻な被害が及ばないよう、適切なソーシャル・セーフティー・ネットを付与することが重要となっており、本事業はそのような観点からタイにとって重要なインフラ整備事業を支援することにより、雇用の創出等を図るものである。本円借款は、タイ政府が重視する雇用創出効果の大きいセクターのうち、緊急支援の効果が発現され易いと考えられる1)地域開発・観光基盤整備 及び2)小規模灌漑施設修復・改良に関するサブ・プロジェクト(小さなプロジェクト)を対象としている。

(ii) 事業の内容
本事業は、タイ政府が従来から行っている小規模公共事業のうち、雇用創出効果の大きい基礎インフラ整備等を円借款事業として行う、プロジェクト型セクター・ローンである。具体的には以下のサブ・プロジェクトを行う。
1) 地域開発・観光基盤整備(約150プロジェクト)

a) 公園整備、湖岸・河岸整備、遊歩道整備、電灯整備、駐車場整備、標識設置、遺跡修復、給水・排水整備
b) 道路の拡幅・舗装・修復、橋梁建設
c) 観光サービスセンター建設、休憩施設建設、公共トイレ設置
d)観光産業技能者研修

2)小規模灌漑施設修復・改良(約600プロジェクト)

e)貯水池/ダム:法面・護岸の一部崩壊への対処、滞砂対策
f) 堰:法面・護岸の一部崩壊への対処、滞砂対策
g) 制水工(ゲート):水衝部の洗掘・漏水対策、ゲートの修復・改良等
h)水路:滞砂、漏水等の対策及びライニングの修復・改良

(iii) 事業の効果
サブ・プロジェクトの選定にあたっては、(イ)タイに長期的な便益をもたらす基礎インフラ事業であり、労働集約的事業であること、(ロ)経済危機により悪影響を受けた地域の事業であること、(ハ)設計、建設が早急に実施できる程度の規模の事業であり、建設に伴うリスクが小さいこと、(ニ)観光セクター又は農業セクターに便益をもたらす事業であること、(ホ)環境面・社会面での問題がないこと等を基準に選定を行っており、経済危機や経済構造改革により進捗が遅れている可能性のあるインフラ整備や失業者・貧困者等、約27万人/月の雇用の拡大が期待されている。

本事業は世界銀行、国連開発計画(UNDP)等との協調融資案件である。
なお、本事業の借款資金は土木工事、コンサルティングサービス(進捗監理、経済・社会的効果の調査、ディスバース監理、事業調整並びにOECFへの報告)等に充当される。
事業実施者は、農業協同組合省王立灌漑局(RID:Royal Irrigation Department, Ministry of Agricultureand Cooperatives、住所:Samsen Road, Dusit Bangkok 10300, Thailand、電話:662-241-0740、FAX:662-241-2688)、及びタイ観光公社(TAT:TourismAuthority of Thailand、住所:202, Le Concorde Building, Rajchadapisek Road, Huaikwang,Bangkok 10320, Thailand、電話:662-694-1222、FAX:662-694-1220)である。


ソーシャルセーフティーネット:経済構造調整は、政府財政の建て直しのために、増税など国民、特に貧困層等に痛みを生ずる政策を伴う場合が多い。そのため、いわゆる社会的弱者を救済することに標的を絞った形での社会政策措置を同時に実施することが構造調整の成功のためにも重要であり、かかる措置をソーシャル・セーフティー・ネットと呼んでいる。(back)

地域開発・観光基盤整備:タイにとって外国人観光客からの収入は大きな外貨獲得源となっている。近年タイではバンコク首都圏よりも地方観光の比重・重要性が高まってきており、地方の観光資源の開発・整備が急務となっている。またタイ観光においては、土産物等の販売収入が観光収入の最大項目となっていることから、地方における産業振興の観点からも地方観光基盤整備による観光開発が重要である。(back)

小規模灌漑施設修復・改良:タイはもともと農業を経済基盤として発展してきた国で、国民総生産や輸出に占める割合も依然高い。今日でも国民(就業者)のほぼ3分の2は農業に関係している。経済危機下においては、都市部における雇用吸収力の減少・失業者の増大により、都市部から農村部に戻り職を求める者の数が急増していることから、かかる帰村者を労働力として活用し、農業生産力を高めることが必要になってきている。(back)


(2)既往案件内貨融資事業
Local Cost Financing Program for OECF On-Going Projects

(i) 事業の必要性
昨年来の通貨・経済危機の影響で、タイ政府の歳入額が予算額を下回り、円借款事業におけるタイ政府負担部分の確保が困難になってきていることや、起債マーケットの収縮現象等により国営企業の資金繰りが厳しい状態になっていることにより、円借款による支援を実施している開発事業の進捗にも支障をきたし、その結果として事業効果の発現が遅れることが懸念されている。
これに対し、日本政府は「東南アジア経済安定化等のための緊急対策について」(2月20日閣議決定)等において、円借款対象案件の内貨費用部分に対する支援の強化を打ち出した。これは、既往円借款事業の継続的な実施を支援することが、同事業効果の発現のためには重要であるとの観点から、既往円借款案件の内貨費用のうち、当初タイ政府が負担する予定であった費用の一部に対して円借款資金を充てるものである。

(ii) 事業の内容
本事業においては、タイ側より内貨融資強化につき要請のあった案件のうち、当初の借款契約金額内での内貨支援強化措置では対応が困難である下記の案件に対し、追加的に借款の供与を行なうものである。

<追加融資対象案件>

案件名

     今次追加融資額(内訳)      (百万円)

地方幹線道路網改良事業(2)1,600
バンコク地下鉄建設事業、
バンコク地下鉄建設事業(2)
29,792
PEA送電網拡充事業(4)
地方配電網増強事業(5−2)
(477)
(1,565)     小計 2,042
国鉄軌道改良事業
国鉄軌道改良事業(2)
国鉄軌道改良事業(3)

(1,504)
(739)
(736)      小計 2,979

 

合計 36,413

タイ政府負担部分:  タイ政府が自国通貨で調達できる事業費の一部を負担する自助努力部分。(back )


(iii) 事業の効果
通貨・経済危機や経済構造改革により、円借款対象事業の実施のために必要な内貨予算の確保が困難となっている事業につき、その円滑な実施を確保するとともに、事業効果発現へ寄与することを目的としている。本借款の供与により事業中断要因(内貨費用の不足)が解消されることから、円滑な事業の実施が見込まれるとともに、所期の事業効果発現が期待される。また、土木工事等が継続されることにより、失業の発生を回避することも期待されている。なお、現在実施中の円借款事業が対象であることから、その効果は緊要性及び即効性があると考えられる。

本事業の借款資金は上記案件のうち、当初内貨にて行われる予定であった資機材調達、土木工事、コンサルティング・サービス等に充当される。

事業実施者は、地方幹線道路網改良事業(2)が、運輸通信省道路局 (DOH:Department of Highways, Ministry of Transportand Communications、住所:Sri Ayudhya Rd., Phyathai, Bangkok 10400, Thailand、電話:662-246-1122,FAX: 662-245-5273)、バンコク地下鉄建設事業が首都圏高速鉄道公社 (MRTA:Metropolitan Rapid Transit Authority、住所:175Rama IX Road, Huai Khwang, Bangkok 10320, Thailand、電話:662-246-5733, FAX: 662-246-2942)、PEA送電網拡充事業(4)及び地方配電網増強事業(5-2)が地方配電公社(PEA:Provincial Electricity Authority、 住所:200 Ngam Wong Wan Road., Chatuchak,Bangkok 10900、電話:662-589-0100, FAX: 662-589-4859)、国鉄軌道改良事業がタイ国有鉄道 (SRT:StateRailway of Thailand、住所:Rongmuang Road, Pathumwan, Bangkok 10330、電話:662-824-4174,FAX: 662-226-2619)である。

なお本既往案件内貨融資事業で対象とする既往案件以外にも、内貨支援強化を必要としている案件があり、そのうち10案件については、当該既往借款契約の契約内容の変更により、総額75億円程度の内貨支援強化を行うこととしている。


(参考)タイの経済情勢


97年7月に顕在化した通貨・経済危機を克服するため、タイ政府はIMF等からの国際金融支援を受けつつ経済再建に取組んでおり、タイ政府とIMFとの間で数次にわたり経済状況のレビューが行われている。

(1) 経済成長率
本年5月下旬にタイ政府の閣議で承認されたIMFに対する第4回の政策意図表明書においては、98年の経済成長目標値が−4〜−5.5%と下方修正されている。これはIMF監視下で取られた緊縮的な財政・金融政策の影響で経済活動が収縮しており、国内需要が予想以上に低迷していることを示している。

各回のIMFに対する政策意図表明発出時における経済指標目標値
 1996
(実績)
19971998
第1回
97/8時点
第2回
97/11時点
実績値
98/5推定
第1回
97/8時点
第2回
97/11時点
第3回
98/2時点
第4回
98/5時点
経済成長率(%)
消費者物価上昇率(%)
中央政府収支(対GDP比)
歳入(対GDP比%)
歳出(対GDP比%)
公共部門収支(対GDP比%)
輸出成長率(%,$ベース)
輸入成長率(%,$ベース)
経常収支($10億)
対GDP比(%)
資本収支($10億)
外貨準備高(10億$)
6.4
5.9
2.2
19.1
16.8
2.7
-1.3
1.8
-14.4
-7.9
18.0
38.7
2.5
7.0
-1.1
17.3
18.4
-1.6
2.8
-6.1
-9.0
-5.0
-16.4
23.0
0.6
6.0
-0.9
17.6
18.5
-1.5
3.2
-9.3
-6.4
-3.9
-17.9
23.0
-0.4
5.6
-0.9
18.3
19.2
-2.1
3.8
-13.4
-3.0
-2.0
-15.6
27.0
3.5
8.0
1.0
17.8
16.8
1.0
8.6
1.6
-5.3
-3.0
1.8
24.5
0〜1
10.0
1.0
16.6
15.6
1.0
7.9
0.2
-2.5
-1.8
0.3
24.8
-3〜-3.5
11.6
-1.6
16.1
17.7
-2.0
6.2
-7.7
4.4
3.9
-12〜-14
23〜25
-4〜-5.5
10.5
-2.4
15.5
17.9
-3.0
1.4
-17.7
8.5
6.9
-14〜-16
26〜28

出所:各回Letter of Intent他より作成。

(2) 物価
98年の平均消費者物価上昇率(推定)については、米・穀類など食品の物価上昇等に伴い前年の5.6%から10.5%へ上昇すると見込まれており、特に低所得者層への影響が懸念される。

(3) 財政収支
経常収支を改善させ、通貨危機を乗り切るために緊縮財政措置が取られている。98年度の歳出予算は、投資予算が前年度比33%減と大幅に削られるなど、総額で前年度比13.5%減の超緊縮型予算となっている。歳入面では民間企業収益の落ち込みに伴う法人税収の大幅減、国営企業の収支悪化等により減収が見込まれる。しかし、98年5月のIMFとタイ政府の第3回目の政策レビューにおいて、輸入の急減により経常収支が予想以上に改善されており、財政赤字の為替レートへの影響を一部相殺し得ること、また公共事業の削減により失業問題が深刻化しており、セーフティーネットに関する支出増の必要性が高いことから、98年度の公共部門全体の赤字のGDP比を、98年2月時点の目標値である−2%から更に下方修正し、−3%とすることが認められた。また99年度の公共部門全体の赤字についても、−2.5%とすることがIMFとの間で合意された。

(4) 国際収支
経常収支は昨年9月以降黒字基調となっており、これがIMFを中心とした国際金融支援による資本流入と併せ、民間資本の流出を相殺するのに役立っている。しかし経常収支の改善は、輸出増というよりも、国内需要低迷に伴う輸入減によるところが大きい。輸出が伸び悩んでいるのは、農産品や工業製品の価格の低落や、外需の縮小、アジア各国の通貨の下落、また金融改革の自己資本増強、不良債権処理の副作用として、輸出者が資金確保に困難を来していることが原因として挙げられる。

(5) 雇用
労働社会福祉省によれば、失業者数は、98年に入りバーツ相場が安定して以降も増加を続けており、新卒者が労働市場に流入した3月末時点では、189万人へと増加している。98年の四半期毎の経済成長率見込みから、タイ政府は98年半ば以降に失業問題が最悪期を迎えると予想しており、ソーシャル・セーフティー・ネットの拡大が急務となっている。

(6) 金融
1997年7月の通貨危機発生以降、流動性不安が顕在化しており、間接・直接金融両面とも資金調達が困難な状況にある。資本市場については、公共債は発行総額が対前年同月比▲63.2%('98/1),▲38.9%('98/2)と低水準で、社債についてもタイの会計97年度には18.4億バーツと前年比▲66%と減少している。また、貸出金利は第一四半期末の債券リパーチェス市場金利が19.75%(前年同平均22.36%)、3月時点のインターバンク金利は20.57%(前年同平均21.73%)、及びMLR(最優遇貸出金利)は15.25%('98/2末〜前年同平均14.63%)と依然高水準にある。
円借款事業の借入・実施主体である国営企業については、主として起債およびタイ国内銀行からの借入れにより事業資金を調達していることから、円借款に係る事業資金の調達が困難となり、事業の進捗に支障を来すことが懸念されている。