テグシガルパ市の4つのコミュニティで土砂災害防災マップ作りが行われました

2019年5月21日

2019年5月21日に、テグシガルパ(Tegucigalpa)市の4つのコミュニティを対象とした第1回土砂災害防災研修が開催され、ホンジュラス緊急事態対策常設委員会(COPECO)、テグシガルパ市役所、地域住民を併せた計43名が参加し、土砂災害防災マップ作りが行われました。

テグシガルパ市は標高1,000mの山間部に位置するホンジュラスの首都で、先住民の言葉で「銀の山」を意味します。この地に首都が建設されたのは、この地で採れる金銀などの鉱業開発を行うためでしたが、鉱山が閉山されたあとも首都であるが故に人口の流入が続きました。山間の盆地にあるということで、人が住める場所は限られていますが、それでも人口流入が続くことから、本来住むべきではない災害が起こりやすい場所に居住する結果になっています。
中米広域防災能力向上プロジェクトフェーズ2(BOSAI2)において、ホンジュラスのパイロットコミュニティになっているラカバーニャ(La Cabaña)地区、アルトスデラカバーニャ(Altos de la Cabaña)地区、エルエデン(El Edén)地区、アルトスデエデン(Altos del Edén)地区も山の斜面に形成されたコミュニティであり、2008年には大規模な地滑りが発生した地域です。

さて、こうした地域でなすべき防災対策には何があるでしょうか。まず考えられるのは、危険な地域に人が住まないようにするソフト対策です。例えば土地利用計画を策定し、危険な地域に人々が住み始めないように規制したり、既に住んでいる人を立ち退かせて、別の安全な場所に住んでもらうようにする対策です。

次にハード対策を実施し、災害の危険のある地域でも住み続けられるよう、その地域の災害リスクを減らす対策が考えられます。土砂災害であれば日本は様々なハード対策工法の知見を有しており、これまでにホンジュラスでは、JICAの支援で土砂災害ハード対策に関する様々なプロジェクトを実施しています。
(「首都圏地滑り防止計画」については下記リンクを参照)

これらの防災対策は大変重要ですが、莫大な予算が掛かるという課題があります。日本では、都道府県レベルで土砂災害の危険のある地域(土砂災害警戒地域)の中でも、特に危険の高い土砂災害特別警戒区域を指定するための全国調査が実施され、すでに全国で40万か所以上の区域が指定されました。これらの区域にある住居には、移転を促進させる補助金制度などがありますが、適用できるのはあくまで特に危険の高い地域のみということになります。また40万か所全てにハード対策を施す、或いは住民移転を推進するとしても、こうした行政側の防災対策を実現させるには日本においても莫大な予算と多くの時間が必要とされます。しかしながら災害はいつ起こるか分かりません。また、地球温暖化・気候変動等の影響で集中豪雨が増加する傾向にある中、過去の災害を超える規模の土砂災害が日本でも発生し、ハード対策だけでは人命を守ることが年々難しくなってきています。

ホンジュラスも同様で、特にテグシガルパ市には多くの土砂災害の危険を有する地域があり、これら行政が主導して行う対策だけでは、全ての危険地域をカバーすることはできません。
そこでこれらの行政側の防災対策とともに、災害が起こった時に住民の適切な避難を促す事前の取り組みが重要になってきます。BOSAI2プロジェクトでは、こうした住民避難を促す避難対策の取り組みが行われています。

今回の第1回土砂災害防災研修では、初めに土砂災害の基本的な知識が日本人専門家から紹介されました。日本では土砂災害を大きく、1)土石流、2)急傾斜崩壊(崖崩れ)、3)地滑りの3つに分類しており、それぞれの特徴をビデオなども交えて解説していきました。この解説を通じ、住民はこの地域で発生した土砂災害は3)地滑りであり、雨が大きく関係していることを理解しました。

次に、住民自身の土砂災害経験の聞き取りが行なわれました。結果として、2008年の地滑りの他に、1968年頃にも地滑りがあったこと、また地域の教会が過去には別の場所にあり、それが地滑りにより倒壊してしまったことなども分かりました。
こうした経験を持っているのは、主にその地域に長く住む年配の住民です。一方で、若者の参加者に1968年の地滑りについて聞いたところ、全員知らなかったとのことでした。この研修ではこうした世代間の災害履歴の伝承も目的の一つとなっています。

本研修の目的の一つに、過去に土砂災害が起こった際の状況を知ることがあげられます。洪水・地震・津波などと異なり、土砂災害は局地的に発生することから、特に小規模な土砂災害履歴ほど行政側での把握が難しい状況です。他方、地域住民は、行政側で把握していない多くの経験を有していますので、こうした知見が防災予防に活用可能です。
例えばこの地域の経験では、ホンジュラスで甚大な被害をもたらした1998年のハリケーンミッチの際の被害よりも、2008年の長雨の後に発生した地滑りの被害が大きかったということです。
日本人専門家から土砂災害発生前によく見られる予兆現象例の説明後、そのような現象がこれまでに確認された場所を地図にまとめていきました。

本研修の特徴は、専門家からコミュニティの住民に土砂災害の知識を伝達するだけではなく、地域の危険に関する多くの住民の経験を地図に落とし込み、それら個人経験を地域の知恵として取りまとめていくことにあります。
第1回研修は、受講された方から、非常に好評のうちに終了しました。第2回研修では地域の知恵を活用した避難計画作りを行い、最終的には避難訓練を実施する予定です。
BOSAI2プロジェクトでは、引き続きこれらコミュニティレベルでの避難体制を構築・普及する活動を支援していきます。

作成:川東英治長期専門家、杉本要長期専門家(文責)

【画像】

緊急事態対策常設委員会(COPECO)、市役所職員も参加。防災には公的機関と住民の関係を密にすることが重要

【画像】

研修では、住民が積極的にディスカッションに参加する様子が見られた