保護者・生徒合同の津波防災教育を実施し、200人以上が参加しました-子供の安全をキーワードとした防災活動の実施-

2019年8月8日

2019年8月8日に、レオン(Leon)市のサリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区の2つの小学校にて、保護者・生徒合同の津波防災教育が実施され、保護者約80名、生徒約150名が参加しました。

サリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区では、これまでもコミュニティ住民に対して様々な津波防災活動を実施してきましたが、ひとつ大きな課題を抱えていました。それは「防災活動に参加する住民がいつも同じ」という課題です。そこで、様々な方策で広く一般住民の参加を推進していましたが、大きなヒントを与えてくれたのが、年に1回同地区で開催する津波防災祭り(注)です。
2019年で第9回を迎えた同イベントでは初めて学校と連携し、学校からの案内で生徒の参加を推奨しました。すると、多くの生徒の参加はもちろんなのですが、生徒を連れた保護者の参加も多数確認することができました。「防災に関係なく、子供に関わることは気になる」という保護者の心理が分かったため、早速保護者を巻き込むための準備に取り掛かりました。

まず津波防災教育を実施する上で、学校との調整は必須です。そこで教育省のレオン(Leon)市事務所と連携し、サリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区にある2つの小学校との協議を設定しました。しかもその日は、月1回の保護者協議の日だったのです。日本人専門家から、特に保護者に向けて次のような説明と問い掛けが行われました。
「東日本大震災前に津波常襲地域である三陸地方の学校を訪問し、一人の女の子に『ここは津波が来る地域だって知ってる?』『大きな揺れを感じたり、津波警報を聞いたりしたら逃げる?』と聞いたところ、『津波のことは知ってるよ。でも逃げないよ。』と女の子は答えたそうです。『なんで逃げないの?』と再度聞いたところ、『だって、うちでは誰も逃げないもん。おじいちゃんもお父さんも。』と答えました。次の津波が来て、この女の子の命が奪われたとしたら、それは誰の責任だと思いますか?」
この言葉だけで保護者の方々は何が大事なのかをすぐに理解しました。「子供は親の背中を見て育つ」というように、親の行動は将来の子供の行動に直結します。今の親御世代が逃げる姿勢を見せなければ、将来の子供たちに逃げない習慣・文化を伝えてしまうことになってしまうのです。

日本人専門家から「子供たちの将来の安全のために、みんなで津波について学びませんか?」と確認したところ、全会一致で保護者も含めた津波防災教育の実施が決まりました。
とはいえ、当日はどれだけ保護者が集まるのか不安だったのですが、それも杞憂に終わり、80名もの保護者に参加してもらえました。その多くは、これまでサリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区の津波防災活動に参加したことがない人たちです。防災や災害に関する情報はネガティブな情報として認識されがちで、その場合「正常化の偏見」という不都合な情報を過小評価する心理特性が人には働きます。多くの保護者も、これまでは津波のことを過小評価して参加に消極的だったことが考えられます。しかし今は明確な目標があります。それは「津波のことをよく知り、自分だけではなく将来世代にまで津波に備える文化を構築する」ことです。

今回はその第1段階として、津波のメカニズムを中心に津波の基礎知識を学びました。次回は津波早期警報システムの仕組みと住民の役割、及び東日本大震災の事例を基に避難をしない住民心理について学ぶ予定です。
サリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区に津波に備える文化を構築する取り組みは一朝一夕には完成しませんが、今から始める現役世代の努力が将来世代の安全を高めることに繋がるのです。

BOSAIフェーズ2では、コミュニティ住民・学校・市役所・教育省、そして防災機関であるニカラグア国家災害管理・防災システム局(CD-SINAPRED)と連携し、サリーナスグランデス(Salinas Grandes)地区をはじめ、ニカラグア全土で災害に備える文化を構築する取り組みに引き続き貢献していきます。

作成:川東 英治(長期専門家)

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学校の先生による防災教育実施の挨拶

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参加者の様子

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真剣に話を聞く保護者と生徒たち

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日本人専門家による津波のメカニズム講義