園芸作物の病虫害調査を行いました(2017年9月〜11月)

2017年11月29日

ブータンは九州ほどの大きさの小国ですが、南はインド平原と接する標高約100mから北は7500mを超えるヒマラヤ山脈まで変化に富んだ自然環境と多様な植生/生物に恵まれています。この変化に富んだ急峻な山岳地形の中、主に標高200〜3000mの地帯で農作物の栽培が行われていますが、作物栽培には病虫害はつきものであり、豊な生物多様性は農業にとっては野生動物や病害虫による被害リスクの大きさをも意味します。小規模で粗放的な自給自足的農業が行われていた時代はそれほど深刻な問題ではありませんでしたが、近年園芸作物を中心に商業的農作物栽培が拡大するにつれて獣害・病虫害被害も増大し、農家にとっては灌漑用水に次いで大きな問題になっています。
このうち、獣害については電気柵の導入が進められ一定の効果を収めていますが、病虫害についてはブータン国が推進する有機農業や殺生を忌避する宗教的価値観もあり、体系だった積極的な対策は取られておらず、現場レベルで病虫害診断や対策を助言できる人材は育っていません。
今回、プロジェクトが普及を進めている野菜・果樹に発生する病虫害の状況を網羅的に調査するとともに、カウンターパートに対して病虫害診断・対策に必要な知識・技術を指導し、化学農薬を自由に使用できないという状況下で実施可能な防除対策を検討するため、9月上旬から病虫害対策の短期専門家を派遣しました。

短期専門家はプロジェクトの拠点センターであるBajo農業研究センター、Mithunサブセンターを始め、域内4県の35地点で柑橘・柿・梨といった果樹、キャベツ・カリフラワー・ブロッコリー・豆類・唐辛子などの野菜の病虫害の発生状況を調査し、調査活動を通じてカウンターパートに主要な病虫害の基礎的な診断法を指導、さらに、防除対策として世界的な基本理念とされる総合的病虫害管理(IPM)を紹介しつつ、化学農薬を使用する以外に考えられる対策を取りまとめてBajoセンター及び国立植物防除センター(NPPC)にて関係者に報告しました。
2か月という限られた調査期間でしたが、確認された病虫害は多様で、化学農薬以外に考えられる対策は日常的な観察と被害作物/果実の除去・埋蔵などのきめ細かい管理と労力を要するものとなり、その実施はブータンの人たちにとっては容易ではありません。しかし、これまでこうした広範囲な調査・分析は行われていませんでしたので、ブータン側からはその活動成果が高く評価されるとともに、さらに詳細な調査と対策検討にかかる強い支援要望がありました。
なお、近年大きな問題となっているミバエ類、柑橘グリーニング病を媒介するミカンキジラミについては、さらに地域的・時期的な発生状況(分布密度)を調査する必要があるとされました。

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ブータン人の食生活に欠かせない唐辛子の立ち枯れ病の調査

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柑橘グリーニング病と思われる枯死した柑橘樹の調査

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カリフラワーの虫害調査

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梨果実の害虫幼虫の調査

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国立植物防除センターでの報告会

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国立植物防除センターでの報告会