モスタル市スポーツ指導者対象コーチングセミナー

2018年4月24日

2018年4月23日、24日、プロジェクトとカウンターパートであるモスタル市スポーツ協会(以下、SSGM)は、講師にクロアチアスポーツ心理学協会会長のボリス・バレント氏を招き、コーチングセミナーを開催しました。サッカーやバスケットボール、ハンドボール、ラグビー、水泳、柔道、テコンドー、空手など約40名のスポーツ指導者が参加し、『子どもの集中力をどのように発達させるか』ということについて意見を交換しました。

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講義1日目の様子

モスタル市には、SSGM傘下のスポーツクラブが約30種目、85団体あり、14歳以下の子どもたちを指導するコーチが約200名います。クラブに所属する子どもたちは、日々の練習の中で、指導者から多大な影響を受けていることが想像できます。SSGMとプロジェクトは、こうした子どもたちの体と心を育てるためのスポーツ環境整備が大切と考え、今回のセミナーを企画しました。
今回のセミナーには、市内の東側(ボシュニャクが多く住む)と西側(クロアチア系が多く住む)それぞれに所在するクラブのコーチが参加しており、加えてスルプスカ共和国(セルビア系が多く住む)に位置するネヴェシニェ市からも4名の指導者が参加しました。
競技スポーツの場面では、子どもたちは練習と試合を繰り返す中で成長していきます。ひとつの動きを習得するためには、繰り返し練習することが必要ですが、その際、指導者はどうやって子どもたちの集中力を図ることができるでしょうか。特に小学校低学年程度の子どもは、指導者が『集中しなさい』と言っても、どうやって集中すれば良いのか、そもそも『集中する』とはどういうことかがわかりません。指導者はより具体的な言葉と動きで、子どもたちに様々なことを意識させることが必要です。ボリス氏からはその具体的な言葉かけや、手法が紹介されました。

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ワークショップの様子

例えば、ボリス氏から「試合前の子どもに何を意識させますか?」という質問があり、「勝つこと」とあるコーチは答えました。ボリス氏によると、それは良くないアプローチです。結果を意識させることは子どもにプレッシャーを与えます。子どもは、大人(コーチや親)の反応によって簡単に気持ちが変化します。後の結果ではなく、その瞬間について考えさせ、簡単な言葉で、子どもが理解できるよう言葉かけをすることが大切とのことでした。
また、試合で平常心を保つために、自分でルーティーン(ある一定の動き)を作ることも大事であるという話がありました。例えば、大事な試合の日の朝の行動は決めておくとか、試合直前に柔道の選手などが畳に上がる前に体をパンパンと叩いて、気合いを入れるような動作がそれです。いわゆる『スイッチを入れる』ということです。そして、それは実は日常生活でも活用できます。家で机に向かう時、集中力を高める決まった環境を作るとか、人前でスピーチをするときなどに決まった動作で自分の心を落ち着けるなどです。
体の動きだけではなく、気持ちのコントロールができるようになることは、優れたアスリートになるためには欠かせないことです。集中力や意識をコントロールすることは、常にポジティブな気持ちを保つこと=ストレスコントロールにも繋がります。ボリス氏はスポーツの場面において『失敗や挫折をどうポジティブに変えていくか』という物事のとらえ方は、トレーニングにより発達させることができると話します。また、すべての子どもがプロ選手を目指すわけではないので、指導者は子どもがスポーツを通じて学んだそういった考え方を、スポーツ以外の場面において、どう活かしていくのかということを教えなければなりません。
子どもの精神面を育てるスポーツ指導という観点において、今回のセミナーは非常に役立つ情報を指導者たちに提供することができました。参加者からは、「今まで知らなかった新しい知識を学ぶことができた」「アスリートとしても、指導者としても役立つ情報が多く、今日学んだことを早速日々の指導に生かしていきたい」といった感想がありました。
子どもたちがポジティブで明るい考えを持って生活していくことは、その子の人生をより良くするだけではなく、コミュニティ全体の明るい未来にも繋がるのではないでしょうか。

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講義2日目の様子