学校長対象セミナー

2018年10月18日

オープニング

2018年10月18日、プロジェクトとモスタル市スポーツ協会(SSGM)は、在ボスニア・ヘルツェゴビナ日本国大使及び、ヘルツェゴビナ・ネレトバ県教育・科学・文化・スポーツ省(以下、教育省)大臣出席の下、『学校教育における体育の重要性』を理解してもらう目的で、モスタル市の小学校と高校の学校長約50名を対象としたセミナーを実施しました。

開催にあたり、まず坂本大使の挨拶では「昔から『健康な精神は健康な身体に宿る』と言われているように、若者にとって健康な心身の発達は重要である。今日のセミナーを機に、学校長であるみなさんの保健体育への理解と関心がより深まることを願っている」とお話がありました。

続いて、モスタル市長アドバイザーのコマディナ氏から、「今日は新しいカリキュラムや、日本の体育について学ぶ良い機会。生徒にとって健康な心と体の発達はとても重要で、そのために保健体育授業が果たす役割は大きい。ぜひたくさんのことを学んで、学校現場で生かしてほしい」との言葉がありました。

また、ヘルツェゴビナ・ネレトバ県教育省のハージョヴィッチ大臣は「我々は2018年2月の日本研修において、保健体育教育の新たなアプローチ方法を学んだ。モスタル市では、保健体育コモン・コアカリキュラム(CCC)のパイロット校への導入が全国に先駆けて始まっている。我々の取り組みが成功し、他県へ広がることを願っている」と話しました。

【画像】セミナーオープニングの様子(左からラージョ教授、坂本大使、モスタル市長アドバイザー・コマディナ氏、ヘルツェゴビナ・ネレトバ県教育大臣ハージョヴィッチ氏、ノヴァコヴィッチ教授)

プレゼンテーション

オープニングスピーチに続いて、サラエボ大学のラージョ教授による「学校教育における身体活動が果たす役割と重要性」、モスタルジェマル・ビイェディッチ大学のノヴァコヴィッチ教授による「保健体育共通コア・カリキュラムについて」、JICAプロジェクト専門家辻(筆者)による「日本の学校体育の特徴とグッドプラクティス」のプレゼンが行われ、参加者たちは熱心に聞き入っていました。

ラージョ教授からは、現代の子どもたちの肥満や脊髄側弯症(せきずいそくわんしょう)などの健康問題が身体活動の不足、特に歩くことの不足によって引き起こされているという現実が伝えられました。人間の体は動くことを目的に作られており、特に若い世代の人たちにとって、心身の発育発達のためには、身体活動が欠かせないということです。学校では生徒たちが長い時間教室で座っていることが多いのが通常ですが、教師の工夫次第により、体育の授業だけではなく、他の教科でも動きを取り入れることができたり、自然の中で学んだり、校外学習を多く取り入れたりする工夫が学校現場で必要であると校長先生たちに訴えかけました。

ノヴァコヴィッチ教授からは、ラージョ教授と同様に子どもを取り巻く現代の生活環境の問題、家庭の問題、社会の問題などが取り上げられました。特に運動に取り組む年齢が遅いことが、その後の将来に影響を与えるという話がありました。小さい頃の運動体験は大人になっても大きく影響するため、体育の授業を通して、子どもたちが身につけるべきことは、運動や保健に関する知識や基本的な体力や運動能力はもちろんですが、幼少からの楽しく適切な運動体験が、生涯にわたってスポーツに親しむ習慣を身につけることに繋がると話しました。新たに作成された保健体育CCCにおいては、「運動領域」だけではなく、「保健領域」も明確に位置づけられているため、各学校においては、生徒の興味や実態に合わせた内容を考え、心身ともにバランス良く育んでいくことが重要。しかしながら、保健領域は体育の授業内ですべてを教えることは難しく、他教科との連携、教科横断的な取り組みが必要不可欠となる。そのためには学校全体の協力が欠かせないと投げかけられました。

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ラージョ先生プレゼンの様子

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ノヴァコヴィッチ教授プレゼンの様子

保健体育の専門家である筆者からは、日本で子どもの体力の低下や運動の二極化(運動によく取り組む子どもとそうでない子どもの格差)が大きな問題となっていることを伝えました。問題に歯止めをかけるためには、学校体育の充実が重要であることは言うまでもありません。楽しく魅力的で、かつ子どもの基本的な体力向上を目的とした授業の実践例として「からだつくりの運動」の実際の授業映像を紹介しました。参加者たちは、初めて見る日本の体育授業の様子に熱心に見入っていました。セミナー終了後には、「日本の体育授業を見たのは初めて。様々な工夫がされていることに感心した」との感想が聞かれました。

今回は、TOYOTAアドリア社(ボスニア・ヘルツェゴビナ・オリンピック委員会のスポンサー)の土谷社長もセミナーに参加してくださり、教育・スポーツを通じた日本の支援をより印象付ける機会となりました。

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