プロジェクト活動

プロジェクトの柱

  1. 養殖普及
    1. 各種研修実施
      研修対象
      • 地域養殖普及員
      • 新規小規模養殖農家
      • 既存小規模養殖農家
      • 小規模種苗生産農家
    2. 農民への投入・支援
      内容
      • 巡回指導による継続的な技術支援
      • 種苗や養殖池整備機材・備品の配布
    3. 農民間普及の促進
      • 各地の熱意の高い養殖農家を中核農家(種苗生産農家)として育成する
      • 各地の中核農家がその地域の小規模養殖農家に対して技術指導する
  2. 小規模養殖技術改善

    本プロジェクトでは小規模養殖における適正技術開発を目標としています。そのために、プレイベン州にあるバティ種苗生産研究センターで技術の改善がなされ、それらを実際に小規模養殖農家に導入して改善技術の効果が実証されます。経費を最小限に抑えて、資金の乏しい遠隔地農民が持続できる養殖方法を、自然および社会環境要因の異なるそれぞれの地域に適合させて導入してゆきます。

  3. 共有池管理事業

    各コミューン(町)における住民の共有池において魚を増殖管理し、地域の稲田や氾濫原における水産資源を増加させる事業を住民が主体となって計画実行することを促進します。各種のワークショップ開催、成魚の放流、技術支援等を本プロジェクトは行っています。国連の世界食糧計画との共同事業として、共有池整備を住民参加のフードフォーワークで進める試みも進行中です。

養殖普及

養殖普及対象種

プロジェクトでは、餌代をあまりかけなくても早い成長が期待できる以下の魚を養殖普及に用いています。外来種4種と在来種1種を含んでいます。

養殖普及対象種
名称写真説明
Nile tilapia
Oreochromis niloticus
写真日本ではイズミダイという名前で食卓に上がるアフリカ北部ナイル川原産の魚です。成長がよく、味がよいので世界中の熱帯域で養殖されています。
Silver barb
Barbonymus gonionotus
写真日本名はありません。東南アジアに広く分布するコイ科バルブス亜科の一種で、カンボジアの在来種です。現地では最も好まれる美味しい魚の一つです。養殖しやすい魚です。
Silver carp
Hypophthalmichthys molitrix
写真ハクレンという中国大陸原産のコイ科の魚で、淡水魚としては世界で最も多く養殖されています。植物プランクトンばかりを食べ、成長が良いことがその理由です。美味しい魚です。
Common carp
Cyprinus carpio
写真コイは成長がよく飼いやすいので、世界中で養殖されています。ただし、近年コイヘルペスの世界的流行で、良質の系統の入手がやや難しくなりました。
Mrigal
Cirrhinus cirrhosus
写真ムリガルというインド原産のコイ科魚類で、味がよくて飼育しやすいため、多くの熱帯域で養殖されています。コイにとってかわる有望種として本プロジェクトでも普及に取り組み始めました。

小規模養殖技術改善

写真 写真

プロジェクトでは、毎年異なる地域で640軒の農家に対して、簡単でお金のあまりかからない養殖方法を指導しています。魚の生産と米の生産を比較すると、同じ面積からの収獲量をお金で換算した場合、魚は米の約10倍も利益があがります。それに加えて、冷蔵庫やスーパーマーケットの無い遠隔地において、いつでも新鮮な魚が手に入るという生活上の満足感から、かなり多くの住民が養殖を自分たちの営農システムに組み込みたいと考えています。

中核農家の育成

写真
種苗生産研修を終えた中核農家候補生

毎年指導している640軒の農家の中から、特に優秀でやる気のある農家を毎年16軒選抜し、それぞれの地域の養殖農家に供給する種苗の生産者として育成しています。それらの種苗生産者には地域の養殖指導者として、農民間普及に携わってもらいます。プロジェクトではそうした農家を中核農家と呼んでいます。政府機関の養殖指導にあたる職員数には限りがありますので、農民の力を借りた養殖普及は、持続的な発展性を保つ唯一の道なのです。

適正な小規模養殖技術

本プロジェクトでは、貧困の度合いが比較的高い地域に養殖普及を展開しています。それらの地域がなぜ貧しいのかというと、灌漑が未整備であり、農業生産を天水のみに依存しているからです。米を生産できるのは雨季の間だけです。そうした地域では、当然ながら養殖できる期間も限られ、最長8ヶ月です。

それゆえに、魚も早く成長するものを養殖しなければなりません。また、貧困地域ゆえに、餌代の多くかかるような魚種は養殖できませんし、そのような技術は導入できません。よって、本プロジェクトでは、養殖池の中に餌となる動植物プランクトンを最大限に増殖させて餌にかける経費を低減し、なおかつ限られた期間で魚を消費サイズ(食卓サイズ)に到達させる工夫を行いました。

写真
マニュアピットによる池外での有機肥料分解

  • 改善施肥法=池外分解法

    池水の肥沃化のための施肥に最も豊富に用いることのできるものは牛糞です。しかしながら、栄養学的にはもっとも貧弱で、未消化物を多く含んでいるゆえに、池への大量投入はしばしば水質の悪化、ひいては魚の斃死を招いてきました。それだからといって、施肥をひかえると、魚の餌となるプランクトン増殖が悪くなり、魚はよく成長してくれません。

    そこで、大量の牛糞を、水質の悪化を招くことなく用いて十分な施肥効果を得るための工夫として、池の傍らにマニュアピットを掘って、そこにできるだけたくさんの牛糞を投入して加水し、腐熟・分解を促進する方法を考案しました。分解産物である液体部分(液肥)のみを溝またはパイプで池に導入するのです。雨季には、降雨があるたびに少しずつ断続的に分解産物が流入し、急激な水質変化を招くことなく、池水の栄養分が持続します。分解産物の流入量を調節することで、施肥を加減することも容易です。

小規模種苗生産技術

種苗生産とは、親魚から卵をとって受精・孵化させ、種苗サイズ(全長5cm程度)まで育てるまでの過程を言います。孵化したばかりの魚を買って種苗サイズまで育てる場合はナーシングとか中間育成などと呼ばれますが、これも種苗生産過程の一部分です。本プロジェクトでは、種苗生産の全過程を中核農家ができるようにすることを目標としています。

写真シルバーバルブの孵化仔魚。体長わずか3mmしかありません。卵黄が小さいので早く吸収されます。栄養が欠乏しないようにするため、生まれた翌日から餌を食べ始めます。
写真ムリガルの孵化仔魚。体長4.2mmほどあり、卵黄をたくさん持っていますので、最初はそれを利用して成長します。生まれて3 日ぐらいしてから餌を食べ始めます。
写真ナイルティラピアの仔魚。体長10mmほどで、卵黄をまだたくさん持っています。もう自分で泳げるのですが、まだ母親の口の中にいるのです。この時期から小さな動物プランクトンを食べることができます。
魚の産卵習性にあわせた種苗生産方法

本プロジェクトの養殖対象魚種のうち、シルバーバルブとハクレンとムリルの卵はひとつひとつがばらばらで、川の流れをゆっくりと下りながら発生・孵化する流下卵とよばれるものです。それゆえ、人工孵化をする場合も、孵化槽の水をゆっくり流動させて、そうした状況を再現します。コイは粘着性の卵を水草に産み付けます。人工孵化もこれを再現します。いずれの場合も、孵化仔魚はできる限りはやく飼育池に放流して種苗として出荷できるまで育てます。

一方ティラピアはメスが卵を産んですぐに口に収容し、口の中に精子を吸い込んで受精・孵化させてそのまま保護し、稚魚が自分で元気に泳ぎまわれるまで口の中と外を出たり入ったりさせながら育てます。農家では、養殖池でティラピアを自由に産卵孵化させ、元気に泳ぎだした稚魚をすくって集めて、それらを一定期間飼育した後に種苗として販売しています。

概念図

簡易孵化ユニット

本プロジェクトが支援する農家の所在地には通常、電力供給がありません。

したがって、孵化に用いる水は(1)エンジンポンプで高い位置に置いた貯水槽に一度くみ上げ、(2)そこからの重力によって水圧を得て、水流をつくったり散水したりします。当初は産卵槽と孵化槽を兼ねたものが使用されていましたが、プロジェクトで改良を加え、貯水量を増加し、産卵槽と孵化槽を別にするなどの技術改善により、徐々に孵化率が向上してきました(右図)。

プロジェクトが目指すもの

写真

出荷を待つハクレンの種苗

養殖にどうしても必要となるのは種苗です。昔は川で採れた天然種苗を集めて養殖池で大きくしていましたが、養殖人口が増えてきたことと、過度の漁獲による減少のため、それだけでは需要を満たせなくなってきました。それゆえに人工種苗を供給する必要があるのです。種苗生産を政府機関だけでまかなうことは、普通は難しく、ましてやカンボジアのような重債務国では不可能です。

ですから民間の助けが必要となります。それだからといって、資本のある業者にばかり頼っていたら、小規模農家の生計は一向に上向きません。本プロジェクトは遠隔地の農家の生計向上や貧困緩和、そして栄養改善を行う「村落開発養殖を用いるものです。それはカンボジアの人々の真のニーズです。ですから、プロジェクトは現地住民にとても好意的に受け止められています。今後もプロジェクトでは試行錯誤を繰り返しながら、養殖人口の拡大と小規模な人工種苗供給者の養成に邁進してまいります。