【解説】中国における介護の国家資格

2019年10月30日

日本では、多くの学生や介護施設等に勤務する社会人の方が国家資格である「介護福祉士」資格の取得を目指していますが、中国で「介護福祉士」に相当するものは何でしょうか。実はここ一年ほど廃止されていましたが、2019年10月に入り「養老護理員国家職業技能基準」が配布され、復活しました。

国家職業技能基準「養老護理員」は、なぜ一旦廃止されていたのか

国家職業技能基準「養老護理員」が策定されたのは2002年で、2011年11月に改正版が発表されました。その後、2018年に一旦は廃止されますが、これは「養老護理員」だけではなく、その他のいくつかの国家職業技能基準も廃止されたうちの一つでした。その原因は、監督官庁のスリム化、地方政府への権限移譲、試験における不正の横行、実用性の欠如など様々な見方がありますが、理由は明らかではありません。

「養老護理員国家職業技能基準(2019年版)」の特徴

「養老サービス発展の推進に関する国務院弁公庁の意見」(国弁発[2019]5号、2019年4月)における要求事項の徹底実施のため、同基準の2019年版は2019年9月に発表されました。2019年版は2011年版と比較して、次のように大きく改正されました。

1. 養老護理員の技能上の事項を拡大
2. 養老護理員の入職条件を緩和
3. 養老護理員の職業的発展の幅を拡張
4. 職業技能等級の昇進期間を短縮

改正に携わった人力資源社会保障部および民政部の関係者がマスコミからの質疑に以下のように応じています。改正に至る背景と代表的な改正内容を抜粋します。

・中国には2.49億人の高齢者と4000万人の介護を要する高齢者がおり、家庭におけるケアのニーズも日増しに増大している。これに対し、現在の介護事業従事者は30万人しかいない。
・「養老護理員」のチームを拡大する。職業技能等級を4つ(2011年)から5つ(2019年)に増やし、「1級/高級技師」の等級を新たに設ける。「1級/高級技師」の職域として、リハビリサービス、ケア評価、クオリティコントロール、育成指導などを含める。最下級となる「5級/初級」は学歴資格を無学歴でも可とし、資格の申請条件も見習い期間2年以上(連続)から1年以上(累計)と緩和する。
・「養老護理員」の質の向上のため、各等級への要求を増やす。例えば、基礎知識の中に「消防安全」の内容を追加する、各等級に段階的に「認知症ケア」の事項を組み込む、など。

今回の改正は、養老護理員の養成訓練、職業技能等級の認定、養老護理員の職業技能の向上、養老介護人材不足問題の緩和、高齢者の生活ケア及び介護サービスの規範化、養老サービス供給の拡大、養老サービス消費の促進などを推進させる重要なものであるとされています。

参考:各等級における職業機能(大項目)

【等級】5級/初級
【職業機能(大項目)】生活ケア、基礎ケア、リハビリサービス

【等級】4級/中級
【職業機能(大項目)】生活ケア、基礎ケア、リハビリサービス、心理サポート

【等級】3級/高級
【職業機能(大項目)】基礎ケア、リハビリサービス、心理サポート、育成指導

【等級】2級/技師
【職業機能(大項目)】リハビリサービス、ケア評価、クオリティコントロール、育成指導

【等級】1級/高級技師
【職業機能(大項目)】ケア評価、クオリティコントロール、育成指導

次のステップとして

同基準が公布されたことを契機として、人力資源社会保障部および民政部は「養老護理員」養成のための長期メカニズムを構築する予定であるとしています。その内容として、次のようなものが挙げられています。

・専門家や学者、養老サービス機関管理スタッフ及び現場スタッフを組織し、養老護理員の育成訓練要綱及び育成訓練教材を編集する。
・養老護理員の養成訓練パイロットサイトを設立する。
・養老護理員の人材育成訓練を実施し、2022年末までに新たに200万人の養老護理員を確保する。
・養老サービス機関等の雇用者及び社会訓練評価組織に対し、職業技能等級認定事業を指導する。
・各地方政府に対し、養老護理員の給与待遇と職業技能等級との連動制度の構築を指導する。
・全国養老護理員情報、信用管理システムを構築する。

当プロジェクトは、これまでも中国側に対し日本の介護福祉士の制度に関連する情報を提供したり、訪日研修で実際に介護福祉士を養成している短期大学や専門学校を訪問したりするなどの活動を続けてきました。上述の通り、日本の国家資格制度とは構造がかなり異なり、また中国の養老護理員国家職業技能基準(2019年版)は再開したばかりでもあるため、まだ多くの課題を抱えています。引き続きその動向をウォッチしていきます。

2019年10月30日

翻訳と解説
日中高齢化対策戦略技術プロジェクト
JICA長期専門家
臣川元寛