【解説】2020年、中国における養老分野の展望

2020年1月20日

中国では春節(旧正月)を目前としたこの時期、2019年の日付で新しい政策文書が次々と発表されています。北京師範大学中国公益研究院養老研究センター「全国養老サービス業月度分析(2019年第11期、総第88期)」を参考に、2020年度の業界動向を展望してみました。

1.高齢者を対象とした長期ケアシステムが加速的に推進される

近年来、高齢者の健康サービス体系の構築をさらに推進するため、国家レベルでは「高齢者能力評価」(MZ/T 001-2013)、「長期介護保険制度の試行に関する指導意見」(人社庁発[2016]80号)、「高齢者介護ニーズ評価とサービス業務規範に関する通知」(国衛医発〔2019〕48号)などの重要書類が相次いで出されています。これらの文書はそれぞれ統一高齢者能力評価基準、長期介護保険制度、高齢者介護ニーズ評価などの角度から、国家と各地方に長期ケアを中心とした高齢者健康サービス体系を構築する制度の基礎となるものでした。

各省レベルの部門も積極的にフォローされており、2018年末までに北京、天津、山西、遼寧を含む16の省で高齢者能力評価基準が統一されました。また、長期介護保険の省レベルの試行業務の開始に伴い、長期介護保険の試行の地域範囲がさらに拡大しています。高齢化が顕著になっている中国では、高齢者の認知予防、身体的能力の評価とケア、長期介護保険などの制度を中核とした高齢者健康サービス政策体系の整備が各地の重点課題となります。

2.在宅・社区・施設の養老融合に関する政策が続々と打ち出される

各地方レベルの政策では、施設介護と社区(コミュニティ)介護、在宅介護の融合は日増しに深まっています。「国務院弁公庁による養老サービス発展推進に関する意見」(国弁発〔2019〕5号)の中でも、在宅介護、社区介護、施設介護の融合が推進されています。社区養老サービス施設の運営や在宅訪問サービスが支持されています。将来、各省は具体的な措置を打ち出し、養老機構(介護施設)が技術優位を発揮できるように誘導し、社区養老、在宅養老をサポートし、専門サービスを家庭に届けられるようにします。

3.サービスの質向上を目的とした全国統一の介護施設評価体系の構築が急速に推進される

2017年から実施された「養老院サービス品質建設特別行動」は、養老院を含む養老機構に対するサービス品質管理を各級民政部門の日常業務に徐々に組み入れています。2017年末に公布された「養老機構サービス品質基本規範」と2018年末に公布された「養老機構等級区分と評定」の二つの国家基準は、特別行動に基づいて都市農村養老機構のサービス品質基準と評価基準を統一し、養老機構のサービス品質監督管理の常態化、規範化をさらに向上させました。

2019年に民政部などが発表した「特別養護サービス施設(敬老院)改造・昇格工事の実施に関する意見」と「特別養護サービス施設(敬老院)管理に関する業務の更なる強化に関する通知」は、特別養護サービス施設の改造と管理強化について、それぞれ具体的に農村の特別養老サービス構造の転換とアップグレードの方向性を示しました。

2019年12月31日、民政部は「全国統一養老機関等級評定体系の構築の加速に関する指導意見」を発表しました。「養老機関等級区分と評定」国家基準の実施を通じて、全国統一養老サービスの品質基準と評価体系の確立を加速し、監督管理を強化し、養老機構の品質と安全保障の長期効果メカニズムを健全化し、養老制度の健全化を目指します。

4.養老護理員を中心とした養老サービス人材育成向上活動が全面的に展開される

近年来、国レベルでは養老サービスの人材育成が非常に重視されています。昨年は「養老護理員(養老介護士)国家職業技能標準(2019年版)」が発表されました。この他にも、高齢者対応看護師、医療ヘルパー、社区養老顧問、健康管理師など、多職種にわたる人材育成も行われています。

また、民政部は「養老サービスの供給をさらに拡大し、養老サービスの消費を促進する実施意見」(民発〔2019〕88号)の中で、「2022年末までに1万人の養老院院長、200万人の養老護理員、高齢者対応のソーシャルワーカー(専業・兼業)10万人を育成する」としています。養老人材育成の向上、養老人材チームの組織化が深化されます。

5.人工知能などのハイテク技術の応用範囲が拡大される

2019年12月、国家発展改革委員会、教育部、民政部など7部門が共同で「インターネット+社会サービスの発展を促進する意見」を発表しました。デジタル化、ネットワーク化、インテリジェント化、多元化、環境最適化などが謳われ、さらにインターネットをはじめとするハイテク技術の社会サービスへの更なる応用に関する指針が示されました。

工業情報部、民政部、国家衛生健委員会が2017年から共同でスタートした「智慧健康養老モデル」も3年目に入り、第3回智慧健康養老応用試行モデルリストが発表されました。人工知能はインターネット技術の重要な一環として、補助診断、薬物研究開発などの伝統的な医療健康分野にも広く使われています。国家政策と他業界の経験を拠りどころとしつつ、人工知能などの新技術は社区養老サービス、在宅養老サービスのニーズとをマッチングし、高齢者転倒リスク予見、高齢者健康管理などの面で大きな役割を果たすことになります。

6.中国・日本・韓国の健康高齢者に関する協力が深化する

2019年12月25日、四川省成都市で開催された中日韓首脳会議(第8回日中韓サミット)で「中日韓積極健康高齢化協力共同宣言」が発表されました。これは健康高齢化分野での三カ国のさらなる協力のための強固な基礎となるものです。三か国国内の65歳以上の高齢者人口の急速な増加により、医療サービスと長期介護による支出は急激に上昇し、三カ国はいずれも経済社会発展において厳しい状況に直面しています。

この中で特に中国の高齢化の状況が最も厳しく、高効率な長期介護サービス構築のニーズが最も切実であり、健康養老サービス市場が最も巨大です。三国共同宣言の発表は、将来における中日韓の健康高齢分野協力の綱領的文書となり、三カ国の健康高齢政策の制定、高齢者サービスの提供、高齢者権益保障などの幅広い協力をさらに促進させます。今後は関連分野での交流や協力プロジェクトを深化させるものと見られています。

翻訳と解説
日中高齢化対策戦略技術プロジェクト
JICA長期専門家
臣川元寛