プロジェクトニュース_15

2015年11月30日

トラップカメラを使った参加型野生動物モニタリング

我々のプロジェクトでは、コスタリカ国内の参加型生物多様性保全がさらに進むように、様々な政策や活動を提案しています。そのうちの一つが、参加型の環境モニタリングです。日本でも、環境省が主体となって、「身近な生き物調査」や「いきものみっけ」などの参加型の生物調査が行われてきましたが、この国では、行政機関が音頭を取って全国で生物調査をしてきた経験がありません。そのため、本プロジェクトでは、コスタリカ全土で参加型の生物調査を行うことにしました。

参加型の生物調査を進める際に重要なことの一つに、データの信頼性があります。不特定多数の人から寄せられたデータの中には、間違ったデータが報告される可能性があり、数多く寄せられたデータの中から、信頼のあるデータを選択する作業が必要です。そのためには、専門家の協力と多くの時間が必要です。残念ながら、コスタリカでは今すぐにそのような専門家の協力を得られるような状況にはありません。そこで、浮かび上がってきたのが、トラップカメラによる調査です。トラップカメラとは、野外に設置するカメラで、動物がカメラの前を通ると写真やビデオを自動的に撮影してくれます。これならば、高度な専門知識を持つ専門家の協力が無くとも、プロジェクトに関わっているスタッフと地域の参加者だけで、動物の種の同定が可能です。さらに、住民の方も、普段見ることが難しい地域の哺乳類を見ることができるので、参加のモチベーションも高まります。

先日も、当国の太平洋側南部のオサ半島にあるランチョケマードという村で、プロジェクトのカウンターパートであるオサ保全地域事務所職員、地元のNGO、そして地域住民の方たちと一緒に、トラップカメラ設置の研修をしてきました。初めてトラップカメラを見たり触ったりする人もいれば、既にトラップカメラでの調査経験がある人もいました。一通りトラップカメラの使い方を学んだ後、実習として実際にフィールドにカメラを設置し、一晩放置してみました。本来の調査は最低でも30日間は放置する計画です。

カメラを設置した翌日、再びフィールドに赴き、カメラを回収しました。カメラを開き、中に入っているSDカードを取り出してパソコンに入れます。ファイルを開くと、24回ビデオが撮影された記録がありました。各ビデオは10秒間の長さで撮影されるように設置されています。初めの方のファイルは、設置した時の調査者の足や後ろ姿が写されていましたが、14個目のファイルは、赤外線による白黒の夜間撮影モードになっていました。たった一晩の撮影ですので、動物が写るわけがないと思いながらも、期待が膨らみます。残念ながら、14個目のファイルには、動物の姿は映っていませんでした。カメラの角度があまり良くなかったせいもあるのでしょうが、おそらく、葉っぱの動きにカメラのセンサーが反応し、撮影をしたのでしょう。15個目のファイルも同じように、夜の森の風景が、白黒で写っているだけのものでした。そのようなファイルが18個目まで続いて、「やっぱり一晩の撮影で写るわけないよな…」というあきらめの雰囲気が34名の参加者の中に漂っていました。ところが、19個目のファイルを開くと、撮影開始後すぐに「テペスクイントレ」という柴犬ほどの大きさのげっ歯類が、画面の中央下側を左から右に歩いて行く姿が撮影されていました(写真1)。一同「おぉー」と言う声を上げるとともに、拍手が沸き起こりました。また、参加者の一人の女子高生は、自分の村の動物をビデオで見ることができた感激のあまり、泣き出してしまいました。

今後、12月末までに保護区を中心としたコスタリカの各地に77個のカメラを設置し、乾季の間の来年4月まで、場所を移しながら撮影を続ける計画です。それによって、ジャガーなどの希少な種の分布域がよりはっきり特定されるとともに、地域住民の方々が身近な自然の再評価をしてくれるきっかけとなることが期待されています。そうそう、コスタリカでは絶滅したのではないかと言われているオオアリクイの姿が写ってくれれば、プロジェクトの大きな成果になってくれると、ひそかな期待も持っています。

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画面中央下に見える、白い斑紋のある動物がテペスクイントレ。

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トラップカメラの設置の仕方を学ぶ地元の高校生。

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オサ半島の研修に集まってくれたカウンターパートと地元の人たち。

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バラ・デル・コロラド野生生物保護区に設置されているカメラには、ジャガーが写った。