プロジェクトニュース_26

2017年5月29日

トラップカメラを用いた参加型環境モニタリング

参加型の生物多様性保全活動というと、保護区の周辺域に住む地域住民との協働活動がまず頭に浮かぶと思います。しかし実際は地域住民以外のアクター(関係者)も同定し、その人たちの参加を促すことも大変重要です。そのようなアクターの一つに研究者がいます。人員や予算の限られた政府機関だけで生物多様性保全に必要な情報を集めるには限界があります。そこで、研究者たちが持つ貴重なデータや知識を提供してもらい、生物多様性保全に役立てていくことが重要です。今回のプロジェクトニュースでは、そうした活動の一部をご紹介します。

コスタリカの森林にはIUCNのレッドリストで準絶滅危惧種とされているジャガー(Panthera onca)が生息しています。しかし、野生のジャガーの調査研究は容易ではありません。個体数が少なく、縄張りの面積も広大です。またジャガーは夜行性であり、その活動を直接目にする機会はほとんどありません。長年コスタリカの国立公園でレンジャーとして働いている方でも、ジャガーを見たことがないという方が大多数です。

そんなジャガーの調査によく用いられるのがトラップカメラです。MAPCOBIOで使っているトラップカメラは赤外線センサーを搭載しており、動物がカメラの前を横切るとその体温を感知し写真やビデオが撮影されます。

これまでにMAPCOBIOはコスタリカの主要な国立公園や野生生物保護区にSINACの職員と地域住民が共同して、合計175ヵ所のトラップカメラ・ステーションを設置し、地上性哺乳類の調査を行ってきました。そしてそれまでジャガーがいないとされてきた地域にも、実はジャガーがいるということが確認されました。しかし、MAPCOBIOのデータだけではジャガーの保全に役立つ十分な情報を得たとは言い難いのも事実です。

そこで登場するのが先述の研究者たちです。コスタリカではMAPCOBIO以外にも様々な研究者や研究機関が、トラップカメラを用いたジャガーの調査研究を行っています。しかしこうした調査研究のデータのすべてが、コスタリカの生物多様性の状態を記録しているGBIF等の生物多様性情報プラットフォームに上がってくるわけではありません。多くのデータがあるにもかかわらず、それがバラバラに存在しているため、有効活用されていないというケースが多く存在しているのです。MAPCOBIOはそうしたバラバラに存在しているデータも研究者や研究機関の協力を得ながら統合的に活用し、ジャガーの保全に役立てようと考えています。

こうした多くのデータを統合的に活用することで、トラップカメラによって実際にジャガーの生息が確認された場所の情報をもとに、ジャガーが生息可能であると考えられる地域を推測できます。このような情報は、保護地域や保護地域同士を結ぶ生物回廊などの管理計画作成やゾーニングに活用出来ます。またジャガーの有無はコスタリカの森林生態系の健全さを示す指標としても活用できます。保護区が名前だけのものではなく、実態をともなった存在であることを示すことにもつながります。これは絶滅危惧種の保全や保護区の管理強化を目指した愛知目標の達成にもつながる重要な活動です。

そのためには研究者・研究機関同士の協力をすすめ、同時に集約したデータのとりまとめ方やその利用についても整理してゆく必要があります。しかし調査研究機関や研究者が個人で所有しているデータの集約は容易ではありません。また集約したデータの取り扱いについても、コスタリカの環境省やC/P機関のSINACにおいて十分検討されているとは言えません。MAPCOBIOはこうした課題にも今後対応してゆく予定です。

最後に、参加型生物多様性保全活動にトラップカメラを用いることの意義について少し触れさせていただきたいと思います。ジャガーのみならず、野生生物の保全において何よりも重要なのは野生生物の生息地やその近隣地域の住民の理解と協力を得ることです。トラップカメラを用いたモニタリング活動は、カメラの設置やメンテナンスに地域住民の協力が欠かせません。自然と彼らを巻き込んで実施してゆくことになりますが、その過程において野生生物の保全について地域住民の理解が深まってゆきます。トラップカメラを用いたモニタリング活動の良さは、そうしたところにもあるのです。現在MAPCOBIOのトラップカメラを用いたモニタリング活動には119名のローカル・アクターが参加してくれています。これらの地域住民と研究者の協力を得て、MAPCOBIOでは今後も、現場における参加型生物多様性保全活動を展開してゆきます。

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写真1:現地研究者のトラップカメラで撮影されたジャガー(中央火山帯保全地域)

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写真2:MAPCOBIOのトラップカメラで撮影されたジャガー(ラ・アミスタッド・カリベ保全地域)。写真1のような現地研究者のデータと合わせることでより良い保全活動に繋げることができる。