プロジェクトニュース_32

2017年11月24日

チリポ山(3,820m)に登ってきました。

プロジェクトではカウンターパートである国家保全地域庁(以下SINAC)の職員たちが進めてきた参加型の生物多様性保全活動の経験をまとめてきましたが、その一つにチリポ国立公園の事例があります。チリポ国立公園にはコスタリカで一番高いチリポ山(3,820m)があり多くの登山客が訪れます。チリポ山に登るためには、標高3,200mにある山小屋での宿泊がほとんどの場合に必要となるのですが、以前は登山者自身がそこで泊るための食料や寝袋を持って行く必要がありました。しかし、登山客へのよりよいサービスの提供と施設維持を目的として、山小屋の経営をコンセッション方式で地元の自治会、観光協会、ガイド組合に委託することを決めました。また、宿泊施設の経営だけではなく、以前から要望のあった、荷揚げについてもコンセッションの中に含め、多くの人により快適な条件でチリポ登山を楽しんでもらえるようにしました。
今回は、この事例をMAPCOBIOプロジェクトのチーフ・アドバイザーを務めさせていただいております私、大澤自身の登山報告を交えてお伝えします。

登山行程

今回はコスタリカ人の仕事仲間と一緒に、合計7名でチリポ登山に行ってきました。1日目に麓のサン・ヘラルド・デ・リバス村にある国立公園管理事務所に寄って、登山届と入場料を払います。本来であれば、宿泊施設の予約を事前に行い、それに伴って入場料(1日当たりコスタリカ人約800円、外国人約2,000円)を支払うのですが、私たちはSINACで働いているので、国立公園入場料の免除と保全地域庁職員宿舎への宿泊手続きをここで済ませました。
その後、着替え等の山小屋でしか必要とならない荷物を、コンセッションを与えられている地元団体の事務所に預けに行きました。1kg当たり約2,000コロン(400円程度)、私の場合は3.6kgと比較的軽かったのですが、一緒に行った仲間の中には8.7kgとかなり重めの荷物を渡していた人もいました。

二日目、山小屋までの14kmの登りを歩く日です。7人のうち3人はまだ暗い朝4時半に出発しましたが、私は明るくなる午前5時半に麓の宿を出発しました。登山道はかなり明確で、1kmごとに道標が立っており迷うことは無いと思います。ただ、馬での荷揚げにより、所々道が荒れてしまっていること、馬糞の臭いとそれに引き寄せられてくるアブやハエがうっとうしく、馬による荷揚げのマイナス点が少し気になりました。最初の2kmぐらいは尾根に出るまでの急な登りです。尾根に出てからは比較的緩やかな登りが続き、7km地点にトイレと売店を備えた休憩所があります。1kmごとに道標が立っているとはいえ、歩いている感覚では必ずしも正確に1kmごとに立っているようには感じられず、特に9kmと10kmの間の1kmはとても長く感じられました。標高3,000mを超えるあたりから、森林限界を出て、目の前に開けた景色が広がります。しかし、それと同時に登りが再び急になり、まさに胸突き八丁と言った感じです。その急な登りを30分ほど登ると、13kmの道標が出てきます。喜ばしいことに13kmと14kmの間はとても短く感じ、後は山小屋までの緩やかな下り道をたどっていけば、この日の行程は終わります。私は午後12:50に山小屋に到着、そこでおいしいお昼を食べて、午後は翌日に向けての休養にあてました。余裕のある人は、近くの「クレストネス」と呼ばれる岩峰群を見に行ったり、近くを散策していました。
宿では、自炊をするための食料を持ってくる必要や食事を準備する必要もなく、本格的な登山を楽しみたい人には物足りないかもしれませんが、より多くの人が快適に楽しめる環境が提供されていました。また、メニューのオプションもあり、本当においしい食事が楽しめるようになっています。寝具に関しては、寝袋を荷揚げしてもらうか、現地でお金を払って毛布をレンタルすることも可能です。もちろん、自分で背負ってきても一向に構いません。

翌日はいよいよチリポ山の頂上へ向けて出発です。頂上でご来光を拝みたいと言う仲間の希望で、午前2時起床、3時前に山小屋を出発しました。昨日まで9日間、晴れの日が続いていたそうですが、昨日の夜に少しまとまった量の雨が降り、この日の朝も天候が心配されましたが、霧と風が出ているものの雨は上がっているので、頂上に着くころまでには天候が良くなることを期待していました。最初の2kmあまりは緩やかな登りですが、「ウサギの平原」と呼ばれるところを過ぎるころから、徐々に傾斜がきつくなります。500mほど前方には私たちより早く出発したグループの懐中電灯の灯りがチラチラと見えます。昨日の午後、充分な休みを取ったのが幸いしたのか、私の調子は上々。それでもより速いペースで脇をすり抜けている登山者もいます。頂上に続く稜線に出ると、風がさらに強くなり霧も濃く、頂上と思しき峰にはドーム状の黒いシルエットが威圧的にそそり立っており、圧倒されます。そして、宿を出てから2時間ほどのところで、いよいよ頂上への最後の登りに差し掛かりました。そこには風を避けて夜が明けるのを待っていた10名ほどのグループが待機していましたが、その横をすり抜けて、頂上を目指します。最後の100mほどの高度差はさらに傾斜が上がり、日本の登山道なら鎖場となっていてもおかしくないような場所で、手足をフルに使ってよじ登る感じです。そして何よりも3,800mという高所が息を荒くさせ、ペースがガクンと落ちる感じでした。下からは霧で見えなかったのですが、頂上ドームと思っていた登りを一つ越すと、さらにその先により高い峰が見え、思っているより頂上は遠いのではないかと言う考えも浮かび始めます。風と霧は一向にやむ気配を見せず、また、登山道も岩場ばかりになり、ちょっとしたスリルを味わいながら、一歩一歩登っていくと、30mほど先に、風にはためいているコスタリカ国旗がようやく目に入り、頂上直下にいることが分かりました。最後の登りを、呼吸を整えながら一歩一歩ゆっくり進んでいくと目の前の視界が開け、5:20、ようやく頂上に着きました。残念ながら視界は悪くご来光を拝むことはできませんでした。気温は5度ほどですが風が強く、体感温度は0度以下かもしれません。記念写真を撮り、霧が晴れないかと40分ほど待っていたのですが、寒さに耐えきれず頂上を後にすることを決めました。この時点で6名の仲間のうち(一人は小屋に残り頂上を目指さなかった)、私を含めた4名が頂上に到着していたのですが、50mほど降りていくと、残りの2名が登ってくるところに出会いました。せっかくですので、6名で記念写真を撮ろうと、降りて来た道を10分ほど掛けて一緒に登り、再び頂上で記念写真を撮りました。この時点でも一向に晴れる気配が無く、先着隊の4名は下山にかかりました。するとどうでしょう、日が昇ったからでしょうか、徐々に霧が晴れ暖かな陽光が差し込め始めました。そして、頂上ドームを下りきったコル(鞍部)に着くころには、すっかり霧が晴れたではありませんか。最初に登ったときには全く見えなかった頂上もここから見上げることができ、先ほどの威圧的な姿がまったくのウソのようです。ここからの景色もとても良いのですが、4人で相談し頂上に登り返すことにしました。10分ほど掛けて下ってきたところを倍の時間を掛けて登り返し、再度頂上に着くと、そこには360度の絶景が広がっていました。その絶景の中には太平洋とカリブ海が含まれており、地球上でも数少ない「二つの海岸線を同時に見ることができる場所」を体験することができました。とは言ってももちろん実際には二つの海が同時に視界に入るわけではなく、右を見ればカリブ海、左をみれば太平洋と言うことなのですが。それとこの場所でも携帯電話の電波が通じていて、グーグルマップで周囲の山々を確認したり、頂上から家族に電話をすることができるのには驚きでした。
地球上でも数少ない絶景を楽しんだ後は、最初に登って来た時とは打って変わった天気で、山の雰囲気もすっかり変わり、余裕を持って下山をすることができました。3名の仲間は遠回りをしてもう一つのピークを踏んで山小屋に戻るルートをとりましたが、私は自分の体力を考慮し、まっすぐ山小屋に戻りました。この日も午前中の残りの時間と午後は、翌日の下りに備え、休養に当てましたが、やはりおいしい昼食と夕食を楽しむことができました。

最終日は下り一辺倒の登山道です。登りのときと同じく、下山中に不要な荷物は出発前に預け、最小限のものを持って出発です。出発してすぐのころは、高度が下がるとともに感じる空気の濃さや、色とりどりの高山植物を楽しんでいたのですが、14km続く下り坂は日頃運動不足の身にはかなりきつく、10kmを過ぎる辺りから、太ももの筋肉が悲鳴を上げ始め、麓の宿に着くときには頂上に登った時よりもクタクタでした。

地元への経済効果

一回の登山に係る費用は、山小屋に二泊するとして、宿泊費が一泊約3,900円x2泊、食費が合計で8千円、プラス荷揚げで2万円ぐらいはかかることになります。年間の登山客が7,700名ほどだということですので、単純計算でも年間1億5千万円以上が地元の組合に売り上げとして入ることになります。もちろんそこから小屋の維持費や食材費等の経費、さらにはコンセッションを受ける条件として国に納付する金額等が差し引かれますが、それでも地元に対する経済効果は高く、麓の村人たちはチリポ山の環境に強い関心を持っています。自然保護と地域開発の両立はなかなか難しいことが多いのですが、利用可能な資源や生態系サービスを持続的に利用、保全しつつ、それが生み出す経済的恩恵をどの様に地元に還元できるかと言うシステムを考えることは、生物多様性保全を進める上で非常に重要です。また、それにより政府の慢性的な人員不足を補い、参加型でより効率的・効果的に管理することが可能になります。
コンセッションを地元の団体に与えるためには、地元のエンパワーメントと各方面との調整等、長い道のりがありました。それら多くの困難を乗り越えて、現在のコンセッションが成り立っています。
今回のチリポ国立公園訪問は、チリポ山という非常に恵まれた資源があると言う例外的な事例ではあるかも知れませんが、それをコンセッションというメカニズムを使って、地元住民と政府が一緒に保全、管理していくと言う一つの成功事例を知ることができたとても良い機会でした。日本からはちょっと遠いですが、二つの海を同時に見ることができる世界有数の場所であるチリポ登山を、是非皆さんも体験してみてはいかがでしょうか?

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クレストネス(兜とか羽根飾り、鶏冠などを意味する。)と呼ばれる岩峰群。

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山小屋の前にて記念撮影。とても快適な滞在ができる。

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チリポ山の頂上にて、一緒に登った仲間たちと。