プロジェクトニュース_33

2018年1月9日

参加型保全活動の経験取りまとめシリーズ 第1回 インディヘナ(先住民)との協働

コスタリカのインディヘナと自然環境保全

コスタリカには24のインディヘナ居留地があり、ブリブリ族、カベカル族、マレク族、チョロテガ族など8つのインディヘナのエスニック・グループが知られています。インディヘナ全体の人口は約10万人と言われていますが、居留地にいるのはそのうち6割ほどです。

居留地の多くがパナマ寄りの山岳地帯であるタラマンカ地域に集中しており、そこにはラ・アミスター国際国立公園、チリポ国立公園などの豊かな自然環境が残されています。こうした地域での自然環境や生物多様性の保全にあたっては、インディヘナの人々の参加や協働というものが非常に重要なテーマになってきます。

今回MAPCOBIOで取りまとめた参加型事例にはインディヘナとの協働事例が2つあります。今回のプロジェクトニュースではその2つの事例についてご紹介させていただきます。

その1.インディヘナのシミリニャク集落におけるテペスクイントレの保全管理事例

カベカル族のシミリニャク集落はチリポ・カベカル居留地内にあります。この集落の人々とSINACが初めて接触したのは2008年のことでした。当時この集落の女性グループが地域振興策の一つとして蝶園の開設を目指しており、この開設にあたってSINACの許可が必要だったのです。

この蝶々園開設案はその後の調査で色々と障害が多いことがわかり、最終的には見送られました。しかしSINACはこの時からシミリニャク集落の人々と継続的に連絡を取るようになりました。

翌2009年、今度は野生生物保護センターを開設する案がシミリニャク集落から出てきました。これに対してSINACが実施可能性を調査したところ、保護センターを管理していく能力がシミリニャク集落の人々では不足しているということがわかりました。そこでSINACは村人たちに対して、保護された野生生物のケアや世話の仕方などについて学ぶ研修や視察旅行を提供しました。その研修・視察に参加したシミリニャク集落の人々は、様々な野生生物保全の現場を目の当たりにし、深い感銘を受けたと言います。

研修や視察時に彼らにとって大きなカルチャーショックであったのが、動物を檻に入れたり、紐で繋いだりすることです。インディヘナの文化圏ではペットであろうが家畜であろうが、あらゆる動物を自由にさせておくことが当たり前で、檻を使うなどは夢にも思わなかったと言います。

こうした研修を通じ野生生物を保全する技術や意義、重要性について学び、理解が進んでいきました。その中でとりわけ彼らの興味関心を引いたのが、インディヘナの文化や生活になじみ深いテペスクイントレ(写真1参照)という大型げっ歯類の保全です。そして研修を受けた村人たちからテペスクイントレの保全施設をシミリニャク集落につくりたいという話が出てきたのです。

テペスクイントレは伝統的にインディヘナの主要な狩猟対象であり、それゆえに彼らの生活に深く関係している生き物でした。シミリニャク集落がある地域にも、かつては多くのテペスクイントレが生息していたと言います。しかし過剰な狩猟圧によって地域のテペスクイントレはもう何年も前から姿を消していたのです。そのため野生生物の狩猟活動を禁止せざるをえなくなったという彼ら自身の反省がありました。もしシミリニャク集落でテペスクイントレを順調に増やすことができれば、この地域にテペスクイントレが戻ってくる可能性があるのです。

2010年、このテペスクイントレ保全施設設置の提案書がシミリニャク集落からSINACに出されました。テペスクイントレの保全を起点として、インディヘナのコミュニティーにおける野生動物や自然環境保全の意識を高め、地域の自然環境を守っていくというのが狙いです。

この案は「インディヘナ・コミュニティーのための多組織間委員会」にも付され、実施に向けた話し合いや調整が進められました。丁度時を同じくしてUNDP(国連開発計画)(注1)がコスタリカにおいて「Removiendo Barreras para la Sostenibilidad del Sistema de Areas Protegidas de Costa Rica」(コスタリカの保護地域システムの持続可能性のための障害排除)というプロジェクトを実施していました。このプロジェクトの協力を仰いだところ、$10,000の資金援助を得ることが出来ました。これをもってテペスクイントレ保全施設設置に向けた動きが本格的に始まったのです。

2012年になり、シミリニャク集落の村人15名がINA(国立職業訓練学校)でテペスクイントレの飼育や繁殖についての技能訓練を受けました。また村の女性グループが加入しているAsociacion Duchi(この地域一帯の先住民の生計向上を目的とした市民グループ)もこのテペスクイントレ保全施設設置に向けた活動を様々な形でバックアップしていきました。

外部からの支援に頼るだけでなく、自分たち自身でもテペスクイントレの食料となる植物の種を蒔き育てるなど、着々と保全施設開設に向けて準備が進んでいきました。

2013年にシミリニャク集落に念願のテペスクイントレ保全施設が完成し、7月に最初のテペスクイントレ(メス3匹、オス1匹)がやってきました。この施設には多くの村人が訪れ、テペスクイントレ保全活動を通じてシミリニャク集落の人々に野生生物保全の重要性や意義が根付いていきました。

その後人手不足や財政不足などによる保全施設の運営管理が困難になる状況を経験しつつも、現在もテペスクイントレの保全活動は続いています。またシミリニャク集落ではランの栽培や伝統的な民芸品の作成なども積極的に行われるようになり、自分たち自身の手でより良い環境を作っていこうとする動きは引き続き活発に行われています。こうした動きは近隣のインディヘナのコミュニティーにも知られるようになり、他の集落から視察が来るようにもなりました。

シミリニャク集落の人々の思いと行動が、周りの人々や多様な関係機関を巻き込みながら様々な取り組みを実現させていったのです。

【画像】

写真1.テペスクイントレ。日本での通称はローランドパカ。学名Cuniculus paca。成体は体長70cm、体重9kg程度あるやや大型の齧歯類。肉が美味と言われ、かつて現地では盛んに狩猟が行われ、個体数が激減した。

【画像】

写真2.テペスクイントレ保全施設。テペスクイントレを檻の中に放つ村人

その2.インディヘナのカバグラ居留地における参加型管理事例

ブリブリ族のカバグラ居住地はラ・アミスター国際国立公園の南西部境界線と接する場所に位置し、国立公園の自然を守るうえで欠かせないバッファー・ゾーンとしての機能を果たしています。

この地方にはカバグラ居留地の他に5つのインディヘナ居留地があり、そのすべてがラ・アミスター国際国立公園を水源とするカバグラ川の流域に存在しています。

ラ・アミスター国際国立公園の管理計画の策定と実施にあたっては、カバグラ川で繋がっているインディヘナ居留地に住む人々の協力が欠かせません。

この地域のインディヘナの人々は農牧畜や狩猟採集活動を生業としています。しかし近年インディヘナではない近隣住民との土地利用を巡る争いなどもあり、居留地内外で生産活動や狩猟採集活動が過剰に進行して行くようになりました。特に彼らの居留地の内外にお
いて行われる焼き畑行為はしばしば大規模な森林火災を引き起こし、流域管理や生態系保全上の重大な脅威となっていました。

そこでSINACは地域の自然環境保全を目指し、2002年から2004年にかけてこの地域のインディヘナと共にラ・アミスター国際国立公園の管理計画策定を行いました。言葉や文化が異なるインディヘナとの共同作業は容易ではなかったと言います。しかしこの作業を共に進める中で、インディヘナの人々は自分たちの持つ自然資源や環境を保全してゆくことの重要性についての理解を深めてゆき、またSINACとしてもこの地域のインディヘナとの信頼関係をすこしずつ醸成してゆき、相互理解が進んでゆきました。

2004年からはSINACによる環境教育のプログラムも開始されました。この環境教育プログラムは2012年まで続けられ、自然資源の保全や持続可能な利用、山火事の予防などについての知識がインディヘナのコミュニティーに根付き、広がってゆきました。

2009年から2014年にかけて、GEF(地球環境ファシリティ)(注2)の資金を得てUNDP(国連開発計画)(注1)が実施したプロジェクト「Removiendo Barreras para la Sostenibilidad del Sistema de Areas Protegidas de Costa Rica」コスタリカの保護地域システムの持続可能性のための障害排除)も重要な役割を果たしました。このプロジェクトを通じ、コスタリカ各地のインディヘナ居留地において「Agenda Indigena」(先住民アジェンダ)というものが策定され、それに基づく様々な活動が実施されたのです。これは自然環境保全と持続可能な自然資源の利用を行う上で行われるべきことをまとめたロードマップのようなもので、カバグラ居留地だけでなく、近隣のウハラス居留地、サリトレ居留地のインディヘナを巻き込み、持続可能な農業や自然環境保全に関する様々なワークショップなどが行われました。またインディヘナの伝統文化を紹介しあう文化祭りなども行われ相互理解が進み、協働のための体制が強化されてゆきました。

こうした活動の結果、2013年からは20名のインディヘナの若者のボランティアが参加する山火事対応の消防団が編成され、森林火災の消火活動や防災などの業務に従事するようになりました。こうした活動が行われるようになって以来、地域の自然環境保全において最大の脅威であった森林火災の発生件数は明確に減少していっていると言います。

また12名の自然資源保護チームも編成され、違法な伐採や狩猟をパトロールで防ぐなどの活動も行われるようになりました。その他に植林活動、インディヘナの人々が伝統的に利用してきた植物の栽培、統合農家活動、参加型環境モニタリング活動などが行われるようになりました。このようにインディヘナの人々は、SINAC等の外部の協力を得ながら、主体的に居留地の自然環境保全に関わってゆくようになっていったのです。

【画像】

写真3.カバグラ居留地のインディヘナの人々で編成された森林火災対応チーム

インディヘナとの協働事例体系化により得られた知見

この2つの事例から、SINACはインディヘナとの協働における教訓として以下の6項目を抽出しました。

・コミュニケーションと信頼関係の構築
・インディヘナの文化、伝統、それら背景の理解
・インディヘナの権利と法的な規範の順守
・研修等による住民のエンパワーメント
・行政側の部署部門を超えたグループワーク対応
・収益性なども考慮した自然・文化資源の利活用

今後SINACではインディヘナと協働で行う事業において、こうした点を考慮に入れるとともに、また新たな教訓が得られた場合はこの6項目を修正または新規追加するなどして対応してゆきます。

次回のプロジェクトニュースではコンセッションと利用許可に関する事例についてお送りいたします。