プロジェクトニュース_35

2018年1月10日

参加型保全活動の経験取りまとめシリーズ 第3回 同業組合(多組織協働)

自然環境保全において多様な組織・団体・行政機関を巻き込む意義

コスタリカには7県81市があり、それぞれの市の環境課は自然環境保全や廃棄物処理などの業務に携わっています。しかし適切な環境管理を行うには、自分たちの管轄する行政区画だけにとらわれていてはうまくいかないことが多々あります。例えば長大な河川流域や広大な面積を持つ野生生物保護区などは、複数の地方自治体の行政区画に跨っている場合がほとんどです。そうした流域や保護区などの管理や保全を行おうとしたとき、関係しているすべての市町村が参加し、連携していかなければうまくいきません。

その一方で、市町村行政側は自然環境保全や環境管理面で他機関と協働していけるだけの体制が整っていないことも多々あります。協働に向けた制度や仕組みを整えたうえで、ようやく多様な行政組織や関係団体が協働した形での自然環境保全を展開することが出来るのです。

環境行政を担う環境エネルギー省(Ministerio de Ambiente y Energía、以後MINAE)や国家保全地域システム庁(Sistema Nacional de Áreas de Conservación、以後SINAC)にとっても、市町村行政と協働していくことは非常に重要です。国レベルで策定される環境保全戦略などを実際の現場に落とし込んでいくには、市町村行政の担当部署にその内容や方向性を正しく理解してもらう必要があります。また市町村レベルで行われる自然環境保全活動は地域住民、その地域で活動する環境NGOや研究機関等の民間団体も巻き込んで行われるため、実際の現場への高い波及効果が見込めます。

今回MAPCOBIOで体系的に取りまとめた参加型保全事例の中にも、市役所やNGO等多様な関係組織を巻き込んでいった事例があります。今回のプロジェクトニュースではその事例についてご紹介させていただきます。

中央火山帯保全地域における参加型のプロセスを用いた市の環境管理プログラム

SINACの中央火山帯保全地域事務所(Área de Conservación Cordillera Volcánica Central、以後ACCVC)(現在の中央保全地域 Área de Conservación Central(ACC)の前身)はサンホセ県、エレディア県、アラフエラ県、カルタゴ県などに跨り、コスタリカの経済活動の中心である人口密集地の中央盆地と、その盆地を取り囲む中央山岳地帯を擁しています。このSINAC-ACCVCの管区内にはコスタリカの総人口の54%、約260万人を超える人々が居住しており、合計37の市が存在します。それらの市は廃棄物や排水の処理、水質の管理といった都市部で多くみられる環境管理面での様々な課題を抱えています。

SINAC-ACCVCが管区内の市役所や様々な関係機関と共に環境保全に向けた活動を始めたのは1995年にさかのぼります。この年コスタリカでは「Ley Orgánica del Ambiente N.7554」という法律が公布されました。これを受けてコスタリカの環境行政機関の有機的な連携強化や、異なる行政機関でやや重複していた所掌業務の整理や明確化がなされました。当時のコスタリカにおける環境行政責任省庁は自然資源・エネルギー・鉱物省(Ministerio de Recursos Naturales Energía y Minas、以後MIRENEM)だったのですが、先述の法律の公布によって組織改編が行われ、MIRENEMは環境エネルギー省(MINAE)として生まれ変わりました。また中央省庁だけでなく、地方自治体の環境担当部署もこの法律の公布を受けて、他の地方自治体や中央省庁とも連携しながら環境問題に当っていくという社会的な動きが活発になりました。

翌1996年、中央盆地に位置する各市はそれぞれ連携しながら環境保全・管理を適切に行っていくことを目的としたコミッションを設置しました。そしてそのコミッションにMINAE、保健省(Ministerio de Salud、MINSA)、大学、NGOなどがアドバイザーとして参加したのです。

この時期、官民問わず多様な組織や団体が連携する流れは他にも見られました。例えばアラフエラ県とエレディア県にまたがって流れるシルエラス川に流入していた家畜排水による汚染を軽減・解消するために設置されたコミッションにはサンタ・バルバラ保健センター、サンタ・バルバラ農業拡大機構、農牧省のエレディア林業事務所が参加しました。他に1996年にサン・ラモン市役所がMINAEと協定を結んで設置したサン・ラモン市自然資源管理事務所や、中央盆地で増大する水の需要と供給、それに伴う排水の処理などについて関係する組織が連携していくために設置された中央火山帯南部地域組織間コミッションなどがあります。この他にも1990年代後半には様々な組織間連携が進みました。

このように1990年代後半に盛んになった官民を問わない組織間連携活動において、SINACは市役所をはじめとした多様な組織に対して自然資源管理や保全に必要な知識や技術を提供することを目的として、自然資源監視警戒委員会(Comités de Vigilancia de Recursos Naturales、以後COVIRENAS)を設置しました。COVIRENASは2000年代に入りエレディア県の河川の支流保全のための多組織委員会(Comisión Interinstitucional de Microcuencas de Heredia、以後CIMH)の活動強化などを支援するとともに、健全な環境保全を目指して農牧省(Ministerio de Agricultura y Ganadería、MAG)や社会保険庁(Caja Costarricense de Seguro Social、CCSS)といった他省庁との連携も強化してゆきました。

こうした地方自治体の能力や連携の強化を目指し、2002年にコスタリカは欧州連合(EU)と共にプロジェクトFOMUDE(Fortalecimiento Municipal y Descentralización en Costa Rica、地方自治体強化と地方分権プロジェクト)を開始しました。(FOMUDEは2011年に終了。10年間でEUの投入した資金は12.6百万ユーロ。約16.8億円)このFOMUDEの資金を基にSINAC-ACCVCと各市は後述の様々な活動を展開していきます。

2003年、SINAC-ACCVCはCOVIRENASなどの活動を通じて協働関係を築いた市に対して、環境保全や管理における市役所の実態を把握するための質問調査を行いました。この調査の結果は残念ながらあまり芳しいものではありませんでした。例えば環境管理についてのコミッションを持っていても実態としては何も動きがないものや、コミッションがあっても市の環境行政の意思決定に十分関わっていないなど、組織体制として非常に脆弱なものが多いことが明らかになったのです。

こうした事態を受けて、2004年にSINAC-ACCVCは”ACCVCと各市のコミュニケーションと調整メカニズム強化”のためのワークショップを開きました。質問調査などの結果、多くの市が人手も能力も不足していることが明らかになった為、SINAC-ACCVCはその能力強化に協力することをこのワークショップにおいて申し入れたのです。そしてそのSINAC-ACCVCの申し入れに賛同する市については、連絡員を置いて能力強化や調整・連絡を受け持つこととなったのです。SINAC-ACCVCの申し入れに賛同した市は14市に上りました。そして2005年4月27日に最初の連絡員会議が行われ、その後も会合を重ね、能力強化戦略や環境管理計画などを策定し、実施に移していきました。

2006年に入り、各市の連絡員たちの能力向上やフォローアップのための技術委員会をSINAC-ACCVCの職員が中心となり結成しました。そしてその技術委員会は“市の環境管理強化プログラム”を立ち上げました。そしてこのプログラムの内容検討や実施においてSINAC-ACCVCの職員たちは参加型のプロセスを採用しました。

参加型とは、関係する地方自治体やその他関係組織の担当者が自らの意見やアイデアを出し合いながら議論を重ね、決定事項をプログラムに落とし込んでいくというやり方で、SINAC-ACCVCはファシリテーションを担当しました。そのようにして、各市の環境管理行政が適切に行われるように連携していったのです。

参加型のプロセスで決められた事項(プログラムの実施計画策定、適切な環境管理に向けた技術書作成、研修計画作成、作業計画書作成、環境管理ユニットの結成促進、ワークショップの実施、環境管理分野での許可書等各種フォーマット作成など。)は、SINAC-ACCVC職員を中心としたコミッション執行部によって、次々と取りまとめられていきました。そしてプログラムに従い、リサイクル、廃棄物処理、植林、水源地涵養、生物多様性保全、気候変動対策、清掃活動、環境教育、環境サービスへの支払制度促進等の各種活動が実施され、活動促進キャンペーン活動も盛んに行われました。他に政策面への働きかけとして、“アラフエラ県、カルタゴ県、エレディア県の各市の環境コミッションの活動規定整備”、“サンホセ県、アラフエラ県、カルタゴ県、エレディア県の環境政策についての提案書の提出”、“廃棄物の統合的な管理計画策定”“流域管理のコンセプトを含めた統合的環境情報システムの作成”なども行われました。

2011年のFOMUDEの終了と共にこうした活動はやや落ち着きをみせましたが、地方自治体の環境管理能力強化や実施体制の整備がなされたことで、コスタリカの中央盆地における環境管理の状況は大きく進歩しました。また多様な組織同士の協働によって築かれた繋がりは、今日においても様々な場面で活かされています。

【画像】環境保全・管理における多様な関係組織の担当者が出席し会合を行う様子

市役所・同業組合から得られた知見

政治的なサイクルと人員のローテーション

市長や市議会議員の関与は重要なため、彼らの任期や活動が軌道に乗り始めるタイミングなどを勘案しつつ作業を進める必要がある。

市の行政における環境管理プロセスへの適合

各市に連絡員などの担当者を配置してもらうことで、各市における活動の実施や進捗状況の管理などが容易になる。

姿勢の変化

市町村や関係省庁の担当官、活動に関わったその他組織の人々、地域住民などの自然環境保全や環境管理に関する認識を新たにさせ、行動変容を促す活動や機会、場所を提供することが重要である。

多様な組織の活用 衛生上下水道システム管理協会など(Las Asociaciones administradoras de los Sistemas de Acueductos y Alcantarillados comunales en Costa Rica、以後ASADA)

自然環境保全・管理についての活動を促進する能力を持った組織を強化し、協働してもらうことで、さらに活動の成果を高めることが出来る。例えば流域管理についてはASADAを巻き込むことで、より良い活動を展開できた。

組織間コミッションの結成

多様な組織・関係者間での調整を円滑に行うために、コミッションを結成することで一丸となって活動を進めることができた。

活動手法の一般化

環境保全や管理活動に係る手法や基準のスタンダードを定めて、関係者で共通認識を形成しておくことが重要。それによって戦略・計画の実施を効果的に行うことが出来る。

資金調達

活動資金を獲得するため、様々な資金メカニズムを活用することが重要。

能力向上

活動の成果を高めるには関係者の能力強化は極めて重要。

次回の参加型保全活動の経験取りまとめシリーズ(第4回)では環境教育をテーマにした事例をご紹介します。