プロジェクトニュース_38

2018年3月28日

参加型保全活動の経験取りまとめシリーズ 第6回 水資源管理

コスタリカの地方における水資源の自主的管理

世界には都市部を離れると十分な水道サービスが得られないという国・地域が数多く存在します。そうした地方においては、湧水、天水、井戸水、河川水などを利用し、地域住民が自主的に水道システムを構築し、管理運営しているという事例が少なからずあります。

コスタリカの場合も同様で、コスタリカの水道公社や地方自治体の提供している水道サービスは都市部を中心にカバーしており、多くの地方は水道公社などのサービスの外に置かれています。良質な水道サービスを受けられない地方では、安定的な水の利用が制限され、日常生活や仕事において不都合をきたす他、不衛生な水の利用に起因する疾病が蔓延したり、乳幼児の高い死亡率につながるなどの問題が生じます。

こうしたことから、コスタリカでは1960年代に地方の住民が自力で水道を管理運営しようといった動きが始まりました。そしてこの動きに対応するため、水道公社や保健省が中心となり、地域住民が自力で管理運営する水道の整備事業が始まりました。地方におけるこうした住民自治型の水道整備事業は、1970年代に入って大きく進み、現在ではコスタリカの全国に1500を超える水道管理の住民組織が存在します。こうした地方の住民組織が管理する水道サービスの受益者はコスタリカの人口の約28%、およそ140万人に上るといいます。

こうした水道管理を行う住民組織は、細かく見ていくといくつかの種類・名称がありますが、その大半は上水道管理協会(las Asociaciones Administradoras de Sistemas de Acueductos y Alcantarillados Comunales:以後ASADAもしくは上水道管理協会)と呼ばれています。ASADAは水道公社から支援を受けながら、水道の管理運営、水源地の保全などを自身の手によって行っています。

コスタリカの経済活動の中心地であるサンホセ県、エレディア県、アラフエラ県、カルタゴ県などの中央盆地には、コスタリカの総人口の約6割にあたる280万人を超える人々が居住しています。そうした都市部では大量の水が消費されるため、その水源地の管理や保全、給水ラインの維持管理などは非常に重要なテーマとなります。

そうした都市部に供給される水の水源地となっている中央山岳地帯には、多くのASADAが存在し、水源地の保全と管理において重要な役割を担っています。ASADAは主として自身の居住地域の水源地の保全活動を展開していますが、その活動は結果的により下流の都市部に供給される水の水量や水質にも関係してくるため、ASADAの存在は都市部にとっても非常に重要な意味を持っています。

中央盆地とそれを取り囲む中央山岳地帯を管轄している国家保全地域システム庁(Sistema Nacional de Áreas de Conservación:以後SINAC)の中央火山帯保全地域事務所は、その管区内の各市、水道公社、ASADAなどと共に、これまで水量や水質等の水資源の安定的な維持管理のための水源地涵養・保全事業を進めてきました。

今回プロジェクトMAPCOBIOで取りまとめたコスタリカにおける参加型保全活動の経験の中には、ASADAによる水資源管理に関する以下の事例があります。

1.サバニージャ上水道管理組合による水資源管理参加型プロジェクト
2.パソ・アンチョ・ボケロン上水道管理組合の経験

今回のプロジェクトニュースではこれらの事例についてご紹介させていただきます。

1.サバニージャ上水道管理組合による水資源管理参加型プロジェクト

アラフエラ県アラフエラ市のサバニージャ地区は中央山岳地帯にあるバルバ火山の南西稜とポアス火山の南稜が交差する丘陵地帯にあり、その10km程南にはアラフエラ都市圏というコスタリカ屈指の人口密集地が広がっています。このサバニージャ地区において、冒頭ご紹介したASADAによる水資源管理の動きが始まったのは30年以上前のことになります。

その当時、このサバニージャ地区にはアラフエラ市の管理する水道サービスが存在していました。しかし市の水道サービスは良質とは言い難いもので、サービスの向上を目指そうにも市の財政的に難しい状態でした。

その頃既にコスタリカの様々な地方にはASADAがいくつも存在し、住民が自分たちの手で水道の管理運営を行い、必要な水量・水質を確保する活動を行っていました。サバニージャ地区の住民もこれに倣い、より良質な水道サービスを得るためにサバニージャ上水道管理協会を結成し、自主的な水道管理運営を行う道を選んだのです。

1986年、アラフエラ市がサバニージャ地区の水資源の管理権限を地域住民に移譲し、サバニージャ上水道管理組合は動き始めました。当初の活動は手探り状態で進められたと言います。その後1990年になり、このサバニージャ地区にUSAID(米国国際開発機構)の支援が入り、新しい給水システムが構築されました。この新しい給水システムのおかげで、この地域の住民たちは水を安定的に利用出来るようになりました。その一方で、当時は水道料金というものが存在せず、水の浪費や無駄使いが横行するようになりました。当時地域住民の間では、水は無尽蔵に存在し、利用できるものだという認識が一般的でした。そのため水源地の保全や持続可能な資源管理といったアイデアが、地域の住民に顧みられることはほとんどありませんでした。

こうした状況にサバニージャ上水道管理組合執行部は危機感を募らせました。そしてこの事態に対処するため、水道公社の支援を得て水道メーターをサバニージャ地区に導入する活動などをはじめました。しかし水道メーターの導入は水道料金の徴収につながりかねないと考えた地域住民は、サバニージャ上水道管理組合に反発し、執行部役員を全員罷免してしまいました。

その後新しいサバニージャ上水道管理組合執行部の働きかけや、持続可能な水資源管理などについての意識を持った地域住民の活動によって、水の使用に関する規制の重要さ、水資源の経済的価値、資源管理の視点などが地域住民にも徐々に浸透していきました。そして、1990年代後半にはサバニージャ地区での水道メーターの設置なども進んでいきました。

こうした水道メーターの導入などが進んだこともあり、2000年代に入り、サバニージャ上水道管理組合に水道料金が安定的に入るようになりました。このお金はASADAの運営や水道施設、水源地の管理保全活動に充てられました。しかしここで再びサバニージャ上水道管理組合は運営上の問題を抱えることになりました。不透明かつ杜撰な会計業務がサバニージャ上水道管理組合において発覚したのです。これを改善するため2003年にサバニージャ上水道管理組合は水道公社と協定を結び、適切な水道事業の管理運営や業務改善に関する指導や研修を受けることとなりました。

2005年から2006年にかけてサバニージャ上水道管理組合は体制を刷新し、会計業務の透明性を確保し、新たな活動が始まりました。またそれまでは地域の有力者だけで行われていたサバニージャ上水道管理組合の運営・管理の会合も取りやめになり、あらゆる活動、手続きが公平かつ透明性を確保した形で執り行われるようになったのです。そして良質な水が提供されていることを示すため、水質の化学分析なども適正に行われ、その結果は地域の利用者に通知・共有されるようになりました。サバニージャ上水道管理組合の活動はこの頃になってようやく軌道に乗り始めたといえます。

それから少し経った2009年1月8日、コスタリカの首都サンホセから30kmほど北にあるバラ・ブランカ・アンヘル断層を震源とするマグニチュード6.2の地震が起こりました。サバニージャ地区は震源地に近かったことから、水道施設など含めかなりの被害を受けました。2010年になり、この震災復興の一環としてドイツ赤十字社の支援を得て、サバニージャ上水道管理組合は自前の事務所を新設しました。自前の事務所を持ったことにより、以前は財政的な負担となっていた事務所の賃借料も不要になり、より良い水資源の管理や保全に向けた活動が進んでいくこととなりました。また2011年には同様に災害復興の一環として、600万コロン(約120万円)の助成金を得て、2kmの送水管が設置されました。また、水の安定供給と水質管理のため、1300・3の貯水タンクを設置するプロジェクトなども進んでいきました。2012年に入ると、地元の子供たちを巻き込んで水源地に植林をするなど、サバニージャ上水道管理組合の活動は震災前以上に活発になっていきました。

丁度同じ2012年、UNDP(国連開発計画)がコスタリカにおいて「Removiendo Barreras para la Sostenibilidad del Sistema de Areas Protegidas de Costa Rica」(コスタリカの保護地域システムの持続可能性のための障害排除)というプロジェクトを実施していました。これに関係して、SINACの中央火山帯保全地域事務所が、「中央火山帯生物圏保護区のバッファーゾーン管理における地域住民の連携及びイニシアチブ」というパイロットプロジェクトを実施することになり、カウンターパートとなる住民組織を探していました。

サバニージャ上水道管理組合は先述のようにこの時期非常に活発な活動を展開していました。さらにその活動地域であるサバニージャ地区は、ポアス火山国立公園のバッファーゾーンに位置し、またSINACの指定しているグラシムニョス生物回廊にあたる地域であっため、SINACの中央火山帯保全地域事務所にとってサバニージャ上水道管理組合は理想的なパートナーといえました。そうして利害関係が一致したサバニージャ上水道管理組合とSINACの中央火山帯保全地域事務所は協定を結び、当該地域の水源地管理と保全を目指し、先述のプロジェクトを始めました。

それまで地元でしか活動を実施したことのないサバニージャ上水道管理組合にとって、このプロジェクトは実施期間も予算規模も活動対象地域も、それまで経験したことがない大きなスケールのものでした。そのためプロジェクトデザインの設計には大変な苦労が伴いました。しかし中央火山帯保全地域事務所の職員や外部コンサルタントの支援を得ながら、サバニージャ上水道管理組合はこの作業を進めていきました。

プロジェクトが実施段階になると、サバニージャ上水道管理組合はまず自身の活動の本拠地であるサバニージャ地区の住民、特に小学校などの教育機関の協力を得た活動を展開していきました。そして水資源管理や水源地保全の重要性を訴えるパンフレットやバナー、動画など様々な教材やマテリアルを、地域の人々と共に作成していきました。この作業を通じてサバニージャ地区の住民は水資源管理や水源地保全の重要性についての認識を新たにし、より積極的にサバニージャ上水道管理組合の活動を支援するようになったといいます。

またサバニージャ上水道管理組合は他地域のASADAとも協働し、水源地の保全活動を促進させていきました。この過程で各地のASADAはお互いのそれまでの歩みや、経験、抱えている課題や問題点などを相互に知り、学び、自分たち自身の活動を振り返る機会を得ました。

各地のASADAはそれまで小さなエリアで個別に活動していただけでしたが、このプロジェクトの実施を通じて、地域レベルや国レベルといった、より大きなスケールでの取り組みの重要性というものにも意識が向くようになりました。

こうしたプロジェクトの実施を通じて、サバニージャ上水道管理組合の水資源管理や水源地保全の能力・意識が大きく向上したのは言うまでもありません。プロジェクトが終了した今現在も、サバニージャ上水道管理組合は中央火山帯保全地域事務所の職員達と連携しながら、地域の水資源管理や水源地保全のための活動を精力的に展開しています。

【画像】4地域のASADAの会合(サバニージャ地区、サンタ・クリスティーナ地区、ラ・スイサ・デ・トゥリアルバ地区、カリサル・デ・アラフエラ地区)

2.パソ・アンチョ・ボケロン上水道管理組合の経験

コスタリカの中央盆地にある旧都カルタゴから北東30kmほどのところに、中央火山帯の一座をしめるイラス火山(標高3432m)があります。このイラス火山の南東稜外縁にはレベンタソン川が流れており、その支流にあるビリス川とパエス川(2つ合わせた流域面積約50平方キロメートル)はオレアムノ、パライソ、アルバラードの3地域に水を供給しています。この水は生活用水としての利用はもちろん、農牧畜業や水力発電などにも利用されており、この地域の人々の生活基盤を支える重要な自然資源となっています。

このビリス川とパエス川の下流域はイラス火山を始めとするコスタリカの中央火山帯由来の火山灰土壌が深く堆積しており、その土壌中に豊富に存在する腐植がもたらす養分は、この地域の農業の生産性を維持するのに欠かせない存在です。しかし中流域から上流域にかけてはさほど農作物の作付けに適した土壌ではなく、牧畜業の方がより盛んです。

1990年代、このビリス川とパエス川の上中流域の農牧畜業や集落から出される排せつ物、農薬や化学肥料、生活排水によって、河川や水源地の汚染が深刻になっていきました。この時期、こうした問題はカルタゴ県の多くの地域で見られ、各市はその対応に乗り出していました。そして1998年、SINACの中央火山帯保全地域事務所は、水源地を保全するためのプロジェクトの実施と協力をカルタゴ県の各市に呼びかけました。これに呼応したのがカルタゴ県の中核であるカルタゴ市でした。それ以来カルタゴ市とSINACの中央火山保全地域事務所は水源地保全と水資源管理のため長きにわたる協働活動を展開させていきました。

両者は2000年代初頭、カルタゴ県の保全地域となっている水源地及び涵養井(注)の場所と状況を特定する活動を行いました。その結果汚染の程度が深刻な地域や管理状況の悪い水源地などが次々と特定されていきました。こうした地域の水源地の管理状況を改善するため、2006年から2007年にかけて、SINACの中央火山帯保全地域事務所とカルタゴ市は調査結果を地域一帯のコミュニティーと共有し、現状の説明と問題提起を行いました。

この際、カルタゴ市とSINACが特に優先度を高く設定して活動を取り組んだのがオレアムノ地方のコト地区とパソ・アンチョ・イ・ボケロン地区でした。そこには主要な水源地と送水管が集まっており、その保全と適切な管理は極めて重要な事項でした。

この地域では水源地での森林伐採、家畜の排せつ物、ゴミの焼却や投棄、生活排水、化学肥料や農薬などによる水源地の汚染が確認されていました。そのためこの地域を活動拠点としているパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合はカルタゴ市とSINACの中央火山帯保全地域事務所と協働し“水の友達”と呼ばれる環境教育プログラムを設計・実施するとともに、適切な水源地管理や保全を行えるように住民向けの研修などを行う事にしました。研修にあたってはSINACの他に農牧省、国立職業訓練学校、カルタゴ市、電力公社など多様なアクターが参加し、それぞれが担当するモジュールを決め、多組織協働の形で進めていくことになりました。

こうした行政側の動きに呼応する形で、住民側にも組織化の動きが出てきました。2010年にビリス川支流域管理委員会という住民グループが形成され、翌2011年にはパエス川支流域の管理を行う住民グループを含めたビリス‐パエス委員会が発足しました。この委員会発足にあたってはSINACの中央火山帯保全地域事務所の職員がファシリテーションを行いました。ビリス‐パエス委員会には現地集落のリーダーやASADAといった住民組織のメンバーが名を連ね、SINACや教育省、コスタリカ大学、国立遠隔大学などが様々な形でその活動を支援する事となりました。

2011年、ビリス‐パエス委員会にとって非常に重要な事件が起きます。イラス火山の北東およそ10kmのところに位置するトゥリアルバ火山(標高3340m)が噴火し、周辺地域の住民の生活や産業に大きな被害を出しました。こうした状況に対応するため、このビリス川・パエス川流域にある3つのASADA(コト地区、パソアンチョ・イ・ボケロン地区、シプレセス地区)と地方自治体は協定を結び、相互に水や水道管、管理用資機材を融通しあう形で火山の噴火被害に対応しました。こうした活動を通じて地域の結束力や他組織間での連携や関係が強化されたといいます。

こうした自然災害の中でも、ビリス‐パエス委員会は水源地の保全に向けた活動を継続していました。その活動の中でも特に重要なのが2011年から行われた水源地の特定とその状態についてのデータ取集活動でした。パソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合やSINACの中央火山帯保全地域事務所職員、コスタリカ大学の研究者や学生らはこの地域の山々を踏破し、時に急峻な崖をザイルで登り降りし、水源地を突き止めてはそのデータを収集していきました。そしてビリス‐パエス委員会は数年をかけて最終的に41の水源地の位置と状態を記録しました。その調査結果は、2015年に実施されたビリス‐パエス委員会のワークショップで関係者に共有されています。

2012年になり、より多くの地域の人々の巻き込みを狙い、SINACやパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合を中心とした活動グループが地元の主婦、老人、子供たちを巻き込んだ形で環境祭りを企画し、自然環境保全、植林、リサイクル、水資源管理など10のテーマについて様々なアクティビティーやイベントを行いました。また事業実施体制の弱い周辺地域のASADAを対象とした支援事業なども行い、各地のASADAの水源地保全や水資源管理能力の強化に努めました。

こうした活動の結果、2013年頃からこの地域では自ら環境保全活動を推進しようとする住民グループが出てきました。例えば、地域の老人たちが“パソアンチョ・イ・ボケロン黄金麦穂会”を設立し、法人格を取得してパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合やSINACとともに活動を始めました。またこの地域の小作農たちもパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合やコト地区のASADA、農牧省などの支援を得て環境保全活動を行うグループを作りました。こうした住民グループの活動によって化学肥料ではなく有機肥料を用いたり、植樹を行ったり、バイオダイジェスターを設置するなどの活動が普及・拡大していき、着実に地域の自然環境保全や水源地の保全状況が改善していきました。

2014年に入り、当時UNDP(国連開発計画)がコスタリカにおいて実施していた「Removiendo Barreras para la Sostenibilidad del Sistema de Areas Protegidas de Costa Rica」(コスタリカの保護地域システムの持続可能性のための障害排除)というプロジェクトの一環として、SINACの中央火山帯保全地域事務所は住民参加型での環境保全・管理プロジェクトを行うことになりました。このプロジェクトの実施期間は6カ月(最終的に2ヶ月間の延長され8ヶ月)で、予算は$10,000(当時のレートで約103万円)でした。SINACの中央火山帯保全地域事務所は、パソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合をこのプロジェクトのカウンターパートとして“イラス火山国立公園水源涵養地のビリス川・パエス川の統合的流域管理イニシアチブ強化プロジェクト”を開始しました。

このプロジェクトの実施を通じて有機農業研修、水源地保全活動、調査活動、環境教育などが行われましたが、とりわけ重要な活動は、天水の有効利用のためのタンクや配水管の設置でした。この地域では大量の水を農業や敷地の植物への散水、掃除、建設作業といった、必ずしも浄水を必要としないところでも消費しており、その消費を抑える必要があったのです。

このプロジェクトはサンタ・ロサ地区、ブエナ・ビスタ・スール地区、ノルテ・デ・パカジャ地区など、これまでそれほどパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合の活動とあまり関りのなかった地区においても実施され、それらの地区のASADAとも連携した形で進められました。

先述の地域の人々にとって天水の利用はこれまであまり経験がなく、大きなタンク(容量約2500L)の設置に抵抗感を示す関係者も少なくありませんでした。しかし天水の有効活用によって地域の浄水の消費を抑えることが出来るため、最終的に6か所の学校などの教育施設の敷地にタンクが設置されました。これらのタンクは現在も様々な用途で活用されており、地域の生活に欠かせない存在となっています。

2015年になりプロジェクトの終了前にパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合などのプロジェクト関係者は、プロジェクト対象地以外の地域に赴き、各地のASADAとの意見交換や、多様な河川の水源地となっている周辺地域の国立公園などの管理の取り組みなどを視察する機会を得ました。こうした他地域への視察旅行によって、行政区画にとらわれない流域保全や水資源管理の重要性の認識を新たにしたといいます。

パソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合は、ビリス川、パエス川流域で活動するASADAの中では比較的小規模な団体でした。しかしSINACの中央火山帯保全地域事務所やカルタゴ市の支援を得た活動を続けながら、高い環境保全意識や事業実施能力を着実に身に着けていきました。それに加えてその活動地域には“パソアンチョ・イ・ボケロン黄金麦穂会”のような高齢者を中心メンバーとした団体が設立され、若者や子供たち、小作農から主婦などが積極的に水源地の保全活動に参加するようになるなど、ASADAの活動が着実に地域社会全体に変化をもたらしていきました。

今日もコスタリカの地方では、このパソアンチョ・イ・ボケロン上水道管理組合の事例のように、水と共に生きる人々の活動が続いています。

(注)一般的な井戸と異なり、水をくみ上げるのではなく地下の帯水層に注水するための井戸

【画像】ビリス・パエス委員会の会合の様子

水資源管理から得られた知見

1.統合的なビジョンを持つ

ひとつのASADAの活動は流域のごく一部で行われるものであるが、流域全体についても知り、考える、統合的なビジョンを持つことが必要不可欠である。またその活動は、水を利用する多くの現地住民のニーズや、抱えている問題点を統合的に分析したうえで行われなければ、適切な水資源管理や水源地保全は達成できない。

2.「水」というテーマは特別な意味を持つことを意識する

水をテーマにすることで、水質の管理や水源地の保全を行うにあたり流域全体の生態系や自然環境に配慮したアクションを取ることが可能になる。また水がなくては日々の生活も生産活動も行えなくなるという当たり前の事実を認識させ、その価値や重要性について地域住民の気づきを促し、保全のために出来ること(廃棄物の適切な処理、土壌の保全、植林、化学肥料や農薬の流出防止など)を日々の生活の中で実践してもらう。

3.参加のための機会やスペースの確保

ビリス-パエス委員会のように多様な組織が参加し、流域保全のための調整・協働を行うことが重要。

4.能力向上

流域管理保全のためにASADA執行部やSINACの人員など、主要なアクターの能力強化・向上は必須である。そのための研修や他のASADAなどとの交流を通じた経験の共有や意見交換などは非常に重要である。

5.事業の適切な計画と実施

研修・視察・イベントなどを行う際には、その目的を達成できるよう、関係者でアジェンダのすり合わせを行い、移動手段、食事、宿泊、保険などのロジスティック部分でも事前準備を関係者でしっかりと行うことが重要。雨水のタンクなど新しい設備を導入するにあたっても、その適切な利用や管理方法などについてのマニュアルを用意し、設備の設置やマニュアルの理解についてもファシリテーションを適切に行う。

6.SINACの役割

多様な利害関係者が参加する流域管理というテーマでの活動においては、SINACがそれぞれのアクターを仲介したり、ASADAのような主要アクターの活動を円滑に進めるための便宜や調整を図ることが重要。

次回の参加型保全活動の経験取りまとめシリーズ(第7回)はいよいよ最終回です。環境サービスをテーマにした3事例をご紹介します。お楽しみに。