キューバ農業分野における援助協調

2017年10月3日

2017年6月

キューバは東西冷戦時代にはソ連を中心としたコメコン体制(注)に属し、長年、米国から経済制裁を受けており、二国間の国交が回復した現在も経済制裁は続いています。このため、歴史的に国際機関、西側諸国とは極めて慎重な態度で接してきました(世銀・IMFのメンバー国ではありません)。国際協力においても慎重にドナーを選定し、協力対象分野にも重複がないよう調整してきたように見受けられます。日本(JICA)はこれまで農業分野では足掛け15年間に渡り、コメの優良種子生産を中心に支援してきました。また、ベトナムもコメの栽培分野で協力してきましたが、残念ながらこれまでお互い連携するような機会はほとんどありませんでした。

90年代に入り、社会主義圏の崩壊に伴い、農業機械をはじめ、石油、肥料、農薬等の生産財の海外からの供給がストップし、キューバは大きな食料危機に見舞われました。都市近郊の空き地を活用した有機野菜栽培等で何とかこの危機を乗り切りましたが、未だ食料生産は低迷し(穀物自給率は約50%)、さらなる増産が政府の重要政策として掲げられています。このような中、限られた援助資源を効率的に運用する意義が徐々に認められるようになってきました。

今年1月から始まった本プロジェクトは、コメ、フリホール豆、トウモロコシを対象とした農業普及システムの構築・強化を目指すプロジェクトで、援助協調のプラットフォームを担うことも可能なことから、同じ作物を対象としている他援助機関との協調を積極的に図っています。

まず順調に進み出しているのが国際農業開発基金(IFAD)の東部5県の農協支援プログラム(PRODECOR)との連携です。約50億円の資金協力で5年のプロジェクト期間の約半分が過ぎ、今年11月に中間レビューを行うステージとのことですが、農協への技術指導が手薄であることが懸念材料であったため、その部分を当該プロジェクト傘下の地方試験場の普及員が中心になってサポートすることになりました。先日も対象地域が重なるグランマ県でのトウモロコシ新品種のデモンストレーション圃場における協同現場研修には多くの農協組合員が参加しました。グランマ試験場から普及員のみならず、研究員も参加し、研究の成果を農家と共有し、研究と普及の橋渡しにもなりました。また、この現場研修ではコメの裏作について協力しているベトナムのプロジェクトからも3名の専門家が参加し、経験共有を行いました。

今回の連携は、日本人専門家も積極的に支援しましたが、カウンターパート機関である穀物研究所のテルセ所長のイニシアティブの賜物といっていいでしょう。ドナー側が進める援助調整ではなく、非援助国自らが進める本来の援助協調がここキューバで動き出しました。今後はフリホール豆、トウモロコシのバリューチェーンを支援しているUNDP、WFPとの連携も視野に入れ、キューバにおける援助協調の良いモデルになればと思っています。(チーフアドバイザー:北中 真人)

(注)COMECON(Council for Mutual Economic Assistance):経済相互援助会議。1949年にソ連の提唱により社会主義諸国間の経済協力機構として発足し、1991年に解体された。

【画像】

グランマ県トウモロコシ新品種デモンストレーション圃場での現場研修の様子(2017年6月28〜29日)。
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム