キューバの農業機械の将来

2018年1月29日

2017年11月

キューバの地方部に足を運ぶと、幹線道路から、年季の入った旧社会主義国製らしき大型トラクターが播種前の圃場で耕起作業を行っている風景をよく目にしますが、一方で、車で30分程度走ると必ず数台の馬車(ナンバープレート付)に出会います。また、時折、国営(CUBATAXI)の黄色い小型タクシー(そのほとんどが韓国製KIA)とすれ違います。この落差がキューバの現状をよく現しているように思います。燃費が悪く、かつ小回りの効かない旧式の大型農機と前近代的な畜力の馬車、そして燃費がよく、小回りが効き、かつ比較的安価な韓国車。それぞれ用途は違いますが、キューバの農業機械の将来を考えるにあたって、いい材料になるのではないかと思います。

今後、キューバにおいてどのあたりのサイズ、馬力に農業機械が収斂していくのかを見極めるにはもう少し時間が必要かもしれませんが、乗用車でKIA等の小型車(1200~1400cc)が普及していることから、土地の無償貸与で個人農家が増え、圃場サイズ(稲作)も10ha前後になれば、エネルギー(石油)のほとんどを輸入に頼っているキューバでは燃費がよく現状よりも小型サイズの農機(80馬力前後?)が入ってくる可能性が高いと推測できます。そうなると日本の農機メーカーにもチャンスが出てきますが、果たして(日本国内の補助金を見込んだ)高価格帯の日本製農機は競争に勝てるでしょうか。価格勝負では中国製等には敵わないと思いますが、安全性、耐久性、アフターサービス等、いろいろとセールス材料はあるのではと思います。

先進国ではあらゆる物にインターネットが繋がるIoTの波が農業機械にも押し寄せようとしており(広い意味でのスマート農業)、例えば、クボタはクボタ・スマートアグリカルチャー・システムをすでに稼働させ、各種センサーを装備したトラクター、コンバインとスマホを連動させ、各種圃場情報を共有し、低コスト、省エネルギー農業の実現を目指しています(WEDGE11月号参照)。キューバにおいてもここ数年、GPSレーダー付きのトラクター(中国製?)を導入し、稲作圃場の均平化に取り組んでいますので、スマート農業と連動させた農業機械への期待は大きくなってくるのではないでしょうか。

2017年10月30日~11月3日まで開催されたハバナ国際見本市の日本館に前プロジェクト(DITESA(注1))で供与した田植機と小型コンバインを展示しましたが、来場者からの反応もよく、日本製農機をバックに記念写真を取るキューバ人が多く見られました。また2018年には、無償資金協力と本プロジェクトにより更に日本製農機が供与される予定で、全国の実際の圃場で稼働し、日本製農機の実力が試されることになります。

日本製農機はサイズの問題もあり、アメリカにはほとんど輸出されておらず、他業種の日本メーカーに比べ、アメリカの経済制裁をあまり意識する必要がないのは日本農機メーカーにとってはメリットかもしれません。一方、キューバ側の反応としては、トヨタを筆頭に日本製車両の品質の高さはよく知っているため、日本製農機の到着を楽しみにしていますが、部品の安定供給はお国柄からそもそもあまり重きを置いておらず(注2)、燃費、耐久性等が評価項目の上記にくるのでは想像します。何はともあれ、農業専門家としては、ODAが日本製農機の更なる導入の呼び水になることを切に願う次第です。

(チーフアドバイザー:北中 真人)

(注2)米国の経済制裁下に置かれているキューバは、外国企業との取引が難しいことに加え、計画経済下の統制により物流が遅く、スペアパーツの入手は極めて困難な状況である。

【画像】

国際見本市で展示された、DITESAで供与された日本の田植機。
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム

【画像】

国際見本市で展示された、DITESAで供与された日本のコンバイン。
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム