3年間の業務を終えて(北中チーフアドバイザー)

2020年1月21日

来る1月上旬で本プロジェクトも3年が経過し、残すところ2年となります。プロジェクトのスタート時からリーダーとして関わってきたこともあり、帰国を前に3年間を振り返り、残り2年に期待を寄せたく思います。

初めての社会主義国ということで、着任当初は戸惑うことばかりでした。中南米勤務も長く、それなりにやっていけるだろうという、赴任前の甘い考えはあっという間にかき消され、ゼロからキューバの作法を学んで行くことになりました。社会主義国と言っても、中国、ベトナムは、経済には資本主義が導入されていますので、それほどの違和感はないかと思いますが、キューバでは卵一つをとっても統制されており、オフィスで使うコピー機を購入するにも、どこで売っているのかわからず、現地調達までに随分と時間を要しました。

農業分野でのJICA協力は2003年から開始され、それなりの蓄積はあるものの、外国人にとってキューバ社会主義の壁は厚く、なかなか手強いです。また、カウンターパートも外国人との共同作業が初めてという若い世代も多く、最初の1年はあらゆる面において試行錯誤の連続でした。

しかし、農業普及システムの骨格がそれなりに見えてきた2年目以降は、日本人専門家とカウンターパートの役割分担も進み、ようやくプロジェクトが順調に回り始めました。当初は、100人規模の普及協力農家会合の準備等は日本側がロジ業務も含め、手取り足取りカンターパートをリードせざるを得ませんでした。その成果か、3年目に入りますとプロジェクト関連のロジ業務の大部分はカンターパートたちだけで遂行できるようになり、昨年11月に全国12県で開催された第5回普及協力農家会合はカウターパートだけでほぼ準備できました。参加者からもよくオーガナイズされた会合だと高い評価を受け、カウンターパートたちもやりがいを感じたものと期待します。

このように最近では、日本人専門家はロジ業務に悩まされることなく、課題の掘り下げやプロジェクトの質の確保に向けた取り組みに関われるようになりました。穀物研究所の所長からは、農業省はプロジェクト終了後も普及事業を現場で機能させていく必要があり、そこを見据えて、日々の業務に当たるようにとの訓示もあり、若いカウンターパートもプロジェクト終了後の持続性を視野に入れ、日本人専門家との議論に加わっています。

このように3年を終え、穀物の普及システムはほぼ固まり、カンターパートも育ってきました。農業大臣を含め、政府首脳も普及事業を通した穀物の増産を期待しています。残りの2年間は普及システムに載せる新品種種子、マニュアル類、各種情報を質量ともに充実させ、普及協力農家のデモファームを通じて周辺農家に適正技術が伝わり、周辺農家の収量がアップしたという報告が多く届くことを期待します。農業組合のさらなる関与を促し、地域毎の現場活動を、穀物研究所地方試験所を通じて、これまで以上にサポートしていくことが望まれます。将来的には本プロジェクトで構築した穀物の普及システムがベースとなり、キューバ農業普及法が整備され、農業全般をカバーした普及事業が展開されていくことを願っています。

この3年間、多くの皆様からのご支援をいただきました。この場をお借りして、お礼を申し上げます。特に暑い季節に、停電、断水が続く過酷なプロジェクト・オフィスでキューバの農業普及について熱く議論してきました専門家チームの皆様には心から感謝いたします。これまで積み上げてきましたアセットを元にさらなるご活躍を期待いたします。
(チーフアドバイザー 北中真人)

【画像】

Granma県における第5回普及協力農家会合にて
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム

【画像】

Granma県における第5回普及協力農家会合にて
出典:キューバ国基礎穀物のための農業普及システム強化プロジェクト・チーム