2007年12月20日
長濱幸生(海洋生態系モニタリング専門家)
プロジェクト活動のひとつ、参加型ナマコ調査を紹介します。ガラパゴス海洋保護区のなかで人間活動の影響でもっとも危機的状況にある生物はウミガメでもマグロでもなくナマコです。ナマコは中華系の人々にとって高級食材のひとつです。エクアドルではそもそもナマコを食する習慣がありませんでしたので、1980年代前半まではガラパゴス諸島の住民のほとんどがナマコを資源と考えていませんでした。その当時を知る人によると海底はナマコの絨毯のようだったといいます。多少の表現の誇張はあるでしょうが、それほどたくさん生息していたのでしょう。それが1980年代後半にナマコが資源になることがわかると、エクアドル本土からも多くのにわか漁師がナマコマネーを狙ってガラパゴス諸島にやってきました。そして短期間に大量のナマコを採捕して輸出したためにナマコの量が極端に減ってしまいました。
海洋生態系を保全するためにプロジェクトでは、ガラパゴスで漁獲されているナマコの産卵期調査を国立公園職員と漁師とともに実施しています。産卵期を知ることはナマコを保護する上でとても重要です。ナマコ漁がはじまる以前はガラパゴスの海底にたくさん生息していたわけですから、ガラパゴスの海洋環境はナマコに適していると思われます。ナマコはたくさんの卵を産みますので、産卵期のナマコを保護することにより、多くの稚ナマコがガラパゴスの海底に復活することが期待できます。海洋生態系保全の立場ではナマコ漁獲禁止が理想ですが、漁師の生活もあり現実的ではなく、すぐに実行できる方策ではありません。それに対して産卵期のナマコを保護することは、ナマコを自然に増やす上で費用がかからない有効な手段だと考えているからです。
この調査の特徴のひとつは国立公園の職員と漁師が一緒に調査することにあります。国立公園局は資源が減ったナマコを保護する立場にあります。いっぽうの漁師は一個体でも多くのナマコを漁獲したい立場にあります。これまで両者は対立関係にありました。ナマコ生息数の減少が指摘されてからナマコの生息数に関する調査はありましたが、得られた科学的結果を漁師が信用しないという問題がありました。そこでプロジェクトでは、漁師参加による科学的調査を実施することにしました。
5月から本格的に調査を開始して、目的としているナマコが多数回産卵する種であることがわかってきました。これから水温が上昇してきますので、いつ頃までナマコが産卵するのかを調査し明らかにしていきます。
写真左:船上調査 写真右:参加してくれた漁師
写真左:潜水調査
写真左:海底のナマコ 写真右:ナマコ成熟度調査
写真:ナマコの卵