「日本の近代化を知る」講義シリーズ/JICAチェア オープニングイベント、その後 -ハムザ先生による「日本学ゼミ」-

2021年6月15日

エジプト日本科学技術大学(E-JUST)では、2021年4月6日にJICAと放送大学が共同で制作したビデオ教材「日本の近代化を知る7章」のうち、第4章「経済成長と日本的経営」を題材とし、この講義シリーズ/JICAチェア(注)のオープニングイベントを実施しました。同イベントは、学内外から多くの方々にご参加いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。

E-JUSTでは、これまでも学部生、大学院生の必修科目である「日本文化」の授業を通じて、「日本」に関する啓発活動に取り組んできましたが、このイベントに参加された多くの方々の「日本」への関心の高さを受け、また日本への理解と学習を深めたいという学生の声に応えるために、E-JUSTリベラルアーツ・カルチャーセンター(LACC)では、エジプト・中東における日本研究の第一人者であるLACCセンター長ハムザ教授による「日本学ゼミ」を立ち上げることとなりました。

このハムザ先生による「日本学ゼミ」のオリエンテーションが、2021年6月14日に行われました。

オリエンテーションでは、参加者が自分の「日本」への関心を他の参加者と共有し、今後ゼミで取り上げるトピック、テーマについて話し合いました。

「日本学ゼミ」には、エジプト人学生だけでなく、アフリカからの留学生も参加しており、その専攻も学年も様々です。

オリエンテーション終了後、今回、「日本学ゼミ」を立ち上げられたハムザ先生に、今後のE-JUSTにおける「日本」についての啓発活動、「日本研究」の展望をお聞きしました。

(プロジェクト専門家)
E-JUSTは、工学教育に重点を置いた大学院大学から始まり、現在では国際ビジネス・人文学部やリベラルアーツ・カルチャーセンター(LACC)を擁する、より総合的な「知」の拠点として発展しつつあります。他方で、「日本について学ぶ」環境としては、先生のご出身でもあるカイロ大学 文学部日本語・日本文学科とは大きく異なる環境でもあります。この辺り、これまで「日本文化」をE-JUSTで教えてこられて手応えのようなものはどのように感じておられますか。

(ハムザ教授)
カイロ大学 文学部日本語・日本文学科の学生は、「日本文化」や「日本語」を学ぶことを目的としています。しかしながら、E-JUSTではリベラルアーツ科目として、「日本語」、「日本文化」を学びます。ここがE-JUSTの教育の大変ユニークなところです。これまでE-JUSTで教えて来て、E-JUSTの学生は、日本の技術、産業、あるいは、それらの発展を支える政治、経済、行政、法律など幅広いトピックに関心を持っているように感じております。当然これらのトピックを理解するには、私の専門でもある日本の思想や歴史を理解する必要がありますから、とてもやりがいを持ってE-JUSTの学生を教えております。つまり、「日本文化」、「日本語」に限定されない広い視野に立った「日本学」を展開する基盤がE-JUSTにはあると考えております。

(プロジェクト専門家)
伝統的な日本語・日本文学科とは異なるアプローチで「日本学」を発展できるかもしれないということですね。大変興味深いお話です。

(ハムザ教授)
ご存じの通り、E-JUSTは、日本政府とエジプト政府による二国間協定に基づく大学です。この二国間協定は、エジプトの国内では、大統領令・首相令という形で具体化されており、この中に現在のE-JUSTに至るまでの基本構想が書き込まれており、そのなかには、「日本学」の学部を立ち上げるという構想もあります。日本研究者としては、E-JUSTというユニークな環境に相応しい、新しい日本研究の拠点として構想する必要があると感じています。実現すれば、中東・アフリカ地域における日本研究の拠点として、非常に魅力的な場所となると考えております。従来型の文化的な分野にアプローチするような日本研究ではなく、ビジネス、公共政策、科学技術などの分野を包括した実践的な教育・研究が出来る場所になるのではないかと考えています。

(プロジェクト専門家)
言語や文化にとどまらないより総合的、実践的な「日本学」ということですね。

(ハムザ教授)
その通りです。

現在でも、E-JUSTの学生が、専攻の分野に「日本」の要素を取り入れて研究を行う事例が増えてきています。

例えば、ある国際ビジネス人文学部の博士課程の学生は、日本の製造業で実践している「カイゼン」に関する研究に取り組んでおります。また、遺産科学専攻の修士課程の学生でも、小学校と博物館との連携の日本での事例について、エジプト日本学校(EJS:Egypt-Japan School)の先生方に調査を行っていますし、日本の公民館の活動を参考にしながら、エジプトにおける生涯学習について検討している研究など、他のエジプトの大学では見られないようなユニークな研究が始まっています。このような事例から、エジプト人の学生が日本社会の様々な経験に関心を持っていることが分かると思います。

今後、日本との接点が増えるに従い、このような研究が日本の大学との共同研究に発展することを期待しております。日本の大学との共同研究は、今後のE-JUSTにおける「日本学」の発展の基盤になると考えています。

私もこれまでに日本の大学、エジプトの大学、中東の大学、あるいは企業の講座などで「日本学」を中心に教育、研究を行ってきました。それらの経験を総動員して、E-JUSTでの「日本学」の展開という歴史的な事業に携われることを大変光栄に思います。

今はコロナウィルス感染症の影響で、色々なことが制限されていますが、途切れることなく日本からご協力を戴けることを大変ありがたく感じております。今後も、JICAの皆様をはじめ、日本の皆様のご支援を戴ければ幸いに存じます。

E-JUSTは、エジプトと日本を繋ぐ場所ですので、「日本学」を展開するとともに、日本の皆様が訪れたくなる場所にしていきたいですね。

(プロジェクト専門家)
今後も、「日本文化」という授業から発展しつつあるE-JUSTの「日本研究」への関心が、リベラルアーツ教育のなかに反映され、更に教育内容が充実することに期待したいと思います。
本日はありがとうございました。

【画像】ゼミの様子

イサム・R・ハムザ(Isam R. Hamza):
エジプト日本科学技術大学リベラルアーツ・カルチャーセンター(LACC)センター長。
専門は、日本学(日本文化学)、日本思想史、日本文化。1991年、大阪大学文学部(日本学専攻)で文学博士号(Litt.D.)を取得。
大阪外国語大学、大阪教育大学、早稲田大学、防衛大学校で教鞭を執る。
国際交流基金フェローシップ(岡山大学文学部客員研究員、東京大学客員研究員)、国際協力事業団(現JICA)カイロ事務所教育担当顧問などを経て、エジプト・ミスル科学技術大学言語・翻訳学部学部長、カタール大学人文科学部教授、「丸紅」人文学講座長、カタール大学日本語・日本文学部長、エジプト・カイロ大学文学部副学部長などを歴任。2018年11月より現職。

聞き手;小池基
JICA長期専門家。