プロジェクト活動

【写真】 本プロジェクトは、エジプト・アラブ共和国考古省による大エジプト博物館(通称GEM)建設プロジェクトの一翼を担い、同博物館に併設されている保存修復センターに対して技術協力を行っています。

GEMは、最新の技術を導入した博物館として2015年の完成を目指して建設中です。この敷地内に中近東・アフリカ地域最大規模の保存修復センター(GEM-CC)が2009年に完成しています。エジプト政府が自国の予算で設立した同センターは、広いスペースに、最新設備と機器を備えています。7つの保存修復ラボ(石材・壁画、木材、無機物、有機物、ミイラ、特別プロジェクト、大型文化財)と6つの科学分析ラボ(走査電子顕微鏡、透過電子顕微鏡・光学顕微鏡、フーリエ変換赤外分光分析装置・化学、微生物、保存修復材料実験)、収蔵庫、開梱室、準備室、マウント作成室、文化財殺虫室、図書室があります。本プロジェクトでは、この保存修復センターに所属するエジプト人専門家に対して日本人・第3国の専門家が技術移転・人材育成を行っています。

保存修復センターは新しくできる博物館に欠かせない施設です。博物館のオープニング前には、エジプト各地から移送される文化財の状態を保存修復センターでチェックし、必要に応じて保存修復する必要があります。また、展示に際しては文化財を傷めることなく、その状態や材質によって、どのような展示の仕方が最適かを展示デザイン担当者と話し合うことも保存修復センターのスタッフの重要な役割です。博物館のオープン後には、展示中の文化財だけでなく、収蔵庫の文化財を安全な環境の中で保存する必要があります。これらの業務を行うには、保存修復家、科学者、考古学者が、それぞれ、知識や技術を向上し、また互いが連携して、文化財を保存修復していく体制づくりが重要です。

また、新しい博物館をオープンするためにはエジプト国内に分散して収蔵している文化財の中から、展示する文化財を選択し、実際に博物館に移送する必要があります。その際に欠かせないのが文化財の正確な記録です。特に、移送にあたっては文化財の元の保管場所や大きさなどの正確な情報を記録しておくことが必要です。エジプト各地に点在する収蔵庫には文化財の正確な情報が整理されて記録されていなかったり、紙媒体で記録されていたため、新しい博物館では、収蔵品の包括的な情報をまとめ、管理するためのデータベースを作成することになりました。

そこで、本プロジェクトでは、2008年から保存修復の専門家(長期・短期)とデータベース構築の専門家(長期・短期)を派遣し、保存修復家の育成と文化財データベース構築支援の2分野で協力活動を行ってきました。

(1)専門家の育成 −保存修復家、保存科学者、学芸員−

保存修復センターには、2012年4月現在、副センター長、技術部長のもと保存修復家74名、科学者21名、学芸員16名と専門家をアシストするスタッフが39名、合計152名が勤務しています。専門家は、カイロ大学等の保存修復学科や自然科学、考古学関係の学部を卒業しています。彼らの中には、専門家として長い経験をもつ人や修士・博士号を取得している人もいますが、多くは経験の浅い若手の専門家です。

本プロジェクトでは、独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所と協力して、これらの専門家を対象に、エジプト、日本、第3国で人材育成プログラムを実施しています。このプログラムの目標は、以下の二つです。

  1. 予防保存と科学技術の応用を重視しながら、スタッフの保存修復の知識や技術を高める
  2. 保存修復や研究の各分野で国際的に認められる保存修復機関に成長すること

これまでに開催されたワークショップ

各分野の第一人者を日本、エジプト、第3国から講師として招き、理論と実践を組み合わせたワークショップを行っています。2008年度からこれまでに下記のテーマの研修を実施しました。

 期間研修名参加者
2008年度
12月24日〜28日紙修復(エジプト)約25名
27月27日〜31日染織品修復(エジプト)21名
33月1日〜5日金属修復(エジプト)25名
2009年度
47月9日〜9月1日染織品修復(日本)2名
58月27日〜9月18日機器分析(日本)2名
69月28日〜10月8日文化財移送・梱包7名
73月8日〜25日写真撮影(エジプト)16名
2010年度
85月16日〜19日第1回IPM(エジプト)12名
97月7日〜15日移送・梱包(エジプト)16名
109月15日〜24日保存修復マネジメント(日本)1名
119月15日〜10月7日保存科学機器分析(日本)3名
129月15日〜10月7日IPM(微生物)(日本)2名
1310月17日〜21日遺物取り扱い(エジプト)20名
1411月28日〜12月8日第2回IPM(エジプト)18名
2011年度
154月28日〜5月5日労働安全衛生(エジプト)30名
167月18日〜7月26日第2回所内移動・梱包(エジプト)26名
179月12日〜10月6日微生物(日本)3名
189月19日〜23日国外視察研修(ICOM-CCリスボン大会への出席)3名
199月26日〜10月7日収蔵庫管理(日本)5名
2010月3日〜14日IPM(殺虫処理)(日本)4名
2111月20日〜23日第3回IPM(エジプト)16名
2212月4日〜13日第2回収蔵品管理(エジプト)23名
232月5日〜16日第3回所内移動・梱包(エジプト)24名
243月4日〜8日保存修復材料としての和紙(エジプト)16名
252月26日〜27日第1回学術研究シンポジウム(エジプト)のべ300人以上出席
2012年度
265月3日〜9日第2回労働安全衛生研修43名
275月20日〜22日保存科学概論17名
286月7日〜13日博物館保存環境18名
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日本で行われた殺虫処理(IPM)研修で、機材の説明を受ける研修生(国立民族学博物館にて)

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日本の伝統技術・和紙を使用した保存修復の方法を学ぶ研修生(「保存修復材料としての和紙」研修より)。古代エジプトの文化財に応用していくことが期待されます。

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研修生の士気が高く、研修では、毎回活発な議論が行われます(「保存科学概論」研修より)

(2)文化財データベース構築支援

Archeological Database Department (以下、ADD)の立ち上げ

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GEMデータベース例

GEMに収蔵予定の文化財は10万点にのぼります。2008年の協力開始当初は、GEM内のデータ入力チームが6万点の文化財のデータベースを作成していました。しかし、データ入力のルールや作業手順が確立されていなかったことなどから、入力ミスやデータの重複、また中核的なメンバーが辞職するなど運営上の問題に直面しました。こうした状況から、エジプト人スタッフが質の高い文化財データベースを作成できるようなしくみ作りをしてほしいとの要請がエジプト側からありました。その結果、日本人のデータベース専門家のもと、プロジェクト内に既存のデータベースの再構築を行う部門(ADD: Archeological Database Department)を設置することにし、データベースの再構築に取り組んでいます。

文化財データベース作成の作業を行うには、エジプト学の知識が必要です。2008年11月から、大学でエジプト学を専攻した若手エジプト人スタッフをプロジェクトで雇用しています。現在(2012年6月1日)、マネジャー2名、スタッフ12名とアシスタント1名が作業に当たっています。若手スタッフは歴史的なプロジェクトに関われるとのことで士気も高く、オフィスや博物館、地方の収蔵庫で熱心に作業に取り組んでいます。

2008年に発足したADDは、2012年12月にプロジェクトからエジプト側へ移管され、GEMのチームとしてデータベース構築を継続していくことになっています。

ADDの主な活動

ADDは主に、各地の博物館や遺跡の近くにある収蔵庫に行き、データベースに登録されている文化財を特定し、登録番号や大きさを再確認するとともに、基準に則って文化財の写真を撮影します。また、GEMへ文化財を移送する際にリストを作成するなどの移送のサポートも行っています。カイロのエジプト博物館では、ツタンカーメンコレクションをはじめ、世界的に重要な文化財の調査を行いました。

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ツタンカーメン王の黄金のマスクの撮影を行うADDスタッフ(カイロ・エジプト博物館にて)

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作業前に文化財の確認(カイロ・エジプト博物館にて)

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文化財が収蔵庫のどこにあるのかを記録するため、棚に番号をつけるADDスタッフ

さらに、保存修復センターの収蔵庫では、収蔵庫管理の担当者と協力し、文化財の所在管理を行っています。エジプトでは収蔵庫に保管されている文化財がどの棚に置かれているかを正確に記録してこなかったため、保管場所が不明なことがしばしばあります。保存修復センターでは、「収蔵庫管理」研修を実施し、収蔵庫管理者、データベース担当者、保存修復家が協力をし、どこになにがあり、どこへ移動したのかをきちんと記録する作業を行っています。

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文化財がどの棚に収蔵されているか一つ一つ確認し、データベースに入力します

(2012年6月)