ナイル川流域国間の水資源問題

2010年12月21日

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中部エジプト・ミニア付近のナイル川

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エジプトでは水資源の8割以上が農業用水として使われています

ナイル川の水資源をめぐる国家間の対立が続いています。今回は、その概要を報告したいと思います。

世界最長の河川の一つであるナイル川の流域国は10カ国に及びます。下流から、エジプト、スーダン、エリトリア、エチオピア、ウガンダ、ケニア、タンザニア、コンゴ民主共和国、ルワンダ、ブルンジです。このうち9カ国(10カ国のうち、エリトリアはオブザーバー参加)は、1999年、ナイル流域イニシアチブ(NBI)を組織し、ナイル川の水資源の利用と開発協力などについて話し合ってきました。しかし、これまでの協議で、水資源の利用をめぐり既得権確保を図りたい下流国と水の利用を拡大したい上流国の対立が表面化し、膠着した状態が続いています。

ナイル川の水の利用については、基本的に二つの協定に基づいています。1929年にエジプトと英国(当時東アフリカを植民地としていた)が結んだものと、1959年にエジプトとスーダンが結んだものです。このうち、59年の協定は、アスワンハイダムの建設を前に結ばれたもので、ナイル川の年間水量を840億立法メートルと規定。うち、約100億立方メートルを蒸発による損失とし、残りの555億立法メートルをエジプトが、185億立方メートルをスーダンが取水権を持つとし、他の流域国の取り分については、「要求があれば共同で対処する」とあります。また、29年の協定により、エジプトは自国の取水に影響が出る上流国でのナイル川関連事業などに対し実質的な拒否権を保持しています。

NBIでは、2010年、新たに「ナイル流域協力枠組み協定」が提案されました。新協定案では、流域各国が他国に影響を与えない範囲で自由に水を使えると規定しており、水利拡大に結び付くと考える上流国側は歓迎する一方、下流のエジプトとスーダンは59年協定で確認された水量が担保できないことから反発しています。こうした中、2010年5月、エチオピア、ウガンダ、タンザニア、ルワンダの4カ国は新協定に署名、のちにケニアもこれに加わり、コンゴ、ブルンジも支持を表明しています。しかし、エジプトとスーダンは反対の姿勢を崩していません。

上流国は、いずれも(エチオピアを除く)1960年代以降に独立を果たした国々で、二つの協定は植民地時代の不平等条約のように見えるかもしれませんが、一方でエジプトとしても安易に妥協できない事情があります。国土全体が砂漠気候で雨がほとんど期待できないことから、水のほとんどをナイル川に依存しているからです。取水量が減れば、産業だけでなく、国民の日常生活も大きな影響を受けると思われます。今でさえ、農家同士の水争いは夏の年中行事であるのに、増え続ける人口も砂漠地帯に拡大を続ける農地も、全てナイルの水を頼りにしているのです。

古代文明以来、利用し続けてきたナイルの水が守られるのか、エジプトでは大きな関心が寄せられています。こうした国際交渉に、権利ばかり主張しても解決しないことはエジプトでも認識されています。多くのドナーの協力を受けつつ、エジプトは水利用の効率化に向け努力を続けつつ、やはりJICA始めドナーの支援を受けつつ、ナイル流域からの第三国研修を実施し、地域に対し貢献する姿勢を示しています。さらにWMIP2では、ケニアに技術交換事業のための調査団をケニアに派遣することを決定しました。第三国研修の内容の改善とともに農業用水の分野で何ができるのか検討することになります。

【図】ナイル川流域(出典:「National Water Resource Plan 2017」, Ministry of Water Resource and Irrigation(2005))
図 ナイル川流域(出典:「National Water Resource Plan 2017」, Ministry of Water Resource and Irrigation(2005))