チーフアドバイザーの独り言2:ジェンダー平等について

2020年9月3日

私たち日本人専門家が初めてカウンターパートと出会ったのは、2018年2月1日とのことでした。場所はカウンターパート機関である地方開発社会投資基金(FISDL)のサンタ・エレナ事務所で、FISDL側は女性4名と男性2名、日本側は女性4名と男性1名が打ち合わせに参加しました。この時、私は、打ち合わせ参加者に占める女性の割合が高かったため、プロジェクト・パソが「女性による生活改善事業」になってしまわないか、一抹の不安を覚えました。

というのも、「生活改善」というと、かまどの改良や整理整頓などの印象が強く、現地の人たちは、「生活改善」を「女性による家庭内の生活環境の改善」と考えてしまうことが多いからです。

戦後日本の農村復興期における「生活改善普及事業」は、農村部の民主化に大きく貢献したものの、主に女性の生活改良普及員と農村女性によって事業が実施されたため、農村男性の意識改革にはあまり踏み込めず、女性農業者の無報酬労働に象徴される日本農村部のジェンダー課題は殆ど解決されませんでした(注1)。女性は家庭内において現金収入に結び付かない再生産活動を行い、男性は家庭外において現金収入に結び付く生産活動や公的な活動を行うというように、性別による役割分担意識が保たれたままプロジェクトを実施すると、集落会議には男性だけが参加されば良いということになりかねません。

しかし、プロジェクト開始から2年間が経過し、私の不安は杞憂であったことが明らかとなりました。生活改善に焦点を当てているから女性だけがプロジェクトに参加することも、集落の事は男性の責任だからということで男性だけがプロジェクトに参加することもありませんでした。そのため、従来であれば、男性の発想のみで決められていたことも、女性の視点が入るようになりました。例えば、「飲料水が不足している」という課題が出たセソリ市のマナグアラ集落においては、水道を拡張するプロジェクトを実施するということにはならず、無駄遣いしている各家庭の水道水を節約することから始めようということになりました。これは、日ごろから水に接している女性の意見が集落開発計画に反映されたためです。

後日お話ししようと思いますが、エルサルバドルにおいては、土地の私有化などの経済的な自由主義政策は積極的に実施されましたが、人権やジェンダー平等などの社会開発に関係する政策はあまり実施されませんでした。そのため、エルサルバドル農村部においては、未だにマチスモと呼ばれる男性優位の考え方が残っております。私は、生活改善に焦点を当てた地方開発プロジェクトを実施することが、エルサルバドル農村部におけるジェンダー課題の解決にも貢献すると考えております。

(注)本文章はプロジェクト・パソのチーフアドバイザーである桑垣の「独り言」を記載したものであり、独立行政法人国際協力機構(JICA)及びエルサルバドル共和国地方開発社会投資基金(FISDL)の見解を記載したものではありません。