プロジェクト活動

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シャーガス病を媒介するサシガメ、Triatoma dimidiata(左)とRhodnius prolixus(右)

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サシガメが生息する土壁の家

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サシガメが生息する藁葺き屋根の家

シャーガス病は、中南米において750万人以上が感染の危機にさらされ、マラリア・デング熱に次いで深刻な熱帯病とされています。エルサルバドルでは、推定感染者数は人口の約4.3%、約32万人にものぼります。感染の約80%は藁葺き屋根や土壁の割れ目に生息するサシガメによる媒介虫感染で、サシガメの糞中にあるトリパノソーマという寄生虫によって引き起こされます。主にこうした家屋に住む貧しい人々が犠牲になるため、「貧困層の疾病」といわれています。急性期には、傷口や目といった寄生虫進入部位の炎症が特徴的で、この期間は治療も効果的です。しかし、感染者の多くが無症状のまま慢性期に移行し、10年、20年かけて寄生虫が心臓の筋肉内に侵入することで、20〜40%の慢性患者に心肥大・心機能低下を引き起こします。残念ながら慢性期に効果のある治療法はまだ確立されておらず、また住民のシャーガス病に対する認知度の低さも、予防・早期発見・早期治療を困難なものとしています。

JICAは、2000年より実施されたグアテマラでの協力の経験を活かし、エルサルバドルにてシャーガス病対策技術協力プロジェクトフェーズ1を2003年9月より実施しました。シャーガス病は、殺虫剤の屋内噴霧によるサシガメの駆除と、その後の住民参加型シャーガス病監視体制の確立により、感染の中断が可能です。現に、ブラジルやチリは積極的にシャーガス病対策をとり、WHOからシャーガス病感染の中断認定を受けています。JICAが協力したグアテマラ、そしてエルサルバドルのプロジェクトフェーズ1においても、殺虫剤散布地域の在来種の減少を確認しました。2008年3月から始まったプロジェクトフェーズ2では、対象県を7県に拡大し、シャーガス病対策を実施しています。

エルサルバドル国シャーガス病対策プロジェクトフェーズ2では主に次のような活動を展開しています。

中央地域・東部地域の対象県の高リスク地域における第1回殺虫剤散布を終了

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屋内のサシガメ分布調査

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屋外のサシガメ分布調査

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殺虫剤散布によるサシガメ駆除活動

シャーガス病対策の原則はサシガメの屋内繁殖防止であり、そのためには低濃度のピレスロイド系殺虫剤による駆除がもっとも効果があることがWHOなどで実証されています。プロジェクトのフェーズ1では西部地域3県を対象とし、駆除によってサシガメの生息率の大幅減少に貢献しました。フェーズ2では中央地域と東部地域の4県を新規に対象県に加え支援を行います。具体的には、ベースライン調査による高リスク地域の特定と殺虫剤散布による駆除計画の策定と、実施支援を行います。

パイロット地区における、住民参加型シャーガス病監視システムの定着

プロジェクトではフェーズ1から継続して、西部3県のパイロット地区6箇所における住民参加型シャーガス病監視システムの導入と定着を図っています(下図)。

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図:住民参加型シャーガス病監視システム

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自宅で捕獲したサシガメを保健所に届け出る住民

具体的には、(1)住民から保健ボランティアや学校へ、サシガメの届出や患者発見の報告を行い、(2)その情報をもとに保健センターや県保健事務所がサシガメや患者発見が多い高リスク地域を特定し、(3)高リスク地域への殺虫剤散布や患者治療、啓発活動を行う、という3つの機能の定着を目指しています。そのためには、住民と行政の双方が役割を果たすことが重要です。ゴミの回収のように、住民がゴミを選別しても、行政のゴミ回収車がこなければゴミの回収システムは機能しません。これと同様にシャーガス病も住民と行政の連携が不可欠です。

シャーガス病対策の啓発・推進活動の強化

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パンフレット教材を用いた啓発活動

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DVD教材を用いた啓発活動

エルサルバドルのプロジェクトフェーズ1では様々な教材が作成され、小学校やテレビ放送などを通して広くシャーガス病の啓発活動が展開されました。フェーズ2ではこの成果を受けて、さらにマスメディアや学校などを巻き込みながら、シャーガス病の予防につながる教育活動を継続していきます。具体的には、保健従事者への研修、教育省と連携した教育活動、住居改善や生活改善の推進等を予定しています。

保健省(中央、地域、県、ローカルの各レベル)の主導により、西部地域のパイロット地区以外の高リスク地域においての、監視システムの導入

シャーガス病はパイロット地区のみの問題ではありません。そこでプロジェクトではパイロット地区の成果を他の地区や県とも広く共有し、住民参加型のシャーガス病監視体制がより根付き、広がるよう支援を目指してしていきます。具体的にはパイロット地区での監視体制を検証しながらガイドラインのような広く共有できる形に取りまとめ、他の地域と共有をしていく予定です。

シャーガス病対策の経験・知見のプロジェクト対象県の間での共有

プロジェクトは7県で実施されますが、各県が独自に活動を進めるのではなく、他の県のシャーガス病対策を参考にし、自分たちの県の活動に反映・改善させていくことで、活動はより効率的に進んでいきます。プロジェクトではこのような「相互学習の場」をセミナーやスタディ・ツアーの実施などを通して支援していきたいと思っています。