ガーナ母子手帳プロジェクト開始

2018年5月28日

2018年4月10日、ガーナ共和国において3年間の「母子手帳を通じた母子継続ケア(注1)強化プロジェクト(母子手帳プロジェクト)」が始まりました。このプロジェクトは、2016年にガーナ政府がJICAの技術協力を得て作成を始めたガーナ初の統合版母子手帳を全国に導入、普及することで、より多くの母と子が質の高い母子保健サービスを利用できるようになることを目指すものです。

(注1)母子継続ケア:妊娠前(思春期、家族計画を含む)・妊娠期・出産期・産褥期と新生児期・乳児期・幼児期といった時間的流れを一体としてとらえた継続的なケア、および、家族・コミュニティー・一次保健施設・二次/三次保健施設が連続性をもって補完しながらつながるケア。

背景

ガーナ共和国では、母と子どもが必要な保健サービスを継続的に得られるよう母子継続ケアを推進しています。現在、妊婦健診の受診率は比較的高いものの(妊婦健診受診率84.1%、2016年)、施設分娩率が低く(56.2%、2016年)、分娩期、産褥期、そして新生児期のケアが十分に提供されているとは言えません。

また、母子保健サービスを支えるものとして、ガーナ共和国ではこれまで、妊婦用の母手帳、乳幼児用の子ども手帳、予防接種カード、妊婦用副読本等、様々な記録物や教材が使われてきました。しかし、母手帳と子ども手帳が分かれていたため、誕生後子ども手帳が発行される時に、子どもの出生日や出生体重が分からない、乳幼児健診の時に妊娠時、出産時、出生後の情報が分からない等で、必要な情報が十分に共有できませんでした。さらに、母手帳は、保健医療従事者の記録物としての役割が強く、母親たちがそこから必要な保健情報を得て行動を起こせるものではありませんでした。そこで、ガーナ保健省と、ガーナヘルスサービス(Ghana Health Service, GHS)は、母子継続ケアを促進するため、母子保健に関する記録物を統合し、継続ケアの受診を奨励する内容や母親への情報を充実させた新母子手帳を作成することになりました。

新母子手帳作成

2016年3月、ガーナ共和国保健省、GHSは、JICAの技術的支援を得ながら、新母子手帳の作成を始めました。母子保健に関係する様々な部局やプログラムの代表が手帳の構想について話し合い、医療者にとっても母親にとっても、使いやすい母子手帳を開発することに合意しました。そして、新母子手帳には、これまでの記録物を単に統合するだけでなく、より使いやすいものとなるよう、いろいろな工夫が加えられました。まずは、予防接種や健診の記録の他に、妊娠期の生活や必要な栄養、離乳食や乳幼児の発育の情報など、妊娠中から子育てに必要な情報が纏められました。そして、すべての家族が理解できるよう、保健情報や妊娠時、産後、そして乳幼児の危険兆候に多くのイラストを差し込みました。母親、父親が、妊娠・出産・育児の様子や気持ちを記すことができるページや、家族写真を貼るページも加わりました。また、保健医療従事者が使いやすいよう、妊娠期、分娩期、産褥期、乳幼児期の記録が色分けされました。

さらに、新母子手帳には、2つのJICAプロジェクトの成果が生かされています。2012年6月から2016年3月にかけて実施された「EMBRACE(Ensure Mothers and Babies’ Regular Access to Care)実施研究(注2)」では、母親に母子継続ケア(Continuum of Care, CoC)の重要性を伝え、受診を促すCoCカードの導入したことで、母親や住民が母子継続ケアの重要性を理解することができるようになりました。また、2011年9月から2016年9月に実施された「アッパーウエスト州地域保健機能を活用した妊産婦・新生児保健サービス改善プロジェクト(注3)」では、母子継続ケアが最も途切れやすい産後健診の受診率を向上させるため、産後健診の受診日を指定することで受診を促す「産後健診スタンプ」を考案し、妊婦手帳に押印することで州全体での産後健診率の向上が確認されました。新母子手帳には、このCoCカードとスタンプのアイディアが導入されました。

【画像】

統合版新母子手帳の表紙

【画像】

CoCカード

プレテストとパイロットテストの実施

GHSとJICAは、新母子手帳の試作版を作成後、住民と保健医療従事者に新母子手帳の内容を確認してもらうプレテストと、実際の母子保健サービスで新母子手帳を利用してもらい効果を調べるパイロットテストを実施しました。

プレテストは、2016年10月に2州の都市部、郊外、農村の3郡で行い、約100名の住民と保健医療従事者に、新母子手帳が使いやすい仕様であるか、内容が正しく伝わるか、保健サービスに役立ちそうかを確認しました。聞き取りを通して、母子手帳の大きさ、文字の大きさ、紙の質、イラスト等を改訂する必要があることが分かりました。また、妊娠期や出産、育児に積極的に関わっているイラストが住民に肯定的に受け止められることがわかりました。さらに、英語が分からない母親にもイラストの解説が役立つことや、1冊の手帳で母子保健栄養の記録、健康教育がすべて盛り込まれていることの利便性が、住民や保健医療従事者に高く評価されました。

2017年6月~2018年1月には、北部・中部・南部の3州3郡の医療施設でパイロットテストを行いました。パイロットテストに先立ち20017年5月にGHS倫理委員会の審査を経ました。6月には、対象地域約100名の医療従事者に手帳の活用法の訓練を行い、また、地域住民集会で住民全体にも手帳の重要性を周知しました。その上で、約600名の母親に新母子手帳を配布し、既存の母手帳、子ども手帳を使用している母親600名と比較して、保健情報の理解度や健診の受診率に違いが生じるか、保健医療従事者が実際に新母子手帳を使用し、どのように評価するかを確認しました。テスト結果からは、新母子手帳を利用することで母親の妊娠期の危険兆候の理解度や健診の受診率が高まる傾向があることが示唆されました。また、保健医療従事者からは、「新しい母子手帳を使うことで、母親たちが以前より自身の健康に気を付けるようになったように思う。母子手帳のイラストを見て、イラストと同じような症状が出た時に、自ら保健センターに来るようになったのは、大きな変化。」といった声が聴かれ、新母子手帳が母親の受診行動をおこす一助になっている様子がうかがえました。

これらの過程を経ることで、新母子手帳は更に使いやすい形に改訂され、また、母子保健サービスを提供するために有効なツールであることが確認されたことは、全国に導入、普及するための根拠となりました。

【画像】

プレテスト

【画像】

プレテスト

【画像】

パイロットテスト

【画像】

パイロットテストのモニタリング

母子手帳完成式典

2018年3月2日、母子手帳の完成記念式典が、ガーナ共和国保健省、GHS、JICAの共同開催により盛大に執り行われました。セントラル州で催された式には、サミラ・バウミア副大統領夫人及び姫野勉在ガーナ大使のご臨席を賜り、保健副大臣、GHS総裁、JICAや国際機関関係者、地元の住民など、州内外から400名以上の参加がありました。母子手帳全国展開を強力に後押ししてくださっている副大統領夫人のスピーチでは、母子の命と生涯にわたる健康を守る母子手帳の重要性、これまでの支援への感謝とさらなる協力への期待が表明されました。こうして、母子手帳全国普及に向けた、はじめの一歩が踏み出されました。JICAはこのとき約12万冊の母子手帳を印刷し、ガーナ政府に供与しました。

【画像】

新母子手帳を住民に手渡すサミラ・バウミア副大統領夫人

プロジェクト活動開始

2016年から2年間に渡る母子手帳制作、プレテスト、パイロットテスト、そして母子手帳完成式典を経て、2018年から3年間の母子手帳プロジェクトが始まりました。新母子手帳を全国に普及し、保健医療従事者と母親が効果的に母子手帳を活用出来るよう能力強化を図るとともに、母子手帳が持続的に活用されていくよう制度整備を目指します。また、栄養カウンセリング(栄養改善活動)、患者中心の保健サービス、保健医療従事者と母親の行動変容の促進に向けても活動を展開していく予定です。母子手帳普及を通じ、少しでも多くの母と子が、より良い保健サービスを得られるようになるよう、ガーナカウンターパートや他の援助機関と、力を合わせて進んでいきます。

【画像】

保健省表敬訪問