母子手帳郡講師養成研修の実施

2018年8月15日

2018年6月から7月にかけて、全国10州のうち4州(ブロングアハフォ、グレーターアクラ、ノーザン、アッパーウエスト)において、4日間の郡講師養成研修を実施しました。州講師研修で育成された講師が中心となり講義や演習を行いました。うち、州の規模の大きいブロングアハフォ、グレーターアクラ、ノーザンの3州では、2グループ同時に研修を行うことで、全郡の郡保健局保健師・栄養士・施設助産師と、州病院の助産師・看護師・栄養士に参加してもらうことができました。今回育成された197名の郡講師は、今後各郡内の保健施設の母子保健サービス従事者に母子手帳の使い方を広めていく重要な役割を担っていきます。
今回の一連の郡講師養成研修を実施するにあたり、州講師養成研修の内容を基調としつつ、専門家とナショナルファシリテーター、州講師の3者による綿密な話し合いを行い、講義や実習内容の充実に努めました。

地方言語を用いた「Dear Mother(親愛なるお母さんへ)」の講義

ガーナでは、妊婦健診に来なくなってしまうお母さんがいる原因の一つとして、保健医療従事者の接遇の悪さが指摘されています。そこで、「Dear Mother(親愛なるお母さんへ)」という講義では、初めて妊婦健診に来たお母さんに親身で敬意ある態度で母子手帳を紹介することで、「保健施設を受診する際には必ず母子手帳を持参してください」「妊婦健診から乳幼児健診まですべてのサービスを受けて、毎回母子手帳に星形のスタンプを押してもらいましょう」「自宅でも母子手帳を読んでみましょう」といったキーメッセージへの母親の理解を深め、行動を促すことを目的としています。郡講師養成研修では、「母親への説明が冗長になる傾向があり、キーメッセージが伝わりにくい」という州講師養成研修の反省点を踏まえ、キーメッセージに集中して簡潔に説明をするよう指導が行われました。また、それぞれの地方で話される諸言語を用いてわかりやすい言葉でメッセージを伝える練習を行い、妊婦さんにより伝わりやすく、かつ敬意に満ちた表現を探して参加者と講師が活発に意見を交わしました。

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アッパーウエスト州での「Dear Mother」の練習の様子

「乳幼児の健やかな成長と発達のための枠組み」の発表を受けた講義の充実

6月に保健省とガーナヘルスサービス(GHS)の主催により開催された第1回母子保健栄養学会での「乳幼児の健やかな成長発達のためのケアの枠組み」(Nurturing care for early childhood development)の始動を受けて、現在普及を図っている母子手帳の文脈に沿った「乳幼児の発達(Early Childhood Development)」の講義を研修に組み込みました(参照:母子保健栄養学会記事)。母子手帳には、子どもが安心でき、且つ興味や関心をかきたてられる環境で十分なケアと愛情を注がれて養育されることが、子どもの認知能力や精神面や情緒の発達及び身体的成長にとって重要であることが記されており、子どもの年齢に応じた発達の目安と推奨されるコミュニケーションや遊びが示されています。これまでの研修では、こうした点について「子どもの成長のモニタリング」という講義の中で簡単に紹介していましたが、子どもの成長・発達におけるその重要性が国際的にもガーナ国内でも注目されるに至り、今回から1講義として独立させました。講義の中では、脳神経の発達の大部分が5歳までに起こること、母子保健サービス従事者がこの期間に子どもや両親に最も近く影響力のある立場にあることなどが説明されました。ひとりひとりの子どもが潜在能力を十分に成長・発達させるためには、「乳幼児の健やかな成長発達のためのケアの枠組み」の5つの要素を満たすこと、特に両親や周囲の人々とのコミュニケーションや遊び、関わり合いが欠かせないといったことを講師が説明する間、参加者は熱心にノートをとっていました。ガーナ独自の手遊びや童謡が披露されることもありました。その上で、該当する母子手帳のページを活用して子どもの年齢に沿ったコミュニケーションや遊びを母親や父親に推奨する、家庭でも子どもの発達を見守るよう促す、といった役割を母子保健サービス従事者が果たしていく必要性が強調されました。「子どもへの投資は、ガーナの発展のための突破口になるだろう」とGHS家庭保健局のパトリック・アボアジェ局長も、州関係者への説明会で、保健セクターが就学前教育への有効な橋渡しとなる重要性を強調していました。

施設における実習

「Dear Mother」「母子手帳の記入の仕方」「身長体重の測り方と成長曲線の記入・分析」の講義を受けて実習1、「カウンセリングの手法」と「栄養カウンセリング」の講義を受けて実習2、の2回の実習が各州内の病院と保健センターにおいて実施されました。40名から90名に及ぶ研修参加者と講師をバスでピストン移動させるという意欲的なオペレーションでしたが、学んだことをすぐに現場で試し、様々な課題を克服しながら知識を定着させるという実習の狙いが見事に達成されました。今回の実習は各州の州都にある施設で行ったため、参加者が働く郡の状況により近い現場で実習を行うことができ、自分の働く地域の母親たちに母子手帳の使い方を理解してもらうにはどのような工夫が必要なのか、母子手帳に記入する際にどのような問題が起こりうるのか、それにどのように対応するのか、実際に身長を測る際にどんな点に注意すべきなのか、自分の地域の母親たちにとって無理なく実現可能な栄養改善の方法はなんなのか、といった点について各自が具体的に考え、講師や他の参加者と話し合いながら学びを深めていくことができました。母子手帳について丁寧な説明を受けた母親たちも口ぐちに「新母子手帳はいつからもらえるのか?」「早く母子手帳を貰いたい」と期待を高めていました。

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ノーザン州での実習中母親に質問をする参加者

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身長測定の練習をするブロングアハフォ州の参加者達

各州における母子手帳説明会の実施

各州での郡講師養成研修と並行し、州保健局、州の主要病院、保健医療人材養成学校、看護師会、助産師会、州政府、郡議会、健康保険協会、出生死亡登録所、地域の有力者や宗教指導者等、母子手帳の普及に関係する役割や影響力を持つ人々を対象に母子手帳の説明会を開催しました。説明会では、GHS家族健康局のアボアジェ局長による新母子手帳の意義、全国展開の方針、標準の丁寧な説明と協力の要請から始まり、州内における母子手帳の印刷や配布の際の基準、州内の保健施設や学校等への母子手帳研修やオリエンテーションの計画、地域コミュニティに母子手帳について広めていくための方策等が話し合われました。説明会で打ち出された各州の方針を踏まえ、各州での郡講師養成研修の最終日に州講師から参加者に向けて、州内の母子保健サービス従事者への研修の計画や母子手帳配布の優先基準等が発表されました。

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グレーターアクラ州での説明会

今後の予定

カウンターパートであるGHSが母子手帳全国展開に強い主体性と高い意欲を持って取り組んでいること、また国内各地において母子手帳に対する期待が高まっていることから、本プロジェクトは今後も各州における郡講師養成研修を迅速に進めていきます。また、郡講師養成研修後の母子手帳活用状況のモニタリングも順次開始していく予定です。

【画像】ノーザン州グループ1の参加者

【画像】ノーザン州グループ2の参加者