アシャンティ州でのベースライン・現状調査の実施

2019年10月1日

アシャンティ州重点郡11郡(注)では、1)母子手帳基礎研修に栄養クリニックとリスペクトフルケアの内容を統合した保健医療従事者向け研修の実施、2)医療施設でのモニタリングやコーチングによる研修後のフォローアップ、3)母子保健・栄養に関する母親や家族、コミュニティの意識の変化や行動変容を促すための啓発活動の実施支援、が予定されています。活動に先立ってガーナヘルスサービス(GHS)と実施したベースライン・現状調査が、最終報告書の完成をもって9月初旬に完了しました。本調査は、保健医療従事者による母子手帳の活用状況、保健医療従事者・利用者の経験・満足度、妊婦と子どもの食事・食餌状況についてプロジェクトの介入前の状態を測るベースライン調査と、母親が適切な母子保健・栄養行動をとるための決定要因を探る状況調査の二つから構成されています。

(注)重点7郡のうち4郡が最近になり二分割されたことにより、重点郡の数が11郡になりました。

調査の計画・準備

GHS内で実施される全ての調査は、調査目的、調査対象地域や対象者の選定方法、データ収集・分析手法や質問事項等を詳しく記した調査提案書を作成し、倫理審査委員会の承認を得る必要があります。倫理審査委員会は定期的に開催され、その承認を得るには数週間から数ヶ月を要します。プロジェクトでは、重点11郡での活動を遅滞なく開始するため、2018年末から調査提案書作成作業を始めました。調査内容の専門的な点についてはGHS研究・開発振興局(Research and Development Division)のアドバイスを仰ぎつつ、主に家族保健局母子課・栄養課との話し合いを重ね、数ヶ月かけて調査提案書を作成していきました。この過程においては、GHS本部だけでなく、アシャンティ州保健局及び重点郡が主体的に計画にかかわれるよう心掛けました。調査対象郡(介入郡3郡・コントロール郡3郡)は、アシャンティ州州保健局によって選定され、介入郡にはAdansi North郡(現在のAdansi Asokwa郡と Adansi North郡)、Amansie Central郡、Atwima Nwabiagya郡(現在のAtwima Nwabiagya郡とAtwima Nwabiagya North郡)の3郡、コントロール郡にはEjisu郡、Kwabre East郡、Asante Akim South郡の3郡が選定されました。また、2019年2月には、重点郡の関係者を集めたワークショップを開催し、各郡の母子保健・栄養に関する基礎情報の共有及び今後の活動開始に向けた話し合いを行いました(プロジェクトニュース「アシャンティ州重点7郡ワークショップ開催」参照)。このワークショップで得た情報も反映して作成した調査提案書は、2019年3月の倫理審査委員会に提出され、委員会からの質問事項に答えた上で、6月初旬に最終承認を得ることができました。

調査の実施・データ分析

倫理審査委員会の承認により調査実施が決定したタイミングで、データ収集や基礎情報分析のためのローカル・コンサルタントが選定されました。コンサルタントチームは、2019年7月8日から12日の5日間、アシャンティ州州保健局においてデータ収集のための調査員養成研修を開催し、計600人(介入郡300人、コントロール郡300人)の妊婦と母親からデータを収集するため、18人の調査員を養成しました。本研修にはGHS本部の母子課・栄養課職員及び専門家が参加して、講義とデータ収集の試行や、質問票の最終化を支援しました。質問票はこの段階でデジタル化され、携帯電話上のアプリケーションに取り込まれました。そのため、調査員は、データをその場で入力し、コンサルタントチームに即日で結果を送信できるようになりました。

研修終了後、7月22日から各郡でのデータ収集作業が実施され、地域保健専門家がコンサルタントチーム及び調査員達によるデータ収集の進捗モニタリングを行いました。こうして10営業日をかけて6郡から集められたデータは、GHS栄養課・母子課及び専門家とコンサルタントの間で何度もやりとりをして分析され、報告書にまとめられました。

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調査員研修に参加する州保健局職員と調査員

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データ収集に向かう調査員たち

調査結果概要

ベースライン調査からは、概ね以下のようなことがわかりました。

1.母子手帳の活用状況

妊婦健診を受診している妊産婦の大多数が母子手帳を持っており、産後健診、乳幼児健診に来ている母親も過半数が母子手帳を持参していました。2019年年頭に実施されたモニタリング時の状況から考え、母子手帳が各保健医療施設において順調に普及し、使われつつあることがうかがわれます。他方、ガーナで受診が定められている8回の妊婦健診、施設分娩、3回の産後健診と毎月の乳幼児健診を適時に継続して受診することはほとんど出来ていない状況が、各自の母子手帳を確認することで浮かび上がりました。保健医療従事者による母子手帳への情報の記載には全般的に課題がありますが、特に妊婦と子どもの栄養カウンセリング表、妊婦のボディーマス指数(Body Mass Index、BMI)と妊娠中の体重増加目標値、子どもの身長、子どもの発達のチェックリストなど、母子手帳に新しく取り入れられた内容の記載について、大きな改善の余地があることがわかりました。

2.経験と満足度

大多数の母親が母子保健サービス受診時のサービスと提供された情報に満足している、と答えました。その一方、初めて母子保健サービスを受診した際に保健医療従事者から自己紹介を受けたという人は、25から35パーセントにとどまり、接遇にも課題があることがわかりました。母親達からは、保健医療従事者からよい対応を受けること、敬意を込めた丁寧な態度・言葉遣いでの教育・カウンセリングを望んでいるという声が多数聞かれました。

3.子どもの食餌・妊婦の食事

国際的に推奨される生後6ヶ月の完全母乳育児率は本調査では50パーセント以下にとどまり、0~2ヶ月しか完全母乳育児をしなかった母子が20パーセント程度にのぼることがわかりました。さらに、子どもに離乳食(補完食)を与え始めてよい時期は6ヶ月かそれ以上であることをほとんどの母親が知っていた一方、水を与え始めてよい時期については6ヶ月未満であると答えた母親が多く見られるという知識のギャップが明らかになりました。6ヶ月以上の子どもの離乳食については、4分の3程度が幅広い食品群からの食べ物の摂取基準(7食品群中4つかそれ以上の食品群からの摂取)や動物性食品の1日1回摂取の基準を満たしていました。妊婦についてはほとんどが幅広い食品群からの食べ物の摂取基準(10食品群中5つかそれ以上の食品群からの摂取)を満たしている一方、動物性食品の1日1回摂取基準を満たすのは50パーセント強にとどまりました。

現状調査においては、妊婦や母親が推奨される食行動をとる・とらないことの決定要因を掘り下げました。6ヶ月完全母乳育児については、保健医療従事者による教育やサポート、母親がメリットを理解していること、家族や社会による理解とサポート、搾乳が可能な状況にあること、が重要であることがわかりました。さらに、母親達からは、子どもが泣くのは母乳だけでは十分ではないからといった考えや、自分の母乳が十分な量ではないという考えも示されました。6ヶ月以降の子どもが幅広い食品群から偏りなく食べ物を摂取するためには、母親がそのメリットを理解していること、家族や親族、特に母親自身の親や義理の母親からのサポートが重要であること、文化的な要因や「自分の子どもは特定の食品を受け付けない」という考えが根底にあることがわかりました。さらには、季節的な野菜や果物の価格変動、地元の市場で手に入る野菜や果物が限られていることが、それらの食品を購入できない理由として複数の母親からあげられました。また、子どもに一日3食を与えることが難しい理由として、母親が仕事をしているためという答えもありました。

今後の予定

今後は、栄養クリニック実務ガイドラインと研修用資料の作成を経て、プレテストを兼ねた指導者向け研修を実施した後、保健医療従事者向け研修が11郡で始まります。今回の調査結果は、研修内容に取り入れられるとともに、各郡における母子保健や栄養行動の啓発活動のターゲットや重点分野、キーメッセージを決めることに役立てられます。また、2020年12月頃には終了時調査(エンドライン調査)を予定しており、ベースライン調査と同じ女性層と保健医療従事者層を対象にベースライン調査時と同じ項目を調査し、プロジェクトによる介入の効果を測る予定です。調査結果を最大限活かして活動を計画・実施できるよう、プロジェクトではGHS本部及び州保健局、郡保健局とともに引き続き尽力していきます。