新型コロナウイルス感染拡大下のプロジェクト活動

2020年5月26日

2020年3月11日、ガーナ国においても新型コロナウイルスの感染者が確認されたことが、ガーナ国大統領演説において明らかになりました。その後、3月15日には、会議、研修、冠婚葬祭、イベント等を含む集会が禁止され、プロジェクトでは、3月17日から予定していたノーザン州での主要病院の保健医療従事者を対象とした研修を中止し、3月中旬から在宅勤務を開始しました。さらにガーナ国では、3月21日からは国境封鎖、27日からは、一部都市圏における外出制限も実施されました。そして、日本人専門家は、3月中旬から4月中旬にかけ順次日本へ一時退避帰国することとなりました。

現在のプロジェクト活動

日本人専門家帰国後も、プロジェクト活動は進んでいます。日本にいる専門家とガーナにいる現地スタッフの間で、毎週オンライン会議を持ち、進捗確認及び実施活動の詳細を検討しています。また、カウンターパートとも、研修内容等について検討するテクニカル会議を開催しています。当面は、研修教材の修正・最終化作業、母子手帳や医療機器等の調達作業、アシャンティ州11郡でのモニタリングスーパービジョン結果の取り纏め、昨年実施したベースライン調査結果の詳細分析等、JICAガーナ事務所や本部の支援を受けながら、在宅勤務やオンラインでも実施できる活動を進めていくこととなります。これまで、研修、モニタリングスーパービジョン、ワークショップ開催と走り抜けてきたところ、一度立ち止まって様々な活動結果を精査していくことで、プロジェクト終了時に目標を達成するために、何が既に達成され、どこを強化しなければならないかが鮮明に見えてきました。これは、2020年プロジェクトが最終年度に入る中、活動を見直すための大切な作業となりました。

母子保健栄養サービスへの影響

そんな中、現地から、新型コロナウイルス蔓延の影響で、通常の母子保健栄養サービス提供に支障が出てきているとの声が聞こえてきました。一部の妊婦、母親が、新型コロナウイルス感染を恐れ、妊婦健診、乳幼児健診、予防接種等のサービスを受けに保健医療施設に来なくなってしまったのです。母子継続ケアを推進してきたプロジェクトにおいて、この事実は大きな衝撃でした。通常の母子保健栄養サービスが妊婦、母親、子ども達に届かなくなってしまうと、母体死亡数、乳幼児死亡数が増加する可能性が出てきます。実際、最近発表された論文には、118か国の低中所得国の状況を分析した結果、母子保健サービス利用が15%程度減ることと、急性栄養不良が10%増えることにより6か月間で12,200の母体死亡数、253,500人の乳幼児死亡数が増え、母子保健サービス利用が45%程度減り、急性栄養不良が50%増えることにより56,700人の母体死亡数、1,157,000人の乳幼児死亡数が増える可能性があるとの試算もでています。(注)

(注)RobertonT et al Early estimates of the indirect effects of the coronavirus pandemic on maternal + child mortality inLMIC. Lancet GH, 2020

新型コロナウイルス感染拡大下でも母子保健と栄養サービスを届けるためのガーナでの取り組み

母子手帳に含まれる手洗い等の正しい衛生、母子栄養、妊婦や乳幼児の危険兆候の発見と対処法などの情報は、感染症対策としても活用できるだけでなく、不安を和らげてサービスへの受診を促進する手段としても利用され、その価値が見直されています。ガーナでは、2020年4月に策定された新型コロナウイルス感染症発生下における母子保健・栄養サービス提供ガイドラインが作成され、様々な取り組みの中に母子手帳の役割が明記されました。このガイドラインでは、保健医療従事者には、妊婦や母親が家庭で正しい対応をとれるよう、母子手帳を用いたカウンセリングや健康指導を行うこと、一方妊婦や母親には、母子手帳を参照して正しい知識を得て、危険な兆候を発見したら早期に医療機関への受診を行うことなどを呼び掛けています。加えて医療施設では、実施する妊婦健診、乳幼児健診おいて、来院する日を分散させることで混雑の緩和し、人と人の距離を保ち、待ち時間も短縮するようにしています。また、母子保健サービス受診率低下を受けて、保健医療従事者が村落に出向いて妊婦健診、乳幼児健診を実施することも強化しており、母子の安全に配慮しながら母子継続ケアを推進しています。そして、母子手帳研修は、母子継続ケア推進の意味から、新型コロナウイルス感染症下の状況においても実施すべき研修と位置付けられました。そのため、状況を確認しながら感染対策を図ったうえで研修やモニタリングスーパービジョン再開できるよう、現地スタッフとともに、実施方法を検討しています。

これから

2020年プロジェクトは最終年度を迎え、活動のラストスパートをかけようとしていた矢先の新型コロナウイルス感染症蔓延となり、他のJICAプロジェクト同様、多くの活動を制限する必要がありました。しかし、幸いにも、これまでのプロジェクト活動の積み重ねにより、現地には多くの研修講師が育っており、研修やモニタリングスーパービジョンの実施方法もほぼ確立しています。遠隔でのプロジェクト活動となり、以前と同じスピード感とはならないものの、私たちにできることを一つずつ積み重ね、ガーナ国の母子保健栄養サービスが全ての妊婦、母親、子ども達に届けられるよう、プロジェクト活動を進めていきます。

【画像】オンライン会議の様子

【画像】ガーナ布で作られたマスク