プロジェクト専門家による学会報告

2020年12月10日

プロジェクトでは、国際会議や学会に参加し、ガーナ母子手帳の全国展開のための具体的な介入や成果につき、実施上の知見やプロセスを文書化して発信することに努めています。
2020年10月、11月には、日本公衆衛生学会総会、日本国際保健医療学会において、ガーナヘルスサービスのカウンターパートと専門家チームの共著(英語)にて計6編の報告を行いました。

日本公衆衛生学会第79回総会への参加とプロジェクト活動の報告

10月20日から22日まで、日本公衆衛生学会の第79回総会がオンラインで開催され、以下2編を一般口演にて報告しました。2019年7-8月にアシャンティ州対象地域において実施したベースライン調査・背景調査の結果を「母子保健」「栄養」の視点から発表しました。
1)Situation Analysis of MCH and Nutrition in Ashanti Region, Ghana,(1)MCH
2)Situation Analysis of MCH and Nutrition in Ashanti Region, Ghana,(2)Nutrition

1)ベースライン調査・背景調査の結果(母子保健)
・母子手帳は80-90%の妊婦と15-34%の子どもが所有し、70%の子どもが従来の子ども手帳を活用していました。妊娠12週以前にANCを受診した母親は30%以下で、施設分娩60%以下、産後健診受診率も15%以下でした。
・90%の母親がサービスに満足しているものの、質的調査結果を見ると、リスペクトフルケア強化の必要性があることが指摘されました。

2)ベースライン調査・背景調査の結果(栄養)
・母子手帳とともに導入された栄養カウンセリングサービスは徐々に実施が始まっているものの、栄養カウンセリングの記録は不十分であり研修による能力強化が必要であることが示唆されました。
・母子手帳の記入率では、妊娠中の体重増加の記入率が20-30%、栄養カウンセリング20%以下にとどまりました。
・生後6ヶ月間の完全母乳育児は、約50%であり、完全母乳育児を推進するために、ヘルスワーカーや家族からの支援が重要な要因であることが示唆されました。
・食事調査の結果、50%の母親が調査前日の動物性食品を摂取していない、30-40%の子ども(6-11か月)が食事回数、栄養バランスに問題があることが指摘されました。

栄養に関する行動変容には、保健医療従事者や家族の支援が重要な要因との発表に対し、学会参加者からは具体的にどのような支援が必要となるのか、貧困が動物性食品の摂取に影響を及ぼしているかといった質問を受け、以下のような回答をしました。プロジェクトが調査結果に基づき母子栄養改善にどのように取り組んでいるのか、丁寧に説明して発信することが重要であることが示唆されました。

母子の栄養状態の改善のために保健医療従事者ができることとして鍵となるのは、母子保健サービスの場において、双方向のコミュニケーションやアセスメントに基づく栄養カウンセリングを母子への敬意を持った姿勢・態度で提供することです。また、コミュニティメンバーが母親を支援するためにできることも多くあります。例えば、完全母乳育児の母親の意向を尊重し6カ月未満の子どもに水を与えないこと、栄養価が高く比較的手に入りやすい地元の食材を母子のために入手すること、母親が栄養カウンセリングを受けることを後押しすることなどです。
貧困や食材の入手困難が原因であることで栄養改善が難しい場合もありますが、今回の調査地域では、フードセキュリティの状況(食糧の供給状況)は比較的安定しており、その中で妊産婦が動物性食品を摂取していないことが分かっています。調査では、動物性食品の摂取がもたらすメリットをよく知らないことが、母親が動物性食品を摂取しないことにつながっていることなどがうかがえました。そこで栄養カウンセリングでは、双方向性のコミュニケーションにより、母親自身から「なぜ動物性食品の摂取が難しいのか、摂取を可能にするためどのような対策が取れるのか」などを聞き取り、母親への栄養カウンセリングを行うことを指導しています。

グローバルヘルス合同大会2020 国際保健医療学会学術大会への参加とプロジェクト活動の報告

11月1日から3日まで、日本熱帯医学会、日本国際保健医療学会、日本渡航医学会、国際臨床医学会合同で、グローバルヘルス合同大会2020がオンラインにて開催され、プロジェクト活動に関連した以下4編を一般口演、ポスターにて英語で報告しました。

1)National roll-out of MCH RB in Ghana
全国展開の進捗とその成功要因としてカウンターパート機関の主体性や講師・教材・カリキュラムを国の標準として定め、開発パートナーと連携してあらゆる機会や財源を活用して研修を実施していることを報告しました。

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2)Acquisition of skills for the effective utilization of MCH Record Book among health workers
アシャンティ州重点11郡にて研修後に実施した第1回モニタリング・スーパービジョンの結果を報告しました。母子手帳を有効活用するためには様々な技術が必要とされますが、研修後直ちに実施できる技術と、研修後に習得に時間がかかる技術があることが示唆されました。特に、新規に導入した子どもの身長測定や栄養カウンセリングの記録については研修後の現場指導が重要であり、そのためプロジェクトでは、研修後もモニタリングを行いながら、現場での指導を継続しています。

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3)Establishing Nutrition Counseling Services as a part of routine Maternal and Child Health service in Ghana
栄養カウンセリングサービスの目的、オペレーションガイドラインや研修教材、研修方法の紹介を行い、重点11郡で行われた研修後のモニタリングの結果を用いて、栄養カウンセリングサービスの進捗を報告しました。視察先の78%の施設で、産前健診、乳児健診において栄養カウンセリングサービスを提供するため、健診場所の配置や健診動線の改定などが行われているなど、順調に導入が進んでおり、今後も現場でのコーチングを続けるとともに、住民への啓発活動も行っていく予定です。

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4)Identification of Quality of Care indicators for the National rollout of the Maternal and Child Health Record Book in Ghana
プロジェクトでは「質の高い母子継続ケアの推進」を目指していますが、サービスの質向上を測定するため、プロジェクトが選んだモニタリング指標について報告しました。ヘルスワーカーの技術的な側面の評価に加え、母親側の知識や経験についても評価することで、安心、安全なケアが効果的に提供されているかを推計しています。「カウンセリングで提案されたアドバイスを母親が覚えているか」、「次回の受診日を覚えているか」、「ヘルスワーカーに質問する機会が与えられたか」、など、母親の経験についても評価項目を設け、提供者と受診者のコミュニケーションが円滑であったかなども確認しています。

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6本の演題発表を通じ、ガーナ母子手帳と質の高い母子保健・栄養の継続ケアをどのように全国展開しているか、その進捗やコンセプトを広く発信することができました。報告は、すべてプロジェクト専門家とカウンターパートの協働で分析、準備されたものであり、プロジェクトの全国展開の成功要因やモデル地域での活動の意義につき、あらためてカウンターパートと協議し、認識を合わせることができました。今後もプロジェクトでは、母子手帳の全国展開を進めるとともに、そのプロセスや知見を文書化して発信することにも努めたいと考えています。