第4回合同調整委員会会議(Joint Coordination Committee Meeting)開催

2021年6月9日

2021年6月9日、ガーナの首都アクラにて、Ghana Health Service(GHS)関係各部署、保健省、WHO、UNICEF、JICAガーナ事務所等から34名の参加を得て、第4回合同調整委員会会議(JCC会議)を開催しました。2018年10月の第1回会議の記事にあるように、合同調整委員会は、プロジェクトの意思決定機関で、JCC会議は、プロジェクトの全ての関係者が集まり、これまでの活動を報告し今後の活動計画の承認を得る大切な会議です(プロジェクトニュース「第1回合同調整委員会会議開催」参照)。これまでは、半年ごとにJCC会議を開催していましたが、2019年12月に第3回JCC会議を開催後、新型コロナ感染症拡大による影響を受け、今回約1年半ぶりの開催となりました。会議では、第3回JCC会議を開催した2020年12月以降の活動の進捗を確認したうえで、プロジェクト終了までの活動計画及び終了時までに達成することが見込まれる成果や、プロジェクト終了後を見据えた持続性の確保について話し合いました。

関係者からの言葉

プロジェクトディレクターであるGHS総裁パトリック・アボアジ氏は、母子手帳の全国展開、そして母子手帳と共に広がった数々の成果について、JICA及び母子手帳プロジェクトチームの支援に感謝の意を表しました。そして、母子手帳が2017年に試験的に導入された時点では、日本や諸外国での母子手帳の成果を聞き及んではいたものの、実際ガーナでどこまで成果を出せるのか未知数であったこと、現在、ガーナ全域の医療従事者や母子が母子手帳の効果と価値を実感し、国を挙げて母子手帳の持続性を真剣に話し合うようになってきたこと、国家健康保険機構(National Health Insurance Authority, NHIA)が母子手帳の印刷を始めるなど、国として制度化に取り組む成果が見え始めていることを説明しました。さらに、持続性の確保は未だ課題であるものの、母子の健康と福祉を増進するというゴールを達成できるよう、母子手帳の印刷、配布、活用を確実なものにしていかなければならないと述べました。

保健省医療の質管理室室長のアーネスト・アシエド氏は、母子保健は、ガーナユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)戦略の核であり、保健省は、母子手帳を効果的に活用しながら全ての母子に質の高い母子保健サービスを提供することを公言していると説明しました。また、母子手帳が“ケアの質”において果たす役割は明確で、早期発見、早期治療に向け効果的に活用されるべきであると述べました。さらに、母子手帳プログラムを継続していくために保健省として、1)資金確保を行うこと、2)保健省傘下のすべての医療機関において母子手帳プログラムを展開すること、3)母子手帳の標準的使用を維持、促進のため、関係機関に十分な支援を行うこと、が必要であると、あらためて保健省の役割を明確にしました。

JICAガーナ事務所小澤真紀次長は、GHS家族健康局及びアシャンティ州州保健局の高いリーダーシップと積極的な実施運営及び成果に感謝の意を表しました。さらに、新型コロナ感染症禍において、JICAはガーナ保健セクターへの支援を拡大してきましたが、ガーナが感染対策を行いつつ、プライマリーヘルスケア、母子保健サービス提供の継続においても成功事例となっていることを称賛しました。そして、今回の会議に多くの関係者が集まっており、2022年1月にプロジェクトが終了することを見据え、実り多い議論が展開されることを期待すると述べました。

【画像】会議で発言するJICAガーナ事務所小澤真紀次長

【画像】参加者からの質問に答える母子手帳プロジェクト萩原明子チーフアドバイザー

プロジェクト活動の進捗と成果

冒頭挨拶に続き、家族保健局栄養課課長エシ・アモアフル氏が、この1年半の活動の進捗と成果について説明しました。母子手帳プロジェクトには、1)母子手帳の全国展開、2)アシャンティ州の重点11郡における母子手帳有効活用、3)母子手帳の制度化、と大きく3つの活動の柱があります。1)の母子手帳全国展開においては、視聴覚教材作成に向けた台本のプレテストを実施し、研修教材の見直し及び最終化し、保健医療従事者研修及び第2回全国モニタリング・スーパービジョンを進めてきました。2)の活動については、11郡で第2回、第3回モニタリング・スーパービジョンを進めるとともに、社会・行動変容コミュニケーション(SBCC)活動計画策定のためのワークショップを開催しました。3)母子手帳の制度化については、管理運用規定策定のための第2回ステークフォルダーワークショップを開催しました。(プロジェクトニュース参照)。

活動報告に続き、萩原明子チーフアドバイザーが、プロジェクト終了時までに達成が期待される成果を、指標を用いて報告しました。母子手帳の導入により、子どもの身長計測や栄養カウンセリングが全国の医療機関で実施されるようになったほか、母子保健や栄養に関する母親の知識や家庭でのケアが向上していること、母親が医療従事者から丁寧な説明を受け、その指導内容を理解していること、人権やプライバシーが守られていることなど、母子手帳の導入が、質の高い母子保健・栄養サービスの提供にも寄与していることが示唆されました。WHOやUNICEF関係者からは、母子手帳が質の改善と、母子継続ケアの推進に効果があることをデータで示し、他国にも共有することの重要性が指摘されました。

【画像】全体写真

モニタリング・スーパービジョンの結果共有

プロジェクト全体の活動進捗報告に続き、GHS栄養課のヴェロニカ・クオテイ氏アシャンティ州の州栄養士のオリビア・ティンポ氏が、全国及びアシャンティ州11郡のモニタリング・スーパービジョンの進捗状況を報告しました。母子手帳全国展開と共に導入された子どもの身長測定については、全国、11郡ともに80%以上の保健医療施設数に身長計が配備され、保健医療従事者による身長計測の技術も徐々に向上しています。同時に導入された栄養カウンセリングは、母親への聞き取りから実施率が上がっていることが伺えますが、カウンセリング内容を母子手帳に正確に記入することが未だ課題となっています。SNSを使った保健医療従事者と母親の双方向の情報交換や、食品サンプルを使った栄養カウンセリング実施など好事例も報告されました。一方、記録に専念するあまり、軽度リスク症例を見逃していた事例を挙げながら、母子手帳の記載が母子手帳活用の重要な機能の1つである早期発見、早期治療に繋がるよう、医療従事者の意識や能力を高めていかなければならないことが強調されました。

【画像】モニタリング・スーパービジョンの報告を行うオリビア・ティンポ氏

今後のプロジェクト活動計画案

本プロジェクトの萩原チーフアドバイザーが、1)母子手帳の全国普及、2)アシャンティ州の重点郡における母子手帳有効活用、3)母子手帳の制度化と持続性の確保の3分野における2021年の活動計画案を発表しました。1)の活動としては、視聴覚教材の撮影を始め、完成を目指すとともに、第2回全国モニタリング・スーパービジョンを終えたのちに、全国の関係者を招いた母子手帳レビュー会議を実施する予定です。2)では、第3回モニタリング・スーパービジョン終了後、栄養カウンセリング・リスペクトフルケアの実施ガイドラインの妥当性確認会議を実施します。また、エンドライン調査を実施後、コントロール郡3郡の保健医療従事者研修を実施予定です。さらに、3)の母子手帳の制度化については、母子手帳管理運用規定の最終化を図るとともに、母子手帳全国展開に係る成果報告・経験共有セミナーを開催します。

母子手帳の持続性の確保

第3回JCC会議に引き続き、母子手帳の継続性の確保は本会議の需要な議題であり、GHS関連部署、保健省の他、WHO、UNICEFからの参加者と共に活発な議論が行われました。現在ガーナでは、母子手帳の供給が不十分なために、現場レベルでの標準規定を満たさない母子手帳の印刷や、販売が進み、印刷の質が悪かったり、高い値段で売られたりといった事例が散見されています。これらの問題に対応し持続性のある母子手帳運用システムを構築していくためには、母子手帳自体の印刷及びその資金確保といった財政面、母子手帳を現場で活用していく技術面、母子手帳プログラム全体を調整する管理面を検討していく必要があります。

財政面については、既に今年度国家健康保険機構(National Health Insurance Agency)が母子手帳の印刷を決め、郡議会(地方自治体)から印刷費拠出の意向が示されるなど、ガーナ保健システムにおける母子手帳の重要性が各所で認識され、ガーナ国内で印刷費を確保していくことへの機運が高まっています。纏まった数を低コストで印刷できるよう、また、手帳の内容や規格、著作権を厳格に守るため、これらの印刷費を中央レベルに集め、効率的に印刷を進めていく仕組みを作っていかなければならないという議論になりました。また、妊婦・母親に、母子手帳代として最小限の支払いを求めていくことの実施可能性について、検証する必要があるとの意見も挙がりました。

技術面については、現場では保健医療従事者が、配置替え、産休、進学等で頻繁に入れ替わっていく中で、助産師学校等での卒前教育や新人スタッフへのオリエンテーションに母子手帳研修内容を組み込んでいくことの重要性が強調されました。プロジェクトからは、自己学習やオリエンテーションの一助となるよう、視聴覚教材の作成を進めていることを伝えました。

管理面については、母子手帳の調達、分配、在庫状況確認は、最近運用が本格化したGhana Integrated Logistics Management System(GhiLMIS)が活用できるとの提案がありました。また、母子手帳の印刷の質を確保するためには、保健省/GHSへの印刷承認過程を明確にするとともに、未承認や規格外印刷といった標準から外れる場合への対応・罰則規定も定めていく必要があります。これらの項目は、現在プロジェクトで作成を続けている管理運用規定の中に反映される予定です。

これから

本プロジェクトは、遂に最終年度に入りました。今後も、これまで実施してきた研修の知識・技術の定着を目指し、全国、そしてアシャンティ州重点11郡において、モニタリング・スーパービジョンを続けていきます。また、プロジェクト終了後もしっかりと母子手帳が活用され続けるよう、管理運用規定や栄養カウンセリング・リスペクトフルケアの実施ガイドを最終化して制度化を目指すとともに、プロジェクトの成果を取り纏め、共有、発信していきます。プロジェクト目標の達成を目指し、最後までカウンターパートと共に進んでいきます。