第3回管理運用規定策定ステークホルダーワークショップの開催

2021年6月10日

2021年1月の第2回ワークショップ引き続き、同年6月10日ガーナの首都アクラで、第3回管理運用規定策定ステークホルダーワークショップを開催しました。ガーナヘルスサービス(GHS)から家族健康局、公衆衛生局、薬剤保管供給管理局、アシャンティ州及びセントラル州州保健局の他、保健省、保健省傘下ガーナキリスト教保健協会(Christian Health Association of Ghana, CHAG)、特殊法人保健施設協会(Ghana Association of Quasi Government Health Institution GAQHI)、私立医科歯科開業医協会(Society of Private Medical and Dental Practitioner)、そしてプロジェクトから29名が参加しました。今回のワークショップは、これまでの議論を関係者内で共有し、管理運用規定内で、まだ決定しきれていない事項への合意形成を図るとともに、現在かかえる課題への対応方法を検討することを目的に開催されました。前日に開催された第4回合同調整委員会会議での母子手帳プログラムの持続性に関する議論も踏まえ、活発な議論が繰り広げられました。(プロジェクトニュース「第4回合同調整委員会会議開催」参照)

代表者からの挨拶

GHS家族保健局リプロダクティブヘルス小児課長イザベラ・セグモシス氏は、母子手帳の全国展開とその持続性における管理運用規定の重要性を強調するとともに、ワークショップを通し、管理運用規定内に記載予定の重要事項について関係者内で合意形成を図ることの必要性を述べ、活発な議論となるよう参加者を激励しました。

保健省医療の質管理室室長のアーネスト・アシエド氏は、保健省は、母子手帳印刷のための資金を確保するとともに、保健省傘下の医療機関を調整、支援し、全ての医療機関で母子手帳が活用されることを推し進めなければならないと述べました。さらに、母子保健は、ガーナユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)戦略の核であり、母子手帳の有効活用が母子の保健増進、さらに結果的に母体死亡率、新生児死亡率、5歳未満児死亡率の低減に繋がると説明しました。

JICAガーナ事務所、小澤真紀次長は、母子手帳プロジェクトは2022年1月で終了するところ、母子手帳の制度化について議論を重ね、運用管理規定内に明記していく必要があると述べました。この会議に、保健省及び傘下機関、GHSのみならず、プライベートセクターなど幅広い参加が得られたことは貴重であり、実り多い議論になることを期待していると続けました。

ワークショップの様子

最初に、GHS家族保健局小児課長イザベラ・セグモシス氏が、これまでの管理運用規定の目的、目次、策定に向けたこれまでの議論の経過について説明しました。母子手帳は、母子保健栄養に関わる多くのプログラムのプラットフォームとなっており、関係者が、調達・配布・モニタリング等の過程を理解する必要があります。また、実施上の課題解決のため、一定の指針をあらかじめ定めておく必要があります。その為、母子手帳全国展開に係る規則を定める文書として、また、母子手帳プログラムの継続性を確保するツールとして、管理運用規定の策定を進めてきました。他方、母子手帳の記入方法、活用方法については、別途母子手帳ユーザーガイドを作成しています。管理運用規定は、1)はじめに、2)実施体制及び意思決定過程、3)母子手帳調達及び印刷、4)母子手帳ロジスティック管理、5)母子手帳活用のモニタリング、6)母子保健栄養データとしての活用、の6つの章立てとなっており、今回は、特に3)~6)について、確認、合意を得たいとの説明がありました。

その後、GHS家族保健局栄養課長エシ・アモアフル氏とプロジェクトの萩原明子チーフアドバイザーが、管理運用規定内に記される、1)母子手帳印刷、2)母子手帳配布、3)サービスにおける母子手帳利用、4)母子手帳から得られるデータ活用、の4つの側面について議論を深めたいという紹介があり、それぞれについて多くの意見が示されました。

母子手帳印刷については、母子手帳不足により、いくつかの保健医療施設は母子手帳を自ら印刷しており、それらは白黒印刷であったり、A4コピー用紙のサイズであったり、全てのページが含まれていなかったりという問題が起きているため、これらへの対応方法が規定内に記載される必要があるとの意見が挙がりました。すでに保健省/GHSに著作権があるため、認可外の印刷は著作権侵害となり、罰則を検討する必要があると提案されました。また、現在母子手帳は全国無料配布され、販売が禁止されていますが、私立の保健医療施設担当者は、供給と質を確保するためには、印刷費の一部を妊婦、母親から徴収する必要があると主張しました。さらに、全国の各郡がGHS本省の許可を得たうえで母子手帳印刷を進められるよう、申請、承認、実施過程を明確に定める必要があるとも提案されました。母子手帳印刷資金を集め印刷を行う仕組みを確立するためには、印刷業者選定方法、印刷費設定方法、印刷承認方法、モニタリング方法を一つ一つ定めていく必要があります。特殊法人保健施設協会の担当者からは、母子手帳の質を保つことは重要であり、決められた規格で印刷することに異論はなく、もし母子手帳販売が許可されるのであれば、印刷を依頼すべき業者、母子手帳の販売価格を含めた標準プロセスを提示して欲しいとの要望が挙がりました。さらに、大きな郡や大病院は、独力で印刷ができる一方、小さな郡や施設では中央レベルからの支援が必要であるとの意見も挙がりました。

母子手帳の配布については、薬剤保管供給管理局担当者から、国・州レベルの在庫管理には、医療消耗品の供給を担うラストマイル配送システム(Last Mile Distribution System)や近年運用が本格化したガーナロジスティック管理情報システム(Ghana Integrated Logistics Management System、GhiLMIS)を活用できるとの提案がありました。また、現在、母子手帳の配布基準は原則妊産婦と1歳未満の子どもとしていますが、5歳未満の子どもへも配布している施設や郡があり、母子手帳不足を加速しています。そこで、配布基準を徹底し、まずは全ての妊婦さんに母子手帳を配布し、妊娠期から確実に母子手帳を活用することから着手すべきだとの意見も示されました。一方で、母子手帳を持たない5歳未満児への母子手帳配布については、別立ての予算を確保して印刷することが提案されました。

母子手帳の有効利用に関し、州保健局長から、母子手帳は 危険兆候の早期発見に活用されるべきであるものの、妊娠期の高血圧事例が「記録されているのに見過ごされる」といった事例があり、管理運用規定またはユーザーガイドに、早期発見及び対応について記載すべきという意見が挙がりました。この点については、GHS母子課担当者から、母子手帳の次期改定の際、色分けや図・絵を加えることで、保健医療従事者が早期発見しやすい母子手帳に変更するといった対応を取るべきとの応答がありました。また、プロジェクトで実施してきた保健医療従事者研修は、GHS下の保健医療従事者を対象としてきましたが、開業医協会から、ガーナ全体の外来診療の50%を担う開業医や私立病院のスタッフにも適切な研修が提供されるべきとの意見が挙がりました。これには、保健省アーネスト・アシエド氏が、私立病院のスタッフにも参加してもらいやすい日程で研修を実施する方法を検討していきたいと返答しました。

母子手帳のデータ活用の点については、母子手帳は家庭用保健記録であり、重要な情報は、施設内の記録簿に転記され、個々からのデータが活用されることになるため、母子手帳と施設記録簿、それぞれの目的や役割について、運用管理規定に記す必要があるとの意見が挙がりました。また、ガーナは2020年12月に母子保健栄養戦略計画2020-2025年を開始していますが、母子手帳内の保健情報から、この計画の進捗確認を行う案も挙がっています。

これから

国の基準書を作成する際、関連機関との合意形成が施行に向けた鍵となります。今回のワークショップは、保健省及び傘下機関、GHSのみならず、特殊法人保健施設協会、私立医科歯科開業医協会の担当者の参加が得られ、プライベートセクターからの率直な意見を聞くことができました。会議の終盤、GHS家族保健局局長コフィ・イサ氏は、今後の流れとして、この議論を踏まえ、家族保健局内で1週間以内に運用管理規定の加筆修正を行い、参加者に共有するので、各自必要なコメントを残して欲しいと述べました。全ての修正作業が終わった後に、妥当性確認会議を開催予定です。

【画像】開会の辞を述べるGHS家族保健局リプロダクティブヘルス小児課長イザベラ・セグモシス氏

【画像】母子手帳プログラムの管理運用規定の構造

【画像】会議で保健省の役割を述べる保健省医療の質管理室室長のアーネスト・アシエド氏