本当の成果は、プロジェクト終了後に。

2016年2月23日

長期専門家、業務調整/参加型開発、古川宗明

皆さん、こんにちは。PROFOCAJONプロジェクトで業務調整を務める古川宗明です。このプロジェクトは、2013年5月〜2016年5月の3年間、直営の専門家一名で運営される、最小規模の技プロです。

ホンジュラスとは1994年に青年海外協力隊の6年度1次隊、体育隊員として赴任して以来の付き合い。当時知り合った現地の女性と結婚し、3人の息子をこの国で育てています。協力隊隊員の時からここでは、学生時代の通称、ラッキィで通っています。

ホンジュラスの電力消費量の約25%の発電を行うエル・カホンダムの建設により形成されたダム湖の周辺に位置する森林保全区域には、現在、約1万3千人の住民が住んでいます。トウモロコシやフリホール豆の栽培に従事する農民は、森林伐採、焼き畑、移動農業を営むことで土壌流出を生じさせ、これが深刻な問題となっています。この地域で活動する、カウンターパート機関(C/P)である電力公社(ENEE)の流域管理ユニット(UMC)に、農民に対する土壌保全技術指導をシステマチックに実施できるように、国内外で研修をかけながら能力強化を図るのがこのPROFOCAJONです。

1980年にダムの建設が始まる前は、この地域に住む住民の大多数は川沿いの豊かな扇状地で100年以上も前から農業を営んで生活していました。しかし、村がダム湖の底に水没することにより移住を余儀なくされ、代わりにあてがわれた土地で生活を始めました。場所は県外の農業適地でしたが、数年後には多くの住民が住み慣れた土地に戻ってきてしまいました。しかし、故郷に戻ってきたは良いものの、開墾できる土地は山腹の傾斜地の森。以前の環境とはあまりに異なるものでした。

こんな経緯もあり、カウンターパートのUMCが20年前に住民と接触をし始めた時、国の職員である彼らは、よく山刀を持った農民に取囲まれ、「お前ら、何しに来たんだ!」と凄まれたそうです。ホンジュラス最大の水力発電所を抱えるダム湖の湖畔に住みながら、電気どころか水道も通っていない村が未だに存在するのがこの地域に対する政府の関心をよく示しています。

1998年のミッチハリケーン、2002年の松の害虫大発生など、様々な苦境を各普及員の絶え間ない努力で突き進んできたUMCですが、気が付けば自分たちの拠所となる方法論や効率的な活動を保証するシステムなどが構築されずに来ていました。そんな中、JICAがパナマで実施した流域管理プロジェクト (PROCCAPAとALHAJUELA) の中で確立した方法論や、ホンジュラスの地域行政能力強化プロジェクト(FOCAL)と出会うきっかけをホンジュラス事務所を通じてUMCが得て、PROFOCAJONプロジェクトへとつながりました。

9つのパイロット村落に農民グループを組織し、共同圃場を作成。その中で、農民が土壌保全技術を学び、各自の農園でそれを実施していくという方法論を普及員が実施できるように、パナマや日本の専門家と共に能力強化を図っているのがPROFOCAJONですが、この20年間でUMCと農民との強い信頼関係が既に成り立っていたことが、プロジェクトを運営する中で証明され、非常にプラスとなっています。

UMCの皆さんの仕事への情熱、地域の住民の現状と将来への想いが、このプロジェクトには詰まっています。ホンジュラスは妻と息子たちの母国であり、私にとっては第二の祖国。この国がより良い国になって欲しいという思いは、彼らと一緒です。UMCの同僚、地域住民共々、力を尽くして地域の環境保全・生活改善に努めています。

しかし、私たちが求めるプロジェクトの本当の成果は、プロジェクトが終了してからもUMCによってPROFOCAJONメソッドが使われ続け、プロジェクト活動に直接参加しなかった同村内の農民や他村落の農民に普及活動が進められていくことです。PROFOCAJONとの3年の活動の意味は、UMCが独自に活動を計画し、予算を確保して体制を作り、活動を実施していくことで証明されます。それには、新人の普及員への指導、先進地の訪問や村落間の交流を組織としていかに継続して行っていくかもカギにもなっています。

JOCVの活動も、専門家の活動も、調整員の活動も、在外事務所職員の活動も、2・3年の周期でドンドンと入れ替わっていきます。この業界でやっていく人間は、次の仕事を他の国でまた2・3年行うことの繰り返し。短期の専門家であれば、そのサイクルは更に短いものです。一見、私たちの生活はホンジュラスが抱える問題とは関連がなく、仕事をこなしていれば生活は成り立ちます。日本人の気の合う仲間と仲良くやっていれば、2・3年など直ぐに経ってしまいますし、仕事の為に仕事をすれば、そつなくやることに終始します。私たち一人ひとりが行うことが出来ることは小さいかもしれませんが、何もできない訳ではありません。ホンジュラスが抱える問題に対して常に当事者意識を持ち、ホンジュラスの人たちと共に仕事をし続ければ、必ず、この国のプラスになる何かを一緒に作り上げることが出来ます。

どうぞ、皆さんの温かい声援をお待ちしております。

(長期専門家、業務調整/参加型開発、古川宗明)

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若かりし、協力隊員時代。

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エル・カホンダムはコルテス県、コマヤグア県、ジョロ県の三県の県境にあります。スラコ川と、ウムヤ川と、ジュレ川の三つの川の合流点を堰き止めることで作られました。建設後に水を溜めるのに、一年以上かかったほど大きなダムです。

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エル・カホンダムは、高さが200メートルを優に超える勇壮なメガ建築物。日本最大の黒部ダムよりも高く、新宿の都庁ビルの展望台とほぼ同じ高さです。

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ダム湖は、中米で最もワニの生態密度が高い所とされていて、希少な鳥なども生息する自然豊かな楽園です。

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ホンジュラスは、魚の生の切り身の米国への輸出でここ数年間、世界一をキープしています。その大部分が、エル・カホンのダム湖で養殖されているティラピアという淡水魚です。

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UMCの普及員と共にダム湖畔にある村々の農民の方々と仕事をしています。森を守ること、土を守ることが水を守ることとなり、水を守ることが命を守ることにつながるということを一緒に考えながら仕事をしています。

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パナマの2つのJICAプロジェクト、PROCCAPAとアラフエラがPROFOCAJONの原点。パナマ人専門家たちからの指導が、ここで生きています。

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FOCAL2プロジェクトの指導員から村落開発計画の研修を受講。自分の村の開発計画を立てる為に参加した住民の真剣な眼差しに、その意気込みを感じました。

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パイロット村落の一つLas Palmas村にて、普及員と農民とキャッサバの収穫。出来るだけ地元で調達できる素材を使いながらの有機農業を推進しています。環境にやさしい農業で、しかも安全な食品が確保されます。

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本邦研修で、官民一体の自然保護活動、群馬県みなかみ町北部の赤谷プロジェクトを訪問。参加者は、故郷再生へかける地元の人々の思いに大きな感銘を受けていました。

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パラグアイのイグアス湖流域総合管理体制強化プロジェクトの視察受け入れ。3年前は、ヒヨッコだった資源監視員たちが、パラグアイ視察団の前で堂々とした意見を述べる姿に嬉し泣きしそうでした。