緊急速報 ・ SMASSEプロジェクトの今後や如何に?

2008年2月14日

1. これまでの歩み
2003年7月から、中等学校の理数科教師を対象とした現職教員研修事業の全国実施を進めてきた本プロジェクト(フェーズ2)は、今年6月末までの活動期間を間もなく終えます。すでに昨年9月に終了時評価調査団を受け入れ、教員研修事業のシステム構築を成し遂げたこと、他のアフリカ諸国への知識・経験普及を促進したことなどを高く評価いただきました。
「システム構築」と一口に言ってしまえば簡単ですが、全く教員研修制度の無かったところから、60名もの中央研修講師を育成し、ナイロビ近郊に92名の宿泊定員を擁する中央研修センターCEMASTEAを設立し、ケニア教育省や中等学校が研修実施のランニングコストを賄うルールを固め、実際に8割以上の教員が年に1回2週間の合宿研修に参加したという実績を作り上げるまでには、日本人・ケニア人スタッフが一体となって現場での活動に取り組み、JICAやケニア教育省の後押しをいただいた、関係者全員の努力がありました。
今後の課題としては、全国100ヶ所以上に展開した地方研修の質のコントロール、地方教育行政官との連携強化、他のアフリカ諸国への技術支援の強化、 中央研修センター CEMASTEA の組織運営管理体制の強化、活動対象を中等教育から初等教育へ拡大する可能性を探る、などがあげられており、その宿題を片付けるべく色々と作戦を練っていたのでした。

2. 中等教育無償化政策
昨年5月頃から、大統領選挙キャンペーンの公約の一つとして、初等学校を卒業して中等学校へ進学する子供達の割合を出来る限り引き上げたい、そのために中等学校の高い学費構造を見直すべきだとの政策を打ち上げたところ、それが社会的な支持を得て、教育省ハイレベルにて議論されるようになりました。その結果、この1月9日にケニア教育省は 中等教育の学費に関するガイドラインを発行、 全国の地方教育行政官や中等学校長へ向けて配布しました。 通学制中等学校の年間学費が生徒一人当たり10,265シルと定められ、その全額が政府負担と定められたことは、新聞報道等でも大きく取り上げられました。( 寮制学校の学費は28,892シル、そのうち10,265シルが政府負担、18,627シルが家計負担 )
本プロジェクトとの関連では、政府が負担する10,625シルの一項目であるTution Fee(3600シル)の使途例として「INSET seminars for student, and teachers such as SMASSE」と明記されたことが画期的でした。このことはSMASSEの教員研修事業が、ケニア教育省の事業として認知されていることを示し、SMASSEの地方研修事業を継続的に実施するための経済的基盤が確保されたことを意味します。今までは生徒から集めた学費の一部を地方教育事務所がSMASSE基金として徴収し、研修実施費用に充てていたのですが、これからは生徒から徴収せずとも中央から降りてくる予算の中からやり繰りすれば良いわけで、お金の流れがより円滑になると期待出来ます。
というわけで、ケニアの中等教育は量的に拡大基調にあり、学校数も、教室数も、生徒数も、教員の新規雇用も増加する傾向にあります。当然、その質を落とさないための対策も必要になる。ケニア教育省が理数科の教員研修を継続実施するのだという意思を表明したことを、SMASSEとしては重く受け止めました。


3. 教員研修事業のインパクト
教員研修のシステムが完成し、教員が研修に参加するようになって、さてその結果として子供達の学力は向上しましたか?と皆さんが素朴な疑問を抱くのは自然なことでしょう。今まで、学校視察等の機会を利用しては、校長先生や生徒達の声を聞き、表情を確かめ、教育行政官にインタビューするなどして、SMASSEの研修が何らかのお役に立っていること、少なくとも行政官も教員も生徒達も好意的な印象を抱いていることだけは確信していました。ところが、そういう印象をハッキリした数字として、グラフとして、お見せすることが出来ず、素朴な質問をいただく度に歯がゆい思いをしていました。
そこでプロジェクトの活動として、校長や教員へのアンケート、生徒達への学力調査とアンケートを実施し、教員研修の実施が、生徒の学力向上につながるメカニズムを確かめるという大仕事「中等理数科学力達成度調査(SPIAS)」を開始したのが2004年9月のこと。以後、毎年9月に全国150の中等学校を訪ねて6000名の生徒(中等学校2年生)に学力達成度調査を行い、4年分のデータが蓄積されました。
現在、このデータを詳細に解析するため「教育の質向上インパクトの効果測定研究会」を発足させ、東京工業大学副学長の牟田博光教授、財団法人国際開発センター佐々木亮主任研究員の技術支援をいただき構造方程式モデリングを用いた共分散分析を実施しています。これにより、教員研修を実施すると、研修を受けた教員の勤務態度が変わり、授業の様子が変わり、生徒の授業態度が変わる・・・といった学力向上の道筋・因果関係を図解でご説明出来るようになります。もちろん生徒の学力を向上させるためにはそれなりに長い期間の社会的努力が必要ですし、教員の力量だけでなく、校長のマネジメント能力、親の教育に対する関心、社会的背景、教育カリキュラムの変遷など、様々な要素が生徒の学力に影響を与えるのですから、それほど刺激的な分析結果は得られないでしょう。それでも学力向上までの常識的な解釈・仮説を、定量的に裏付けることは出来そうです。(最終報告書は2月末に完成予定です)
さらに、この分析作業を経て、SPIASのツールをより精緻なものとし、他のアフリカ諸国にも適用出来るよう開発を進めれば、JICAがケニアを始めとしてアフリカ各国で開始している教員研修事業の質向上のために活用できますし、教員研修の成果を中長期的なトレンドとして確認するための統一的な物差しとして使えるのではないかと、今後の活躍に大きく期待しています。

4. 選挙後騒乱の影響
さて、そんな状況の中、昨年末・年始の国政選挙の時期はスタッフ一同休暇を取り(毎年1月から11月までカレンの研修所と我がスタッフ達は休み無しにフル稼働しているのです)、新たなチャレンジに向けて鋭気を養っていました。 とりあえず選挙の結果が出て、新政権の人事が固まるまでは、教育省内も落ち着かないだろうことは想定内です。教育省内ハイレベルの人事が固まれば、彼らとの対話を通じて、プロジェクトの活動の今後の見通しもつくだろうと思っていました。
ところが、後は皆さまご存知の通り、ケニアに住む全ての人が大変な思いをする事態になってしまいました。教育現場も大混乱です。何しろ公立学校の1学期の開始を1週間先延ばしにしても、先生も生徒も学校へ通うのを怖がってしまい、特にケニア西部地方では、2月になっても学校がまともに機能していない様子が報道されています。これでは幾ら中等教育無償化の政策を打ち出しても意味がありません。
さらに身近な同僚達の動向に注目すれば、やはり西部地方出身者がナイロビ周辺で暮らすのは大変そうです。西の出身だからというだけで、アパートの大家に退去を命じられた人、家に火をつけられて家財を失った人、自宅が襲われることを恐れて毎晩ろくに眠れない人、バスに乗って通勤するだけでも恐怖を感じる人、これでは仕事に集中出来ないでしょう。
中央の教育省も、地方の教育現場も、我がスタッフ達も、まともに機能していない状況ではプロジェクト活動はほとんど動きません。本来なら、これまで何らかの理由で研修を欠席してしまった地方研修講師を対象とした「補講研修」を実施する予定だったのですが、何となく様子を見ながら延期になっています。初等教員養成カレッジの講師を対象とした第2回研修も同様に準備が進みません。国政選挙キャンペーンのために地方行政区分が細分化され、地方教育事務所長のポストも大幅に増えたはずなのですが、SMASSEのブリーフィングを実施しようにも教育省人事が追いついておらず見通しが立ちません。アフリカ諸国12カ国から80余名の教師教育関係者を集めて実施するつもりだった第三国研修も、残念ながら中止となりました。

5. 今後の活動の見込みとSMASSEに課された大きな挑戦
上述したように、ケニア国内向けの各種研修事業は実質的に停まっています。辛うじてアフリカ諸国向けの技術支援事業は、ウガンダ、タンザニア、スーダン、レソト、アンゴラ、ザンビア、ルワンダなど様々な国を技術支援する活動が計画されているのですが、これらとてケニア国内向け事業で蓄積した知見や人的資源がベースになっていますから、いつまで継続実施出来るのか不透明です。
こんな風に、援助対象の国の政情が不安定になってしまえば、隣人同士が傷つけ合い、互いに信用出来ない社会情勢になってしまえば、JICAが実施している技術協力事業の成果やその蓄積は一気に水泡と化す危険があります。この業界で仕事をしていれば頻繁に耳にする言葉ではありますが、相手国のグッドガバナンス(良き統治)に貢献する仕事をしなければ、私達の仕事の成果はあっという間に根底からひっくり返ってしまうのです。
「国造りは人づくり」という技術協力の原点を思い起こせば、発展途上国のひしめくアフリカ大陸において理数科教育の強化を促進し、その大衆に合理的・科学的思考を普及していくことが、この大陸にグッドガバナンスをもたらす基礎となり、富の分配がより公平になれば国内紛争も減り、あらゆる分野の技術協力事業を効率良く、効果的に実施していくための良き土壌となるはず。SMASSEプロジェクトの一員として、私達に課された大きな挑戦の意味を噛みしめれば、少々のことで活動を停滞させている場合ではないのですが・・・。