牛が知っている

2018年3月12日

牛にたくさん生乳を出してもらうためには、彼(女)らの食事の管理が重要です。これは、飼養管理というのですが、抗生物質などで汚染されていない安全なエサを与えること、生乳の質が向上する栄養価の高いエサを与えること、生乳の出が良くなるエサを与えることなどです。乳牛が健康を保ち、良質な生乳をたくさん出してもらうために、この分野を担当する中谷専門家は日々知恵を絞っています。

彼は、この国で手に入る良いエサを探していたある日、小麦を原料としたキルギス産の美味しいウォッカを製造する過程で発生する小麦の圧搾後の抽出液が、乳牛の補助飼料として有効であるとの情報を得たそうです。その情報をもたらしてくれた獣医師の知人によると、「当地の酪農家や肥育農家がこれを飼料利用するようになったのは約7年ほど前からで、当時は工場から生産された抽出液は産業廃棄物扱いされて空き地のくぼ地に廃棄されていた。それが池のようになってくると周りの放牧牛が自然に集まってきてそれを喜んでなめる光景が見られるようになっていた。これを見た農家が、これは餌として利用できるかもしれないと思いつき、自分の牛に給与を試み、給与方法や量など様々な面から試行錯誤を繰り返した。その結果、肥育牛の増体や乳牛の乳増量に効果的であることが確認され、それから口コミで農家間にその評判が拡大することとなった。」とのことです。

中谷専門家は、トウモロコシを乳酸発酵させたコーンサイレージというエサを調製するセミナーを、現地の酪農家向けに2回開催しましたが、その出来の良し悪し判断は、自分が食べてみるのが一番と、実際にモグモグ食べて見せます。出来の良いコーンサイレージは程よい酸味の芳醇な味ですが、不出来のものは堆肥のような香りがします。彼は、ウォッカの製造過程で出る小麦抽出液も飲んでみたそうです(ちなみに味は日本のどぶろくに酷似している(アルコール分はない))。そして今度は大麦由来のビール滓の有効利用について精力的取り組もうとしています。

牛にエサの感想を聞くことはできませんが、彼(女)らに喜んで食べてもらえる栄養価の高いエサ探しは、まだまだ続きます。今回目を付けたエサは、何よりも産業廃棄物であるため、原価が非常に低いことは今後の普及を考える上で、非常に重要なファクターでしょう。この他にも、砂糖ダイコン(ビート)からの製糖過程でできる「ビートパルプ」の補助飼料利用と、やはり廃棄物扱いの「糖蜜」の補助飼料利用及びサイレージ・ヘイレージ調製時の乳酸発酵促進材としての有効利用なども検討しているそうですが、このような発想は、現地にとって、環境的にも経済的にもとても有意義な技術と言えるでしょう。

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トウモロコシサイレージの食味と風味の検査中

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ウオッカ製造後の小麦由来副産物(どぶろく味)

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沖縄方面で目にする「糖蜜」は、砂糖キビを原料とした砂糖の精製過程で副産物として発生するものだが、当地では砂糖ダイコン由来のものである。

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農家の庭先で保管された給餌前のビートパルプ。水分調製が適切にできればサイレージ調製も可能である。

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農家の庭先で保管されたビール滓。適切な水分調整の可否がカギとなる。

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ビール製造の原料として圧搾された後の大麦の様子。