モンゴル初のSATREPSプロジェクトが開始

2014年11月11日

帯広畜産大学原虫病研究センターとモンゴル国立農業大学獣医学研究所が共同で研究を進める「モンゴルにおける家畜原虫病の疫学調査と社会実装可能な診断法の開発」がSATREPSプロジェクトとして2014年6月から2019年6月まで実施されます。

モンゴルでは就労人口の約3割が農畜産業に従事していますが、家畜の生産性や収益性向上のためには家畜原虫病対策が重要です。本プロジェクトでは全国規模の疫学調査を通して原虫病流行の実態を解明すると同時に、原虫病を簡便、迅速かつ正確に診断できる簡易迅速診断法の開発とモンゴルでの実用化をめざしています。

プロジェクト開始から現在までに毎月約7日〜10日の日程でモンゴル各地の疫学調査を実施し、ウシ、ウマ、ヤク、ヤギ、ヒツジ、ラクダの血液を採取して原虫感染について分析を行っています。これまでに約4,000頭分の血液サンプル採集が完了しており、調査は今後も継続していきます。疫学調査チームは原虫病研究センターからの短期専門家3〜4名にモンゴル人カウンターパート5〜6名が加わった8〜10名から成っていて、調査機材一式を満載したプロジェクト車輛を使ってモンゴル各地を巡っています。

地方の疫学調査実施では地方獣医師達の協力が不可欠です。各地域の地方獣医師や遊牧民との日頃の信頼関係がなくては当プロジェクトへの協力は期待できません。現地では県や郡の地方獣医師と協働して畜主たちへ調査の目的やアウトプットを説明し、同意を得た上で遊牧民にとって家族であり大切な財産である家畜から血液を採らせていただいています。

ヤギとヒツジからの採血は比較的簡単ですが、大型家畜のウシ、ウマ、ヤクおよびラクダの場合、屈強な男性が4人がかりで採血を行うこともあります。その際に畜主が一緒だと家畜がおとなしいので、通常は飼主にも協力してもらいます。どんなに家畜の数が多くても畜主はそれぞれの名前、年齢、病歴などを正確に記憶しており、愛情が感じられると同時に疫学データの収集にも一役買っています。

疫学調査で各地を巡って第一に感じることは、遊牧民伝統の「おもてなし」です。調査終了後には必ず全員をゲル(モンゴルのテント)の中に招き入れてくれ、馬乳酒やスーテーツァイ(モンゴル式ミルクティー)、自家製チーズに肉料理、そしてモンゴルでは欠かせないウオッカで「おもてなし」がはじまります。遊牧民家族と談笑しながらいただく自家製チーズやクッキーは大抵テーブル一杯に並べられ、時には羊を丸ごと1頭使った食事をふるまってくれることもあって恐縮すると同時に、モンゴルの人々の心の広さを感じます。

疫学調査で各地を訪問して自然と共存する家畜や遊牧民の生活を体験すると、慣れない食事や厳しい自然環境に困惑することもありますが、モンゴルにおける本プロジェクトの重要性、必要性を身をもって感じとることができます。夏の間に家畜から採取した多くのサンプルをこれから始まる冬の間に分析しつつ、簡易迅速診断法の開発にむけた共同研究と人材育成を行っていきます。疫学調査に協力してくれている多くの遊牧民たちのためにも一日も早くプロジェクトの成果を現場に還元したいと考えています。

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ヤギからの採血

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野外での血液サンプル処理

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ヤクの保定に協力する遊牧民

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採血のため、家畜を集める遊牧民

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調査先での血清分離作業

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典型的なモンゴルの肉料理