地方獣医師会セミナーから放牧地調査へ そこで得られたもの

2017年10月25日

今回の記事は、前記事で発見されたトリパノソーマ病の馬がいる農場での疫学調査に同行した水島専門家のリポートです。

8月5日に開催された地方獣医師会でSATREPSプロジェクトのセミナーを実施した際、ゴビスンベル県に住む放牧民が会場にトリパノソーマ症感染雌馬を連れてきました(前ニュース参照)。これを発端に、8月9日(水)、当プロジェクトチームから選抜された研究員が調査・治療のためにその感染馬を保有する放牧主のもとを訪れました。そこには20頭程の馬がおり、研究員らはそれらから血液サンプルを採取するとともに、抗トリパノソーマ薬を用いた治療も行いました。その際、放牧主が馬を固定している間に、研究員が採血及び治療を手際良く行うチームワークには目を見張るものがありました。一方で、感染源と疑われている雄馬にも同様に行われていたのですが、激しい抵抗に遭い放牧主だけでは固定できなかったのです。そこで、近所の放牧民の手を借りることで、やっとの思いで固定し採血等を行うことができました。

さらに今回の調査では、放牧主の了承を得て、セミナーに連れてこられた感染雌馬をその場で解剖することとなりました。解剖される感染馬から体液、各臓器がサンプリングされると同時にそれらに病変等がないか肉眼での観察が行われました。その最中、この感染馬は幼い命を宿していたことが発覚したのです。これまで、モンゴル国内において臨床症状を呈した感染馬から胎児が摘出された例はないため、母子感染の有無を明らかにする貴重な検体となりました。

今回の調査で貴重な検体を得ることはできましたが、調査のためといえども母子の尊い命を犠牲にしてしまったことは胸を痛めるものでした。このことは、トリパノソーマ症に限らず現存する感染症の蔓延を阻止・根絶することの意義を改めて認識させられるものとなりました。

現在、回収されたサンプルは血清学、病理学等の様々なアプローチによって解析が進められています。

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放牧主が馬を固定している間に治療するプロジェクト調査員のバトラー研究員

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感染源と疑われる暴れる雄馬を抑える放牧主と近所の放牧民、その間に採血する調査員

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感染源と疑われる暴れる雄馬の生殖器粘膜を採取するプロジェクト調査員のバトゥール教授

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雌の感染馬から摘出された胎児