A.アリウンザヤ労働社会保障大臣インタビュー

2022年6月13日

障害者の就労を支援する人材をモンゴルで育てる

2009年に障害者権利条約に批准し、障害者の権利保障と社会参加を促進する施策が強化されているモンゴル。2016年には障害者の権利を定めた「障害者権利法」が制定され、翌17年には障害者の就労促進が国家目標に掲げられるなど、法制度の整備も進む中、2021年からはモンゴルの労働社会保障省とJICAが技術協力「モンゴル国障害者就労支援制度構築プロジェクト(DPUB2)」を実施しています。

こうした中、DPUB2では障害者の雇用を進めているモンゴル企業の取り組みを多角的なインタビューをもとにご紹介し、企業と障害者双方が笑顔になれる就労の在り方を考える新連載「モンゴル障害者雇用の現場から」をスタートします。開始に先立ち、モンゴルにおける障害者の現状と、障害者雇用政策の最新状況について、アリウンザヤ労働社会保障大臣に聞きました。

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モンゴル政府の障害者雇用政策を率いるA.アリウンザヤ労働社会保障大臣

Q.モンゴルには障害者がどれぐらいいるのでしょうか。最新状況を教えてください。

大臣-2021年の統計によれば、モンゴルにおける障害者数は、約10万6,100人に上ります。このうち約1万1,400人は16歳未満の障害児です。また、1万3,700人の障害者がなんらかの仕事に就いています。

障害の原因は、78%が一般疾患と最も多く、事故が10%、職業病が5%、交通事故が4%、労働災害が2%と続きます。また、障害種別は、視覚障害者が1万1,700人、聴覚障害者が8,400人、言語障害者4,000人、身体障害者が2万1,000人、精神障害者が2万400人、重複障害者が7,400人、それ以外の障害が3万3,100人となっています。また、9,800人の就学年齢障害児のうち、4,300人が中等学校、1,200人が特別支援学校に通っていますが、2,800人は就学しておらず、中退者も370人います。

Q.障害者を支援するために、どのような政策が実施されているのでしょうか。

大臣-モンゴルでは、2009年に障害者権利条約を批准した後、2016年に障害者の権利を定めた「障害者権利法」が公布されました。また、その施行状況を監督するため、同じ年に障害者国家委員会や副委員会、支部委員会が設置され、2018年には障害者開発庁も設立されました。

しかし、障害に対する社会の理解は十分に進んでいると言えず、障害者の社会参加はいまだに制限されているため、分野横断的な連携の推進と、法的な環境整備が求められています。こうした認識の下、われわれは「障害者権利法」を改訂し、「バリアフリー法」案を策定する作業部会を設置しました。障害者就労促進プログラムも継続し、今後、助成金サービスを提供する予定です。

また、ドナーからの支援を受け、障害者を対象にしたプロジェクトも実施しています。例えば、アジア開発銀行(ADB)とモンゴル政府が実施している「障害者のための包摂的なサービス提供プロジェクト」では、地方6県(ホブド県、フブスグル県、アルハンガイ県、ダルハン・オール県、ドンドゴビ県、ドルノド県)に障害者開発センターの建設を進めており、工事は50~65%が終わっています。また、ウランバートル市内でも障害者就労促進センターを建設中です。

一方、モンゴル政府と国際協力機構(JICA)は、2021年2月から2025年1月まで「モンゴル国障害者就労支援制度構築プロジェクト」を実施しています。

Q.JICAの支援を受けて実施したこれまでのプロジェクトと活動について教えてください。

大臣-労働社会保障省とJICAは、2016年から2020年にかけて「ウランバートル市における障害者の社会参加促進プロジェクト」を実施しました。このプロジェクトを機に、2018年から年に一度、『障害者白書』を発行して障害者の現状を記載するようになったほか、2017年に開始された障害平等研修の参加者も、これまでに1万3,000人以上に上っています。

これらの成果を踏まえ、第2フェーズとして始まったのが、「モンゴル国障害者就労支援制度構築プロジェクト」(以下、DPUB2)です。

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2022年5月に開催されたジョブコーチ入門セミナーの講師と参加者たち

Q.DPUB2について、活動の詳細や目的を教えてください。

大臣-このプロジェクトでは、ジョブコーチ就労支援サービスを提供します。さらに、このサービスに基づいて、障害者と企業を結ぶ専門職人材であるジョブコーチの育成を目指します。

企業が障害者を雇用することは、法律上の義務となっています。この義務を果たさない場合は、納付金を払わなければなりません。モンゴルでは、現在、ほとんどの企業は障害者を雇用するより納付金を納めることを選択していますが、その裏には、働きたいと願っている障害者が何千人もいるのです。

こうした現状が変わらない理由は、2つあります。まず、障害者について企業側の知識や理解が十分ではありません。一方、仕事を探している障害者の学歴とスキルも高いとは言えません。だからこそ、企業の意識を変え、職場の合理的配慮を整えると同時に、障害者の知識とスキルを高める必要があります。そこで重要なのが、障害者と企業を結ぶジョブコーチ就労支援サービスです。ジョブコーチは、モンゴル社会において新しい概念であり、新しい職業でもあります。

また、このプロジェクトでは、民間企業に対する啓発人材も育成します。

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2022年4月にウランバートルで実施された「企業啓発セミナー」では、企業の人事担当者が障害について理解を深めるためのグループワークも行われた

Q.ジョブコーチについて、詳しく教えてください。

大臣-企業も、本音の部分では、納付金を払うよりも障害者を雇用することに関心を持っています。しかし、求人情報の出し方や、合理的配慮の方法などについて理解が十分ではありません。また、いざ雇用した障害者が求める条件を満たさないと、その後、障害者の雇用をためらう傾向があります。

一方、仕事を探している障害者も、仕事の探し方や求人情報の入手方法、求められるスキルなど、たくさんの疑問を抱えています。障害者と企業をつなぎ、こうした課題を解決する人がジョブコーチなのです。ジョブコーチは、企業に対して助言したり、情報を提供したりすると同時に、職場の合理的配慮や環境を整える上でも大きな役割を果たします。

ジョブコーチは、障害のある人に対して直接支援するだけではなく、障害のある人にとって働きやすい職場環境を作るために、環境にもアプローチする専門職です。具体的な業務プロセスとしては、まず、障害のある人の特徴を把握した上で、その人にあった職場を見つけ、職場に出向いて雇用主や従業員と協働で支援を行います。同時に、仕事の技術や職場のマナー指導、コミュニケーションのサポートもします。こうして、ジョブコーチを通じて就労支援サービスを提供することが、DPUB2の目標です。

Q.本日は貴重なお話をありがとうございました。

大臣-ありがとうございました。

ジョブコーチ就労支援サービスとは

ジョブコーチを通じた障害者と企業向けの専門的な就労支援サービスのことで、モンゴル障害者開発庁が中心となって2022年6月から提供が開始される予定。

このサービスを通じて、今後、年間数百人の障害者が企業に雇用されることが期待される一方、障害者の雇用が難しい企業には、納付金を納めることで社会的責任を果たすよう求められている。