エーヤワディ地域全体へのプロジェクト成果の普及(広域研修の実施)

2016年12月14日

1.3郡から26郡へ拡大

エーワディ地域の稲作栽培面積は日本より大きく、約200万haあります(日本は約150万ha)。本プロジェクトでは、これまで3県、3郡(タウンシップ)で優良種子生産の活動をしてきました。今年度はこれまでのプロジェクト成果をエーヤワディ地域全体に広げるため、地域内全ての6県、26郡に対象を広げた研修を実施しました。研修は「稲種子生産」のための研修と、「ほ場審査」の研修の2つです。稲種子生産の研修は、稲の成育に応じて栽培期間中に5回実施しました(表1参照)。研修はプロジェクトが作成した「稲増殖マニュアル」を基に、講義とデモ圃場での実習などを行いました。
第1回研修は播種期です。日本で昔から行われている塩水による選別方法などを指導しました。卵を使って塩水の濃度を定めますが、この塩水を使うと未熟な種子や、病気にかかっている種子を取り除くことができます。苗代や薄撒きの励行なども指導しました。
第2回研修は苗の移植期に実施しました。ほ場に縄を張って苗のライン植えを行い、播種後3週間経過した35cm程度の苗を植えます。日本と比べると、苗は約2倍の長さになります。深水の水田ではこの長さが必要です。
第3回は分げつ期です。ミャンマーでは天水田がほとんどなので、畝間や株間からたくさんの異株、雑草が生えてきます。田植え後、早い段階で抜き取ることを指導しました。
第4回は出穂期です。ミャンマーでは日本と違って穂が一斉に出ません。水田の均平など水田の条件が異なるからです。穂が出る時期は異株を発見する最も重要な時期です。あまりにも早く出る穂・特段に遅い穂、長い穂・短い穂、色の異なった穂を株ごと抜き取ることを指導しました。
第5回は収穫期です。刈取り前に「ほ場審査」があり、異株が無いか最終検査をします。ミャンマーでは赤米の発生が大きな問題になっていますが、赤米は野生稲と栽培稲が混じってできる稲です。これは雑草稲とも言われており、プロジェクトでは「雑草稲マニュアル」を作成・配布し、赤米(雑草稲)が発生しないように指導をしました。

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実習会場となったPathein種子農場内で、苗代作りと播種の実習を行う広域研修参加者

表1 2016年広域研修の内容及び参加者数

研修 第1回 第2回 第3回 第4回 第5回
月日 6月7,8日 6月28,29日 7月26,27日 9月28,29日 10月31,11月1日
播種後日数 0 21 49 115 145
場所 Pathein Farm Pathein Farm Pathein Farm Hmawbi,Yangon DAR-Myaungmya
実施研修 種子選別、
種子消毒、
整地・均平、
苗代作り、
播種
整地・均平、
苗取り、
移植
肥培管理
水管理
除草、異株抜き
肥培・水管理
病害虫対策
種子生産農家圃場視察
除草、異株抜き
ほ場審査
病害虫対策
種子生産農家圃場視察
除草、異株抜き
圃場審査
収穫後処理
病害虫対策
農家圃場視察
講義研修試験、他 活動計画
種子選別・消毒
整地・均平、
苗代作り、播種
普及員の発表
種子生産の試験
質疑応答
整地・均平
苗取り、移植
肥培管理、
水管理
普及所の発表
種子生産の試験
質疑応答
除草・異株抜き
肥培管理
稲病害対策
ほ場審査
普及用ポスターつくり
普及所の発表
種子生産の試験
質疑応答
除草・異株抜き
野生稲
ほ場検査
水田雑草
病害虫対策
普及所の発表
種子生産の試験
質疑応答
ほ場審査
品種特性
収穫後処理対策
種子調製
ラボ検査/サンプル
本邦研修報告
普及所の発表
種子生産の試験
質疑応答
参加者 67 66 73 85 77

2.ほ場審査研修

ほ場審査研修は、上記1の研修を補完する研修です。ほ場審査技術の取得のため、少人数を対象にした実践的研修を目的としました。エーヤワディ地域内26郡を4つに分け、それぞれ2回の研修(分げつ期と出穂期)を実施しました。参加者は、各郡の種子担当と2名の普及員、各県の種子担当3名、近くの種子農場から2名の職員です。研修は「ほ場審査マニュアル」を作成して実施しました。特に達観検査(ほ場全体を回り、異株が無いことを確かめる検査)の重要性を強調しました。ミャンマーにおけるほ場審査の問題は、達観検査が不十分なままサンプル検査を行ってしまうことです。ミャンマーにおけるサンプル検査は、1,000穂×5か所という特異的な制度に則るため、ほ場審査時に達観検査が抜け落ちてしまう傾向があります。
研修では、これまでプロジェクトで能力強化を行ってきた県、郡の種子担当者が指導者となって、参加者への指導を行いました。ほ場審査研修(計8回)全てに農業局の県事務所所長が出席し、種子生産の重要性を研修参加者に改めて説明する様子から、エーヤワディ地域全体の種子生産、ほ場審査に対する高い関心と意欲が伺えました。その際には、日本からの支援に対する謝意が述べられました。

3.研修で得た知識の実践と普及

上記の研修参加者は、研修会場から各郡に戻った後すぐに、彼ら自身が同じ内容で他の同僚普及員や担当地域の種子生産農家に研修を実施します。つまり、研修参加が最終目的ではなく、研修・実習で学んだことを自ら誰かに教えるプロセスを踏まえてもらうことで、研修参加者の知識や技能が実践され、定着していくことを図っています。そのための研修・指導計画の立案・実施・モニタリングなども、上記1に記した研修の一部として実施しています。
プロジェクトでは26郡で実施される研修を支援するため、各種マニュアルを広く配布し、研修教材の作成などについても指導しているほか、水分計や簡易土壌検査キットも供与しています。
ミャンマーでの種子生産は容易ではありません。厳しい気象条件、雨が降ると土砂降り、晴れると猛暑でほ場審査は困難を極めます。地方に配布される予算は決して潤沢ではないため、普及活動のための費用すら不足しがちです。また水田は日本と比べ深く、歩きにくく、ヒル、蛇などもいます。それでも普及員は裸足で水田に入り、任務を果たしています。プロジェクトでは、こうした熱意ある普及員とともに種子品質の向上を図ることで、稲作の収量・品質向上、農家の所得向上、ひいてはミャンマーの食糧安保に貢献していく方針です。

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ほ場審査研修の様子(Hinthada)

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ほ場審査研修の様子(Ma U Bin)