プロジェクト概要の詳細

プロジェクトの実施理由

エーヤーワディ・デルタにおいて住民参加型森林管理による技術協力プロジェクトの実施は次の5つの理由より重要です。

  1. マングローブとその生態系保全の緊急性
  2. 保全林地域の貧困住民のマングローブ資源への依存
  3. 相手国政府の政策上の位置づけ
  4. 我が国ODAの援助重点分野
  5. 当該セクターにおけるJICAの経験

1.マングローブとその生態系保全の緊急性

エーヤーワディ・デルタ地域のマングローブは木材伐採などの経済活動による人為的な圧力のために壊滅的な危機に瀕しています。デルタのラプタ、ボガレー、ピャーポン郡のマングローブ被覆率(2001)は、1924年当時の4割程度と半分以下に減少しています。ミャンマー政府は、マングローブ減少に歯止めをかけるため、マングローブ伐採・炭焼き禁止令の発令や共有林令(注1)に従った植林の振興など努力を重ねていますが、その減少は止まりません。

マングローブは、材木・薪炭材の生産機能に加え、生物多様性・沿岸生態系保全(魚つき)、地球環境保全(CO2吸収、代替エネルギー)、土砂災害防止/土壌保全機能、汽水域の浄化機能、気候緩和・大気浄化、保養・レクリエーションの場を与えるなど多様な機能を有しています。現在、同デルタのマングローブは特別保全地域や河畔に残存しているのみです。人口増に加え無秩序なエビ養殖池の開発圧力によって危機的な状況に瀕しています。マングローブのそれらの機能を維持するためには、守るべきところと開発すべきところのメリハリをつけ、住民とマングローブの共生関係を確立することが肝要です。そのため、まず残存するマングローブを無秩序な人為的な圧力から守り、再生し、持続的に保全することが緊急課題です。

(注1)「共有林令」とは、住民グループに森林を含む一定の土地(国有地)の利用権を無償で付与し、住民グループが自主的に付与された土地・森林を管理するミャンマー国の制度です。住民グループは、そこから木材など生産物や利益などを得ます。共有林令に従い政府の支援の下に住民グループが実施する活動を共有林活動と言います。

2.保全林地域の貧困住民のマングローブ資源への依存

デルタ地域の住民はマングローブが育む自然資源に依存して生計を営み、貧困度合いが高いほどその依存度合いは高くなっています。これらの自然資源の生産や販売に支障が生じた場合は直接的に住民の生活に影響します。プロジェクト対象地域の貧困状況を改善するために、住民の生活基盤となりえる生産や加工など経済活動の技術や販売などの基盤を確立する必要があります。

3.相手国政府の政策上の位置づけ

プロジェクトは、森林局が発令した共有林令(1995)に基づいて実施されます。共有林令が目指す住民参加型の森林管理は、同国の森林政策において林政課題に対する重点戦略の一つであり、共有林の意義および設置の具体的手順を規定しています。また、森林マスタープラン(2001〜2031)は、共有林地を国全体で230万エーカー(約93万ヘクタール)まで拡大し、共有林での薪炭材需要の25%の生産を目標としています。一方、森林局の許可を要する共有林の伐採や販売は、試行段階であり実質的に始まっていません。共有林令に基づく活動は、生産・収入につながり始めて持続的に実施されるものです。そこで、早急な共有林活動からの本格的な生産・販売の開始が必要となっています。

4.我が国ODAの援助重点分野

日本の対ミャンマー経済協力の基本方針として、新規の経済協力案件については基本的に見合わせる措置が採られています。しかし、(イ)緊急性が高く、真に人道的な案件、(ロ)民主化・経済構造改革に資する人材育成のための案件、(ハ)CLMV諸国(カンボジア、ラオス、ミャンマーおよびベトナム)もしくは、アセアン全体を対象とした案件については、ミャンマーの政治情勢を注意深く見守りつつ、案件内容を吟味したうえで順次実施することとしています。この方針に基づき1)人道支援、2)少数民族・難民支援、3)麻薬対策、4)民主化支援、5)経済改革の5つの援助重点分野が定められています。

プロジェクトは、これまで国が管理していた森林を、地域住民が主体的に管理・利用し、生計向上につなげることを目指し、住民自ら考え、行動する能力の強化を図っています。この住民の能力強化は広い意味で、民主化を支えるための社会基盤を整えることにもつながり、我が国の援助重点分野である民主化支援に合致します。また、JICAの国別事業実施計画においても、本プロジェクトは、6つの協力プログラムの中の「行政への住民参加」に位置づけられます。

5.当該セクターにおけるJICAの経験

JICAは当該国において森林セクターへの協力を継続している数少ないドナーです。また2002年にUNDP/FAOの人間開発イニシアチブプロジェクトが終了してからは、同セクターにおける日本以外のODA支援は、マルチ・バイともほぼ無いに等しくなっています。このような状況の中でJICAは、1987年一般無償協力資金援助から始まり、技術協力プロジェクト、またそのアフターケアプロジェクトを通じて、中央林業開発訓練センター(CFDTC)の機能強化に貢献しました。また「乾燥地共有林研修・普及計画プロジェクト(COMFORT)」において、持続可能な森林管理と共有林活動の普及を目指した活動を森林局とともに推進しています。本プロジェクトの前身である「エーヤーワディ・デルタ住民参加型マングローブ総合管理計画調査(2002-2005)」を通じた同国におけるマングローブの知見も積み上げています。

プロジェクト対象地

エーヤーワディ・デルタ(エーヤーワディ管区ミャウミャ県ラプタ郡およびピャーポン県ボガレー郡およびピャーポン郡)

対象保全林区の面積
保全林区面積(ha)
ラプタ郡チャカクインパク28,485.5
ピニャラン41,880.5
ボガレーおよびピャーポン郡カドンカニ64,520.5
ピンダイエ78,367.5
合計 213,254.0

(2009,本プロジェクト衛星画像分析データ)

【画像】プロジェクト対象地域位置図
プロジェクト対象地域位置図

(1)裨益対象者および規模

ア 直接裨益者

  • エーヤーワディ・デルタ地域の4保全林区内で共有林活動を実施する地域住民 約1,000人(20のユーザーグループが結成されたと仮定し、過去の参加実績より算定)
  • 森林局マングローブ共有林タスクフォース(注1)のメンバー 約30名

(注1)マングローブ共有林タスクフォースは、森林局中央、ミャウミャ県森林局、ラプタ郡およびボガレー郡森林局が4つの保全林区において、住民の共有林活動を管理・支援するために設置した組織です。同組織は、中央から保全林区までの各レベルの森林局を縦断的に繋ぐ組織で、各保全林区に3〜5名の森林局職員を配置し総勢約30名の職員で構成されています。

イ 間接裨益者

  • 普及の対象となるプロジェクト対象地域(ラプタ、ボガレー、ピャーポン郡)の住民 約20万人(2002、JICA開発調査)
  • 関連する森林局職員 約15,000人