2009年11月30日
「ミャンマーでは暗記暗唱型の授業が児童の学習への興味・関心を阻害している」と言われています。暗記暗証型の授業と聞くと、皆さんはどのような印象を持たれるでしょうか。「掛け算の九九は暗記暗唱で覚えたし、漢字や英単語も暗記したよなあ。そんなに暗記って悪いの?」という疑問を持たれる方もおられるのではないでしょうか。今回、プロジェクトでは、事例として、CCA研修の前の授業と、研修後の授業を分析したビデオ教材を作成しました。そのビデオ教材の研修前の授業の様子を、ミャンマーの暗記暗唱型授業の例として少しご紹介したいと思います。
ご紹介する授業の内容は小学校2年生の理科(総合学習の一部)の「月の満ち欠け」についてです。授業開始の挨拶が済むと先生が、月の満ち欠けを描いた紙を黒板の前にかけます。生徒が持っている教科書の絵とまったく同じです。そして、おもむろに説明を始めます。「月が欠けていく日々は、月は日ごとにだんだん小さくなっていきます。満ちていく日々は、だんだん大きくなっていきます。一番大きな月の日を満月といいます。満月の後は、月がだんだん小さくなります。」。教科書に書いてある通りの説明です。
写真1
説明の途中で、先生が質問をしました。「月がぜんぜん見えなくなる日をなんといいますか?」生徒は全員で「新月です!」と大きな声で一斉に答えます。教科書に書いているから先生が説明しなくても答えられるのです。教科書に書いてあることは、これで終わりなので、さらに先生が質問します。「月が満ちていく日の3日目と5日目では、どちらが月は小さいですか?」ちょっとややこしい質問です。何人かの生徒が間違って答えます。「5日目です!」先生は間違った答えは無視します。そこで、一人の生徒が「3日目です!」と答えました。先生は、「正解!」と言って、次の質問に移ります。「月が最も大きい日を何と言いますか?」、「満月の後に月はどうなりますか?」、「月が全く見えない日は何と言いますか?」と先ほど説明した事を質問します。今度は教科書に書いてある通りなので、生徒全員で一斉にテンポよく答えます(写真1)。
写真2
授業もそろそろ佳境に入り、先生が次の指示をします。「では、教科書の42ページを先生の後に続けて読みましょう。」先生がまず読みます。「月の満ち欠けの学習」。生徒も全員で一斉に繰り返します。「月の満ち欠けの学習!」。「日によって」、同じく「日によって!」、「月の形は」、「月の形は!」、「変わります。」、「変わります!」同じように繰り返して、最後に「月が全く見えない日は」、「月が全く見えない日は!」、「新月です。」、「新月です!」で教科書を読み終わりました。と、思うと、今度は生徒だけで、繰り返して読みます。「月の満ち欠けの学習!」。「日によって!」以下前と同じ繰り返しです・・・・。しかし、まだ終わりません。グループ毎に生徒が座っていたのですが、今度はグループ毎にそれぞれ、繰り返して読みます。「月の満ち欠けの学習!」。「日によって!」以下前と同じです。5グループあったので、「月の満ち欠けの学習!」。「日によって!」以下同じ・・・、は更に5回繰り返されました(写真2)。
今度は先生が質問を繰り返します。「月が最も大きい日を何と言いますか?」、「満月の後に月はどうなりますか?」、「月が全く見えない日は何と言いますか?」前にしていた質問と同じです。生徒がまた全員で答えて、最後に先生が教科書に載っている問題を黒板に書いて言いました。「これは宿題です。」
これはミャンマーの典型的な暗記暗唱型授業の例です。むしろ、先生が月の絵の教材を描いたので、ちょっと頑張っている先生と言えるかもしれません。しかし、教科書に何が書いてあるのかを暗記する事に全力が注がれていて、生徒が考える事はもちろん、書いてあることの意味を生徒に理解させて、活用させるという視点もありません。皆さんは九九や漢字を、その意味を習った後、暗記して、その後も自分で考えて活用しているので、役に立っているのではないでしょうか。
次に冒頭に紹介したビデオ教材で、同じ先生の授業がCCA研修後にどのように変化したのかを簡単にご紹介したいと思います。
授業内容は小学校4年生の社会科の「制服」についてです。(年度が変わったので、先生の担当学年も変わりました。)授業はまず前の授業を復習する設問から入ります。「服の材料としては、どんな物があったかな?その材料の服は、どの季節に着るのかな?」といった、答えに幅のある質問になりました。制服についても、まず生徒に身近な学校の制服を事例にだして説明していきます。
写真3
写真4
次に生徒に知っている制服と職業をあげさせるグループワークをおこないます。生徒はワイワイと知っている制服をあげて、ワークシートに書き込んでいきます。先生はグループを見回って「他にどんな制服があったかな?警察官はどんな服を着ていた?」などと、生徒に声をかけています(写真3)。グループワークが終わると、グループ毎に生徒の発表です。発表中は先生が「良くできたね」、「本当にそれで良いのかな?」などとコメントします。次のグループワークでは、色んな制服を描いた絵を見せて、「この制服はどんな職業のためのもので、どういう意味があるでしょう?」とグループで考えさせて議論させます。教材が生徒の考えを深める活動に活かされています。ちょっと難しい質問だったので、生徒が先生に質問の意味を確認します。先生も無視せずに丁寧に説明します。生徒が質問しやすい雰囲気が形成できています。生徒の発表(写真4)の後、先生が「制服がそれぞれの職業で違うのは意味があります」ということを、例を交えて確認して授業は終了しました。
設問の仕方や、生徒の議論の促し方、生徒の学びの確認方法などに、至らない部分もありますが、以前の暗記暗唱型の授業よりは、ずいぶんと改善が見られました。この調子で、CCA研修を受けた先生たちが、今後も良い授業を目指して頑張ってくれることを期待して、プロジェクトでも引き続きサポートをしていきたいと思います。
文責:山岡智亙(CCA研修/モニタリング)