ネパール2018年経済センサスの確報結果(第三報)が公表されました

2020年1月2日

ネパールでは史上初めてとなる、すべての事業所(注1)を調査対象(注2)とする2018年経済センサス(事業所の国勢調査)が、2018年4月14日を調査期日として実施されました。その後、14か月に及ぶ集計期間等を経て、2019年7月1日、確報結果の第一報が公表されました。続いて、同年9月1日、第二報が公表され、このたび、第三報が公表されました。その概要は、以下のとおりです。

(注1)ここでいう事業所とは、固定の場所で経済活動を営み、固定的な設備を所有しているところであり、国際標準産業分類第4版(ISIC)におけるEstablishmentの定義に準じている。ネパールでは、このISICに基づいたネパール標準産業分類(NSIC)が使用されている。
一方、広義の事業所には、Fixed(固定の事業所)及びMovable(移動可能であるが、固定の場所で営業している事業所)のほか、Mobile(移動しながら営業している事業所)も含めて3種類とする場合があるが、この結果には、Fixed及びMovableのみが含まれており、固定的でないMobileは含まれていない。

(注2)ネパール2018年経済センサスでは、次の産業に属する事業所は、国際的な実例に基づき調査対象としていないため、結果には含まれていない。農林漁業(NSIC Section A)に属する事業所のうち公的な機関に登録されていない事業所、官公庁等(NSIC Section O)、個人のホームヘルパーなどの世帯活動(NSIC Section T)及び大使館や国際機関等の外国公務の施設(NSIC Section U)。

1.ネパールの事業所の分布は、中央と地方の格差が大きい。

2018年4月14日現在におけるネパール全国の事業所数は92万3千事業所となっています。これを県(District)別にみると、カトマンズが12万5千事業所で、全体の13.5%と最も多くなっています。次いで、ジャパが3万9千事業所(同4.2%)となっており、ジャパは、カトマンズの31.0%と3分の1にも満たないことがわかります。すなわち、第一位のカトマンズと第二位のジャパの差が大きいことがわかります。続いて、ルパンデヒが3万8千事業所(同4.2%)、モランが3万5千事業所(同3.8%)、スンサリが3万2千事業所(同3.4%)及びカスキが3万1千事業所(同3.3%)と、以上6県が3万事業所を上回っています。また、カトマンズ盆地内の3県、すなわち、カトマンズ、バクタプール及びラリトプールの3県の合計をみると、17万2千事業所で、全体の18.6%と、2割り近くを占めるに至っています。さらに、ジャパ、モラン及びスンサリの南東部3県の合計をみると、10万6千事業所で、全体の11.4%と、カトマンズに迫る数字となっており、これら南東部3県の一帯が、一大経済圏であることがわかります。

これを日本と比較すると、日本の事業所数は557万9千事業所(注3)で、このうち、最も多い東京都は、68万6千事業所と、全体の12.3%となっています。このことから、事業所の首都への集中度は、ネパールの方が高いことがわかります。また、第二位の大阪府は、42万3千事業所(同7.6%)と、東京都の61.6%と6割を超えており、ネパールほどは、第一位と第二位の差が大きくはない状況です。このことからも、ネパールにおいては、事業所が、いかに首都カトマンズに集中しているかが窺えます。逆に言えば、地方における事業所の設立、すなわち、起業が比較的少ないと言えます。

一方、事業所が少ない県をみると、マナンが487事業所で、全体の0.05%と最も少なくなっており、また、カトマンズと比較しても、僅か0.39%のみとなっています。次いで、ムスタンが775事業所(同0.09%)、ドルパが860事業所(同0.08%)と、以上3県が1千事業所を下回っています。

これを日本と比較すると、鳥取県が26,446事業所で、全体の0.47%と最も少なくなっているものの、東京と比較すると、3.9%となっている。このことから、ネパールでは、事業所数が首位のDistrictと最下位の差が、日本の約10倍もあり、格差が大きいことがわかります。

事業所の格差は、経済格差に直結する問題であるので、自然や環境を守りながら、適度に地方における産業開発を推進すること、すなわち、事業所の新設を促進することが現在のネパールでは必要であると考えられます。

(注3)本稿に掲載されている日本の数字は、すべて2016年経済センサス活動調査の全国結果による。

2.ジャパ、モラン及びスンサリの南東部一帯における製造業の事業所数は、カトマンズよりも多い。

基幹産業である製造業の事業所数は、ネパール全国では104,058事業所で、その分布を県別にみると、カトマンズが11,691事業所で、全体の11.2%と最も多くなっています。次いで、ジャパが製茶業や合板製造業を始めとして4,318事業所(同4.1%)、モランがレンガ製造業や精殻・製粉業など4,081事業所(同3.9%)、ルパンデヒが化学繊維製造業や精殻・製粉業など4,022事業所(同3.9%)、スンサリが繊維業や製糖業など3,836事業所(同3.7%)、ラリトプールが織物業や鉄鋼業など3,733事業所(同3.6%)、チトワンがレンガ製造業や清涼飲料製造業など3,462事業所(同3.3%)及びバクタプールがレンガ製造業など3,367事業所(同3.2%)と、以上8県が3千事業所を上回っています。また、カトマンズ盆地内の3県、すなわち、カトマンズ、バクタプール及びラリトプールの3県の合計をみると、18,791事業所で、全体の18.1%と、2割り近くを占めるに至っています。さらに、ジャパ、モラン及びスンサリの南東部3県の合計をみると、12,235事業所で、全体の11.8%と、カトマンズよりも多くなっており、これら南東部3県の一帯が、一大工業地帯でもあることがわかります。

3.大中規模事業所は、3分の1以上がカトマンズ盆地に集中

ネパールの大中規模事業所(従業者数が50人以上)数は4,045事業所で、その分布を県別にみると、カトマンズが1,031事業所で最も多く、また、全体の25.5%と4分の1を超えており、大中規模事業所の首都への集中度の高さがわかる。次いで、ラリトプールが262事業所(同6.5%)で、カトマンズの25.4%と4分の1程度となっていることから、ここでも第一位と第二位の差が大きくなっていることがわかります。続いて、ルパンデヒが231事業所(同5.7%)、モランが202事業所(同5.0%)、バクタプール及びカスキが168事業所(同4.2%)、チトワンが139事業所(同3.4%)、ジャパが127事業所(同3.1%)、スンサリが108事業所(同2.7%)、バンケが107事業所(同2.6%)及びダディンが103事業所(同2.5%)と、以上11県が100事業所を上回っています。また、カトマンズ盆地内の3県、すなわち、カトマンズ、バクタプール及びラリトプールの3県の合計をみると、1,461事業所で、全体の36.1%と、3分の1以上を占めるに至っており、カトマンズ盆地への集中度の高さがわかります。さらに、ジャパ、モラン及びスンサリの南東部3県の合計をみると、437事業所で、全体の10.8%を占めており、これら南東部3県の一帯が、大中規模事業所の多い地帯でもあることがわかります。

これを日本と比較すると、日本の大中規模事業所数は162,107事業所で、このうち、最も多い東京都は、25,813事業所と、全体の15.9%となっています。このことから、大中規模事業所の首都への集中度は、ネパールの方が、かなり高いことがわかります。また、第二位の大阪府は、12,947事業所(同8.0%)で、東京都の50.2%と5割を超えており、ネパールほどは、第一位と第二位の差が大きくはない状況です。このことからも、ネパールにおいては、大中規模事業所が、いかに首都カトマンズに集中しているかが窺えます。

歴史的にみると、カトマンズ周辺では、大地震がたびたび発生しているので、首都への過度な経済活動の集中は、災害発生時の経済損失を大きくする可能性があります。集中していればいるほど、災害発生時に受ける損失が大きくなる可能性があるため、大規模な経済停滞を未然に防止する意味でも、自然や環境を守りながらの、経済活動の地方への適度な分散が必要です。

2018年経済センサスの結果は、中央や地方政府における各種政策や計画の立案に利用されるほか、大学や研究所における学術研究、民間部門における経営戦略や市場調査等に利用されています。この結果の英語版は、次のネパール中央統計局(CBS)等のページから参照可能です。