2019年10月15日
今回のプロジェクトレポートでは、JICAの無償資金協力事業で整備された航空安全機材、特に航空灯火及びソーラ発電システムの整備について、ネパール山岳空港での調査及び山岳空港周辺事情について報告します。
ジョムソン空港は、観光地で名高いポカラから陸路で約5時間、空路で約20分の距離にあります。航空機は、ツインオッターDHC-6(16名搭乗)が主で、風が穏やかな早朝の時間帯を除けば、運航にとりわけ気を遣う空港です。(写真1)
ジョムソン空港は、カリ・ガンダキ川の川岸に沿って作られた空港で、滑走路端を示す航空灯火が安全運航確保のためには必要不可欠でした。この状況を改善すべく、JICAは、無償資金協力事業で航空灯火施設と、停電が日常的に多発する空港の運営を確保すべく、ソーラ発電システムの整備支援を行いました。(写真2,3,4)
プロジェクトの最終年となる本年は、7空港・施設(訓練校を含む。)の調査を計画しており、ルクラ空港、ララ空港、ジュムラ空港、民間航空訓練所及び機材倉庫での現地調査が終了しています。
今回は、整備された航空灯火施設及びソーラ発電システムの設置情況を調べ、補給管理システム(SMMS)に登録するためのデータ調査を行いました。作業の事前準備、調査実施、そして登録作業の一連の作業手順の一環の調査です。
併せ、今回は、JICAに要望が寄せられている、山岳空港の安全運航を支援するための手法についての聞き取り調査を行いました。
年当初での計画では、雨季の前、7月前半には終了する予定を組んでいましたが、気象の情況が例年になく悪く、大幅に予定変更を余儀なくされました。
専門家としては、天候が多少悪く、尚且つ小型機が運航出来る最低気象条件での調査が最も理想としていましたが、欠航が多く、なかなか思う様には飛んでくれませんでした。結局、実施が9月下旬となってしまいました。
本調査は、事前に納品された製品及びそれに添付されたラベル(部品個別に割り当てたユニーク番号)を確認し、個々のユニット等を写真に記録する手法を取っています。
カトマンズに戻り、補給管理システム(SMMS)への登録作業とデータベース化(施設原簿の作成。)を行います。
この一連の作業を、担当課の職員と協働し実施します。
これは、修理品等の管理及び障害状況の把握を容易にする本プロジェクトの目的を理解して貰うこと、作業の内容に慣熟して貰うこと、そして、その後の日々のメンテナンス業務に活用するためです。
本プロジェクトの終盤を迎え、現在約1,488点の部品・装置の登録が済んでいます。我が国が設置した装置に関しては、多くを調査し、登録作業を完了する事となります。
ネパールの山岳空港では、毎年2件の航空事故が発生しています。ヒマラヤの山岳での運航は、非常に難しい判断が求められます。今回の調査から、航空機の運航の支援に係る問題と、その改善点は、次のようなものです。
ジョムソン空港への飛行は、観光の拠点となるポカラからアンナプルナ山とダウダギリ山を迂回した、有視界飛行(VFR)での飛行ルートです。(写真5)
航空機との通信が途絶する不感地帯(Plato~Ghorepani)があり、咄嗟の判断に苦慮する事がある。また、最新の小型機を就航させているが、地上での支援がない等の要望がありました。
飛行ルートでの気象情報の把握は、ポカラの基地局及びジョムソン空港で把握できるようにモニター(Ghorepani)監視が行われています。しかし施設維持が出来ていないため、的確な情報の入手が困難な状況にありました。
通信の不感エリアの解消及び気象情報の的確な把握を提案すべく、対応を検討するための調査では、空港近傍の山を踏査し、付近での通信会社設置アンテナの存在確認を行いました。
この結果、両者を改善するため「気象カメラ」「VHF送信装置」「ADS受信機」の設置が極めて効果的である事、また装置の設置には既存の民間通信会社等のアンテナの活用も有効な手段と成り得ることが分かりました。
ネパールへの旅行客は、昨年430万人を越えました。2020年は“ビジットネパール”年です。多くの方々が世界遺産を訪れ、エベレスト、アンナプルナ、ダウダギリ、そしてマナスルをトレッキングして帰ります。ジョムソン空港近傍には、世界で最も高地(約3,780メートル)にある仏教・ヒンズー教寺院であるムクティナート寺院があります。春と秋の観光シーズンには、多くの観光客が訪れます。(写真6)
特筆すべきは、ジョムソンのリンゴです。(写真7)
日本の農業での技術協力と、品種「ふじ」が醸し出したリンゴの特産品です。
JICAのきめ細かな支援が、ネパールを訪れる多くの旅行者の安全運航に寄与していることに、専門家として誇りを感じています。