プロジェクト活動

1.事業概要

(1)事業目的(協力プログラムにおける位置づけを含む)

本事業は、ネパール全国において、算数の教科構造や内容に関する教員及び児童の着実な理解を促す児童用算数教材及び教師用ハンドブックを開発し、教員研修を行うことにより、小学校低学年(G1-3)の算数の授業の質の向上を図り、もって小学校低学年児童の算数の基礎学力の向上を目指すものである。

(2)プロジェクトサイト/対象地域名

ネパール全土

(3)本事業の受益者

1)直接受益者(ターゲットグループ)

  • MOEST
  • 教育人材開発センター(Center for Education and Human Resource Development。以下、「CEHRD」という)
  • カリキュラム開発局(Curriculum Development Center。以下、「CDC」という)
  • 州政府及び地方政府担当部局および担当官

2)最終受益者

初等教育課程G1-3の児童および教員(G1-3児童約252万人および教員約10万人)

(4)事業スケジュール(協力期間)

2019年1月~2024年1月(5年間)を予定

(5)総事業費(日本側)

約4.6億円

(6)相手国側実施機関

教育科学技術省(Ministry of Education, Science and Technology)

(7)投入(インプット)

1)日本側

  • 専門家:総括、算数教材開発、現職教員研修、校内研修強化、算数啓発活動、地方教育行政等(総計約170MM)
  • 機材供与
  • 本邦研修及び第三国研修(必要に応じ)
  • ローカルコスト(プロジェクトスタッフの雇用など)

2)ネパール国側

  • カウンターパートの配置
  • CEHRDにおけるプロジェクトオフィス
  • プロジェクト運営に係るローカルコスト(プロジェクトオフィス運営・維持管理費、ネパール側職員に対する諸手当・旅費を含む)
  • プロジェクト関連活動の実施に係る経費(教材印刷配布や現職教員研修等の実施にかかる経費など)

(8)環境社会配慮・貧困削減・社会開発

1)環境に対する影響/用地取得・住民移転

  • 1)カテゴリ分類(A,B,Cを記載):C
  • 2)カテゴリ分類の根拠:本事業は、「国際協力機構環境社会配慮ガイドライン」(2010年公布)に掲げる影響を及ぼしやすいセクター・特性及び影響を受けやすい地域に該当せず、環境への望ましくない影響は最小限と判断されるため。

2)ジェンダー平等推進・平和構築・貧困削減

  • ジェンダー分類:GI(S)ジェンダー活動統合案件
  • 〈活動内容/分類理由〉ジェンダーの視点に留意した教材の開発や教員研修の実施を計画しているため。
  • 貧困分類:特になし

(9)関連する援助活動

1)我が国の援助活動

  • 技術協力プロジェクト「小学校運営改善支援プロジェクトフェーズ2」(2013年6月~2018年6月)
  • 個別専門家「教育アドバイザー」(2018年11月~2020年11月)
  • 財政支援方式無償資金協力(2014年度‐2019年度)
  • 新留学生プログラム(2018年10月~2020年9月)

本事業は、SSDPの枠組みにおいて、その目標達成に寄与するプロジェクトとして実施していく。また、ネパール政府との調整を密に行い、SSDPに沿ったドナー協調や政府の政策決定に関わることで、本事業が円滑に進むと考えられるため、SSDPとの調整業務を担う長期専門家(教育アドバイザー)をMOESTに派遣している。また、財政支援方式無償資金協力を継続的に実施することにより、本事業との相乗効果も見込まれる。

2)他ドナー等の援助活動

SSDPには、世界銀行、アジア開発銀行、UNICEF等を含むドナーが参加している。本プロジェクトとの関連では、フィンランドが低学年(G1-3)の統合カリキュラムにソフトスキル(パーソナルスキルや思考力等)を導入するための技術的支援をしている。

2.協力の枠組み

(1)協力概要

1)上位目標

小学校児童(G1-5)の算数の基礎学力が向上する。

[指標]:
NASAの算数テスト結果がベースライン(2017年)より5%上回る。

2)プロジェクト目標

小学校低学年児童(G1-3)の算数の基礎学力が向上する。

[指標]:
妥当性確認(注1)及び観察地域での小学校低学年児童の算数テスト(注2)の結果が向上する。
※数値は、2020年に実施予定のベースライン調査の結果を踏まえて設定する。

(注1)本プロジェクトで開発支援する学年別の児童用算数教材及び教師用ハンドブックの妥当性を確認するための試行及び調査。
(注2)G1-3の算数カリキュラムに準拠したテストとし、NASAの算数テストも参照の上、プロジェクトで作成する。

3)成果

成果1:G1-3の児童用算数教材及び教師用ハンドブックが開発され、改訂される。

[指標]:
1. 児童用算数教材および教師用ハンドブックが承認される。
2. 小学校低学年の算数テストが承認され、実施される。

[活動]:
1-1 算数のカリキュラム(統合カリキュラムおよび算数カリキュラム)の内容を分析する。
1-2 小学校の算数の授業を分析し、継続的学習アセスメントシステム(Continuous Assessment System:CAS)と低学年算数アセスメント(Early Grade MathAssessment:EGMA)の実施を含む学習課題を抽出する。
1-3 妥当性確認・観察地域(パイロット地域と学校)を決定する。
1-4 G1-3の算数アセスメントを開発し、妥当性確認・観察地域で実施する。
1-5 1-1および1-2の結果に基づき、統合カリキュラムの算数部分について改訂する。
1-6 1-1、1-2、1-4、1-5の結果に基づき、学年別の児童用算数教材を開発し、妥当性を確認する。
1-7 1-1、1-2、1-4、1-5の結果に基づき、学年別の教師用ハンドブックを作成し、妥当性を確認する。
1-8 児童用算数教材及び教師用ハンドブックを印刷し配布する(CDCの計画および予算)。

成果2:現職教員研修を通じて、小学校教員の算数指導力が向上する。

[指標]:
2-1 教員の算数の事前・事後テストの結果が向上する。
2-2 教員用ハンドブックを用いた現職教員研修に参加した教員の数が増加する。

[活動]:
2-1 教員の職能開発研修(Teacher Professional Development:TPD)モジュールの算数の部分に組み込むため、校内研修ハンドブックを含んだG1-3算数モジュールを開発する。
2-2 研修参加者の教科知識及び指導法の知識を確認する事前・事後テストを開発し、実施する。
2-3 州トレーナーへのトレーナー研修(TOT)を行う(CEHRD研修課によるTOT実施を算数部分について技術的に支援する)。
2-4 小学校教員への研修を行う(算数の部分に関し、パイロット4州の教育研修センター(Education Training Center:ETC)を技術的に支援する)。
2-5 プロジェクトのパイロット地域・学校にて、TPD及び校内研修を含む学校レベルでの実践をモニタリングする。
2-6 2-5のモニタリング結果に基づき、パイロット4州のトレーナーに対し、追加のトレーナー研修(ToT)を行う。
2-7 校内研修ハンドブックを含んだG1-3算数モジュールをモニタリング結果に基づいて改訂する。

成果3:学校での教育の質向上の活動が地方自治体(Local Government:LG)、地域、学校運営委員会により支援される。

[指標]:
3-1 研修に参加した校長の人数が増加する。
3-2 小学校での算数教育を振興するための活動・イベントの数が増加する。
3-3 地方自治体教育計画(Municipality Education Plan:MEP)の研修に参加したLGの教育行政官の数が増加する。

[活動]:
LGが良質なMEPを作成するための活動
3-1 学校と教師を支援するための教育計画の策定に係るLGのニーズを分析する。
3-2 LGの能力開発を支援する開発パートナーとも協調しながら、3-1の結果に基づき、MEPガイドラインを開発する
3-3 パイロット4州のETCで、MEPガイドラインに係るTOTを行う。
3-4 パイロット4州の教育行政官に対し、MEP研修を行う。
3-5 パイロット研修をモニタリングし、そのインパクトを分析し、次期SSDPに活かすため結果を取り纏める。
3-6 3-5の結果に基づき、MEPガイドラインを改訂する。
3-7 改訂後のMEPガイドラインの全国普及のためTOTを実施する(次期SSDPの枠組)。
3-8 全国7州のETCにてLGの教育行政官に対するMEP研修を実施する(次期SSDPの枠組)。
3-9 定期的にモニタリングとメンタリングを行う(次期SSDPの枠組及びプロジェクト)

校長が教育的支援を行う環境を整備するための活動
3-10 研修内容を校長向け能力強化研修および既存のメカニズムに組み込む方法を検討する。
3-11 算数の学力向上を達成できるよう、SIP教材を改訂する。
3-12 教育の質改善とコミュニティによる支援を目指したSIPを活用した効果的な学校改善計画およびマネジメントのため、開発した研修内容を校長向け能力強化研修に組み込む。
3-13 研修モジュールのバリデーションのため、ETCにてパイロットで校長研修を行う。
3-14 州トレーナーへのTOTを行う(CEHRD研修課によるTOT実施を技術的に支援する)。
3-15 校長への研修を行う(CEHRD研修課によるTOT実施を技術的に支援する)。
3-16 パイロット地域で校長研修をモニタリングする。
3-17 モニタリング結果に基づいて、校長研修モジュールを改訂する。
3-18 初等算数教育の重要性を広めるため、広報ツール(Youtube、ラジオ、ビデオ、歌、ドラマ、アニメ)を開発する。
3-19 SIPおよびMEPを通じて、小学校での算数教育の重要性に関する意識を高めるための、小学校での算数振興活動を実施する。

3.前提条件・外部条件

(1)前提条件

  • 改訂後の国家カリキュラムフレームワークで算数の授業時間が配分される。
  • 全国に適用される学年別の学習達成目標が規定される。
  • 算数のカリキュラムと標準研修モジュールの開発が引き続き中央政府の管轄とされる。

(2)外部条件

プロジェクト目標達成のため

  • 研修を受けた人材が職務を継続する。

4.評価結果

本事業は、ネパール国の開発政策、開発ニーズ、日本の援助政策と十分に合致しており、また計画の適切性が認められることから、実施の意義は高い。

5.過去の類似案件の教訓と本事業への活用

(1)類似案件の評価結果

ホンジュラス算数指導力向上プロジェクト フェーズ1(2003年~2006年)では、開発した教科書・教員用指導書が援助協調(他ドナー資金の活用)により全国に印刷・配布され、事業のインパクトが高まった。一方、フェーズ2(2006年~2011年)では、治安情勢等の影響を受け、他ドナーの資金が凍結したため、印刷・配布が遅延する事態が生じた。教材は児童や教員が使用して初めて成果が出ることから、先方政府や関連ドナー間で教材の印刷・配布の予算分担や配布・モニタリング方法等について協議・合意することが重要との教訓が事後評価で得られた。

(2)本事業への教訓

上記教訓を念頭に、本事業で支援する教材(児童用算数教材、教師用ハンドブック等)の全国配布に必要となる予算負担や印刷・配布、モニタリング方法については、既存のメカニズムに沿って行うことを計画段階より合意し、実施段階においてMOESTや関連ドナーと協議・合意して協力効果の最大化を図る。

6.今後の評価計画

(1)今後の評価に用いる主な指標

2.(1)のとおり。

(2)今後の評価計画

事業開始16か月後、28か月後、40か月後、52か月後 インパクト調査
事業終了3年後 事後評価

(3)実施中モニタリング計画

長期専門家派遣後 年2回(3月と9月を予定)
JCCにおける相手国実施機関との合同レビュー(モニタリングシートの提出)
事業終了1か月前(2023年12月)
終了前JCCでの相手国実施機関との合同レビュー(Project Completion Reportの提出)

7.広報計画

(1)当該案件の広報上の特徴(アピールポイント)

1)相手国にとっての特徴

ネパールの教育開発プログラムであるSSDPのもと、他の開発パートナーと連携して行われるプロジェクトである。

2)日本にとっての特徴

日本に比較優位のある初等算数での支援を行う。さらに、児童用算数教材・教師用ハンドブックの開発、現職教員研修、校内の教育的支援体制の強化を一体的に行うことで、小学校低学年児童の算数の基礎学力の向上を図る。また、教育アドバイザー、財政支援方式無償資金協力、新留学生プログラムとも連携しながら包括的な支援を行うことにより、より高い効果の発現が見込まれる。

(2)広報計画

プロジェクトのウェブサイトを作成し、広報を行う。