(和)教育の質の向上支援プロジェクト
(英)Project for Improving the Quality of School Education in Nepal
ネパール
2018年11月15日
ネパール全国
2019年1月21日から2024年1月20日
(和)教育科学技術省
(英)Ministry of Edudation, Science and Technology
ネパール政府は「万人のための教育(Education for All:EFA)」及び「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals:MDGs)の達成を念頭に、2009年から7年間、「学校セクター改革プラン(School Sector Reform Plan:SSRP)」(2009年‐2015年)を実施してきた。その結果、初等教育(G1-5)の純就学率は93.7%から96.6%に大幅に改善され(教育科学技術省、2017)、一定の成果があったと考えられている。一方で、地域・民族間における教育へのアクセスの格差や、それに伴う児童の学力格差については引き続き課題となっているほか、公立校と私立校の学力格差の拡大が指摘されている。
また、教育科学技術省(Ministry of Education, Science and Technology。以下、「MOEST」という)は、児童生徒の学力の把握のために定期的に全国学力調査(National Assessment of Student Achievement:NASA)を実施しており、2012年および2015年には小学3年生および5年生を対象として調査が実施された。それらの結果を比較すると、算数、ネパール語、英語ともに、いずれの学年においても顕著な学力低下が示されており、平均点の低下幅については、小学3年生の算数が60点から44.6点と最も大きい。
ネパール政府はSSRPの後継として、現在「学校セクター開発計画(School Sector Development Plan:SSDP)」(2016年-2023年)を実施している。SSDPでは、これまで以上に教育の質向上に重点を置き、算数、理科、英語といった科目に関する学力向上を目指しており、本事業はそれらネパール政府の取り組みを支援するものである。特に、基礎的な算数能力の向上は喫緊に取り組むべき課題として位置づけられ、成果フレームワークにおいても、算数を含む学力テストのスコアが基礎教育の質に関する成果指標に含まれている。
日本国政府は、2016年9月に策定された外務省国別開発協力方針にて、重点分野(中目標)として「貧困削減及び生活の質の向上」を掲げ、教育の質の向上に取り組むとしている。JICA国別分析ペーパー(2014年11月)では、初等教育の改善を支援することがJICAの協力方針の一つとして掲げられている。JICA教育協力ポジションペーパー(2015年10月)では、「学びの質」の改善を最重要課題とし、総合的なアプローチとして、1)カリキュラム、2)教科書・学習教材、3)授業、4)学力評価(アセスメント)の一貫性を持たせ、「学びのサイクル」を強化していく方針及び理数科教育の重視が示されており、本事業の活動と整合している。
また、JICAは「小学校運営改善支援プロジェクトフェーズ1(SISM1)」(2008年~2011年)にて対象2郡での住民参加による学校運営委員会(SMC)の運営能力の向上及び地方教育行政官による学校支援強化を支援し、「SISMモデル」が開発された。また、フォローアップ協力期間(2011年~2012年)には、MOESTがSISM1の経験を踏まえて学校改善計画(SIP)作成ガイドブックを策定した。
2012年からはMOEST教育局に教育アドバイザーを派遣し、SSDPの策定・モニタリングプロセスに積極的に関与し、MOESTに対して政策提言を行っている。また、全国的にみて形骸化していたSIPの作成と実践を活性化することを目的とし、SMCや地方教育行政官に対する研修やモニタリング、フォローアップを含めた包括的な制度強化を目指した「小学校運営改善支援プロジェクトフェーズ2(SISM2)」(2013年6月~2018年6月)を実施した。加えて、2014年度からは財政支援方式無償資金協力により、学校運営能力強化研修や学校改善計画を実施するための学校補助金の予算を確保し、SISM2の成果拡大を図っている。
ネパールでは、基礎教育サブセクターにおいてセクターワイドアプローチが2009年より行われている。プールファンド支援ドナーは世界銀行(WB)、アジア開発銀行(ADB)、EU、ノルウェー、教育のためのグローバルパートナーシップ(GPE)、フィンランド、オーストラリア外務通商省(DFAT)、UNICEFであり、アメリカ国際開発庁(USAID)も支援を検討中である。特にWBとADBについては財政支援が中心であり、財政支援ドナー拠出額のうち約65%を占め、SSDPの拠出執行インディケーター(Disbursement linked indicators:DLI)の達成を確認した後、送金する仕組みを取っている。WBはG6以上の中等教育の、特に数学、理科、英語のカリキュラム支援及びNASAの分析能力向上、試験制度改革の支援を行っている。ADBは中等教育にフォーカスした理数科教育、ICT支援を行っている。UNICEFは幼児教育/就学前教育、教育の質の向上、若者の識字とライフスキル教育、災害リスク軽減と安全な学校を含む能力強化に焦点を当てた支援を実施している。フィンランドは9年生から10年生における必修科目において、児童・生徒にソフトスキルを習得させるための教員研修モジュールの開発及び、統合カリキュラムの導入に向けてソフトスキルの観点から技術支援を行っている。USAIDは、RTI International(注)に委託して低学年読書プログラム(Early Grade Reading Program:EGRP)の協力を2014年より実施している。World Education はUNICEF等の支援を受け、カトマンズ大学教育学部と共同で、カリキュラム開発センター(Curriculum Development Centre:CDC)と教育レビュー事務所(Education Review Office:ERO)の参加を得て、低学年算数能力アセスメント(Early Grade Math Assessment:EGMA)を2016年より行っている。
(注)アメリカに本部を置く非営利組織。