マタニティホーム訪問

2016年3月3日

マタニティホームは、病院や正常分娩に対応している保健センターの近くに設置された、出産前後の女性が利用できる宿泊施設です。出産が近づいた妊婦はここで待機し、分娩の進行に合わせて適切な時期に医療施設に移動します。
国連機関では、20年ほど前から妊産婦死亡の要因として「3つの遅れ」を挙げています。1)病院や診療所で診てもらおうとする決断の遅れ2)決断してから医療施設にたどり着くまでの遅れ、そして、3)たどり着いた病院や診療所で、適切な治療を受けるまでの遅れです。このうち2)の遅れの原因である、病院・診療所から遠い、交通手段がない、道路の状態が悪いなど、医療施設への物理的なアクセスが悪い地域に住む妊産婦のために、ニカラグアのマタニティホームは、1987年ヌエバ・セゴビア県オコタル市にNGO・ルイサ・アマンダ・エスピノーサニカラグア婦人会(AMNLAE)により初めて設置されました。一般的に緊急時の産科処置ができるか否かが妊産婦や新生児の生死を左右することから、ニカラグア保健省は医療従事者が立ち会う施設分娩を推奨しています。医療施設で分娩をすれば、重篤な問題が起きた場合にも迅速な処置をすることができます。マタニティホームの設置によって施設分娩率が徐々に上がり、妊産婦の死亡率の減少が確認できたことから、2005年よりニカラグア保健省は積極的に全国に設置しています。
SAMANIプロジェクトの対象地域であるチョンタレス保健管区には7か所、セラヤ・セントラル保健管区には6か所のマタニティホームがあります。プロジェクトでは、その運営状況を把握するため、3月上旬に計9か所のマタニティホームを訪問し、管理責任者および利用している妊婦にインタビュー調査を行いました。
保健省は、遠隔地に住む妊婦には、出産予定日前3週間、出産後1週間のマタニティホーム滞在を勧めています。マタニティホームでは宿泊、食事などの費用は一切かかりません。ベッドやシャワーが完備され、テレビの視聴もできます。管理責任者は、施設の運営と妊産婦の世話を任されています。
マタニティホームの運営母体は保健省,市役所、NGOなど様々です。運営母体にかかわらず、保健省は医師や看護師を毎日派遣し、妊婦健診や指導、出産後のケアなどを実施しています。プロジェクトの協力対象地域のマタニティホームには、隣接する南大西洋自治区から保健管区を超えてやって来る利用者も多くいます。妊婦は居住地に直近のマタニティホームでなくとも自由に施設を選択できるので、良いサービスをしているところに、利用者は多く集まります。
保健センターの妊婦健診では、出産年齢、分娩回数、血圧の異常等、少しでも妊娠継続と出産のリスク要因がある場合、直ちに病院に送ります。マタニティホーム利用者の中には、何らかのリスクがあって、それに対応できる病院での出産が必要な女性が多く、正常分娩のみに対応する保健センターでの出産は、マタニティホーム利用者の5分の1程度でした。

今回の訪問で、多くのマタニティホームで伝統的分娩介助者(いわゆる伝統的産婆)と出会いました。ヌエバ・ギネア市役所が運営しているマタニティホームは、伝統的分娩介助者を雇い、妊婦の世話を任せています。また、他のマタニティホームでは妊婦が住むコミュニティの伝統的分娩介助者が彼女に付き添い、一緒に滞在しているケースもありました。施設分娩が増え、伝統的分娩介助者による出産は減少してきている中で、彼女たちの経験や能力が活用されているひとつの形を見ることができました。

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ヌエバ・ギネア市NGOが運営するマタニティホーム

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利用者が共同で食事の準備をするマタニティホームもあります。

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ムエジェ・デ・ロス・ブエジェス市のマタニティホーム責任者は元保健ボランティア