プロジェクト概要

プロジェクト名

(和)シンド州におけるインフォーマルセクターの女性家内労働者の生計向上および生活改善支援プロジェクト
(英)Project for Improvement of Livelihood and Well-being of Female Home Based Workers in the Informal Economic Sector in Sindh Province

対象国名

パキスタン・イスラム共和国(パキスタン)

署名日(実施合意)

2016年11月22日

プロジェクトサイト

シンド州カラチ市、サッカル県(及びその周辺県)

協力期間

2017年3月10日から2022年10月20日

相手国機関名

(和)シンド州女性開発局
(英)Women Development Department, Government of Sindh

背景

(1)当該国におけるインフォーマルセクター(特に家内労働者)の開発の現状・課題及び本事業の位置付け

現状・課題

パキスタンを含む南アジアではインフォーマル経済が大きな役割を担っている。国際労働機関機関(International Labor Organization、以下「ILO」という)によると(注1)、パキスタンの農業外労働人口の約8割がインフォーマルセクターで働いており、この数は1999-2000年の122万人から2008-2009年の162万人へと増加傾向にある。こうした人々のうち、7割を女性が占めており、うち8割は家内労働者(Home Based Workers、 以下「HBWs」という)と言われている。HBWsの地域分布は、パンジャブ州及びシンド州で全体の8割~9割を占めているとされるが、これらのデータは国際機関間でも大きく異なっている(注2)。
上述のデータ未整備の背景には、HBWsは他者からの請負作業に従事しているにも関わらず、明確な労使関係にないため雇用統計に表れにくく、また、個々人が家内で個別の生産活動に従事しているため、その労働実態の把握が困難なことが挙げられる。そのため、家内労働者は「見えざる労働者」(Invisible Workers)と呼ばれている。また、明確な労使関係にないため労働者として認識されておらず、労働者の基本的権利を擁護する労動基準法の対象となっていない。こうした事情より、HBWsの多くは1)不安定で不当な報酬(多くの場合出来高制)、2)劣悪な労働環境での作業、3)低い生産性、4)未組織化による弱い交渉力、5)必要とされる金融サービスや職業訓練などへの限られたアクセス、6)事故や病気対応のための保険や基礎社会サービスへのアクセスの欠如、といった問題に直面している。
本案件は、シンド州において、同州女性開発局(Women Development Department、以下「WDD」という。)及びFBWsへの支援やサービス提供に取り組むパートナー機関(NGO、民間企業、政府機関等)への能力強化を通じ、パキスタン経済に大きな役割を担っているインフォーマル経済のうち、特に、低所得層と女性が多いHBWsの生活向上を支援することを目的に実施される。なお、初等教育を修了し、外部へのアクセスを有する若年層や次世代は、家内労働に従事し続けるのではなく安定した正規雇用機会を得ることが重要であるため、その推進にも取り組んでいく。
また、SDGsでは国内の不平等是正に向け所得階層の所得成長率を上昇させることや税制、賃金、社会保障等による平等の拡大の漸進(目標10)、貧困撲滅に向け、貧困層・脆弱層を始めすべての男女が基礎的なサービスへのアクセスや権利を確保すること(目標1及び5)などが掲げられており、本案件はこうした目標達成に貢献するものである。

(注1)ILO, 2011, ‘Searching for the Invisible Workers A Statistical Study of Home Based Workers in Pakistan'.
(注2)同上ILO(2011)では8割程度がパンジャブ州、1割程度がシンド州となっているが、UN Womenの報告書(2011)では56%がパンジャブ州、23%がシンド州となっている。
UN Women, 2011, ‘Roots for Equity -Unacknowledged Treasures: The Home-based Women Labor of Pakista-.'

開発政策と本事業の位置づけ

インフォーマルセクターで働く人々の権利擁護に関する初めての国際条約であるILO条約第177号「在宅形態の労働条約(Convention on Home Work)」、及びその後の雇用とディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)をめぐる国際的議論の高まりを踏まえ、パキスタン政府は、2010年5月に新たな労働政策を掲げている。同政策はインフォーマル経済における労働者に対しても、フォーマルセクター労働者と同様の基本的権利(最低賃金や労働環境)や社会的便益(保険等)を実現・担保することを認め、そのための取り組みを推進するとしている。
その一環として、2011年に連邦女性省をはじめとした関係省庁により国家家内労働者政策(National Home-Based Workers Policy)が策定され、最低賃金や正当な報酬、労働環境、技術訓練、土地や資産、金融サービスへのアクセス、マーケティング等、多方面での改善が図られることとなった。その後、憲法改正により、こうした事項は州政府の所掌事項となり、HBWsの多いパンジャブ州及びシンド州では、ILOやUN Womenなどの支援により、州レベルのHBWs支援政策を策定している。本案件の対象州であるシンド州では、州HBWs政策が2018年5月に州議会で承認された。

(2)インフォーマルセクター(特に家内労働者)に対する我が国及びJICAの協力方針等と本事業の位置付け

本案件を含むジェンダー格差の改善及び女性の経済的エンパワメント支援については、対パキスタン・イスラム共和国事業展開計画(2015年4月)における重点分野「人間の安全保障の確保と社会基盤の整備」に位置づけられ、「ジェンダー主流化」が開発課題の一つとして掲げられている。

(3)当該セクター/地域における他の援助機関の対応

ILOとUN Womenがパンジャブ州とシンド州を対象として、労働局によるHBWs州HBWs支援政策案の策定、アドボカシー活動、パイロット県での女性HBWsの所得向上を実施している。
パキスタンの非営利団体のなかにはHBWsに特化した支援を行っている団体があり、アドボカシー活動、技術訓練、啓発、市場開拓等のコミュニティへの技術支援を行っている。

プロジェクトの目的

本事業は、シンド州WDDの能力強化及びFBWsへの支援やサービス提供に取り組むパートナー機関(NGO、民間企業、政府機関等)との連携強化を通じ、対象県において、女性家内労働者(Female Home Based Workers、以下「FHBWs」という。)及びその世帯に対するパイロット活動(1)ライフスキルマネジメント能力向上、2)金融サービスアクセス能力向上、3)収入向上、4)フォーマルセクターへの雇用促進)の実施を通じて、女性家内労働者の生計向上のアプローチをまとめたツールキットの開発・活用の促進を図り、もって他機関(注3)・州内他地域への普及・展開によるFHBWsの生計向上に寄与するものである。

(注3)FBWsへの支援やサービス提供に取り組む機関(NGO、民間企業、政府機関等)

本事業の受益者(ターゲットグループ)

直接受益者

シンド州女性局及びパートナー機関[SRSO(Sindh Rural Support Organization)、WDFP(Women Development Foundation Pakistan)、金融サービス提供機関(デジタルサービスプロバイダー)、民間企業、社会的企業等(注4)

(注4)パイロット活動を行うパートナー機関は、成果2から4に関わる2つのNGOに加えて、成果3では金融サービス提供機関(デジタルサービスプロバイダー)、成果5では複数の民間企業を対象とする予定。また、プロジェクト実施中成果2から4に関わるパートナー機関は拡大する可能性あり。

最終受益者

パイロット活動の対象となる女性家内労働者(FHBWs)とその家族

目標

上位目標

女性家内労働者向けの「生計向上ナレッジ・アンド・ツールキット(以下ツールキット)(注5)」に含まれるサービスの一部を受けたFHBWs世帯の数が増える。

指標及び目標値(注6):
指標1:WDD、SRSO、WDFPがそれぞれのロールアウトプランに基づきサービスを提供した女性家内労働者世帯の数(カウンターパート及びパートナー機関による展開)
指標2:ツールキットの内容を活用した機関の数(もしくはエリアの数)(他機関・他地域への面的展開)

(注5)生計向上ナレッジ・アンド・ツールキットとは、公的機関・民間企業・NGO等が女性家内労働者に生計向上の支援や正規雇用の機会を提供する際に必要となるアプローチや方策を示すもので、必要なナレッジや実践的なツールを含む複数のモジュールで構成される(ライフマネジメントスキル、金融アクセス、収入向上、フォーマルセクターの雇用等)。最貧困層が段階的に能力を得て貧困から脱却することを目指す「卒業アプローチ」を参考とし、パイロット活動の結果を反映して最終化するもの。
(注6)指標の目標値は中間時点までに設定する

プロジェクト目標

官民連携を通じて開発された女性家内労働者世帯の生計向上を目指すツールキットの適用が促進される。

指標及び目標値:
指標1:ツールキットを活用する機関の数。
指標2:ツールキットがWDDにより承認される。

成果

成果1:官民連携を通じて女性家内労働者世帯の生計向上を目指すツールキットの適用促進に向けて、WDDの能力が強化される。
指標1-1:WDDのスタッフがトレーナーやリソースパーソンとして講義等を提供した研修・セミナーの数

成果2:パイロット活動の対象となる女性家内労働者世帯のライフマネジメントにかかる能力が向上する。
指標2-1:何らかの目的に向けて貯蓄を始めた女性家内労働者世帯の数(/割合)
指標2-2:ビジネスや世帯家計の収支を記録する女性家内労働者の数が増加する。

成果3:パイロット活動の対象となる女性家内労働者世帯の金融サービスアクセスにかかる能力が向上する。
指標3-1:貯蓄をする女性家内労働者の数が増加する。
指標3-2:正規金融機関の口座を保有する女性家内労働者の数が増加する。
指標3-3:女性家内労働者がアクセスできる金融サービスの種類が増加する。

成果4:パイロット活動の対象となる女性家内労働者が収入向上に必要な知識と技術を習得する。
指標4-1:家内労働からの収入が向上する(グループ型)
指標4-2:女性家内労働者がアクセスできる支援リソース(注7)の数が増える(自営型)

成果5:フォーマルセクターへの女性の雇用を促進することの重要性が啓発される。
指標5-1:女性がフォーマルセクターで働くことに同意する家族の数が増加する。
指標5-2:女性の雇用を推進する企業(注8)の数。

成果6:成果2から5に基づき、ツールキットが開発される。
指標6-1:ツールキットがJCCにより承認される。

(注7)公的・民間の技術支援や資金支援先、またメンタリングを行う機関や人材等を指す
(注8)女性の雇用促進や雇用継続につながる何らかの方策を実施する企業(研修の実施、女性雇用者の増加、労働環境や施設の改善等)

活動

1-1:WDD, パートナー機関及び関連機関とキックオフセミナーを開催する。
1-2:パートナー機関によるパイロット活動の計画策定を調整する。
1-3:WDDオフィサーの能力を強化する
1-4:ベースライン調査を行う。
1-5:パイロット活動のモニタリング及びレビューを行う。
1-6:パイロット活動の実施を調整する。
1-7:パイロット活動をモニタリングし、計画見直しを調整する。
1-8:パイロット活動を継続・拡大する。
1-9:エンドライン調査を実施する。
1-10:WDD, SRSO, WDFPのよるツールキットのロールアウト計画策定を調整する。

2-1:ライフマネジメントスキルのパイロット活動の計画策定を行う。
2-2:パイロット活動を実施する。
2-3:パイロット活動のプロセスと結果をモニタリングし評価する。
2-4:パイロット活動の方策や内容を見直す。
2-5:パイロット活動を継続・拡大する。
2-6:パイロット活動の結果に基づき、方策や内容を最終化する。

3-1:金融アクセスのパイロット活動の計画策定を行う(ディマンド側、サプライ側)。
3-2:パイロット活動を実施する。
3-3:パイロット活動のプロセスと結果をモニタリングし評価する。
3-4:パイロット活動の方策や内容を見直す。
3-5:パイロット活動を継続・拡大する。
3-6:パイロット活動の結果に基づき、方策や内容を最終化する。

4-1:収入向上のパイロット活動の計画策定を行う(グループ型、自営型)
4-2:パイロット活動を実施する。
4-3:パイロット活動のプロセスと結果をモニタリングし評価する。
4-4:パイロット活動の方策や内容を見直す。
4-5:パイロット活動を継続・拡大する。
4-6:パイロット活動の結果に基づき、方策や内容を最終化する。

5-1:フォーマルセクターの女性雇用を促進するパイロット活動の計画策定を行う。
5-2:パイロット活動を実施する。
5-3:パイロット活動のフォローアップを実施する。
5-4:パイロット活動の結果に基づき、方策や内容を最終化する。

6-1:成果2から5に基づきツールキットを作成する。
6-2:ツールキットを関係機関と共有する。
6-3:関係機関からのコメントを反映しツールキットを最終化する。
6-4:WDDによるツールキットの承認を支援する。

投入

日本側投入

1)専門家派遣:総括/啓発活動、ライフマネジメントスキル/金融サービスアクセス、収入向上活動、業務調整/研修)
2)研修員受け入れ:本邦研修、第三国研修
3)機材供与:パソコン、プロジェクター等事務用機器

相手国側投入

1)カウンターパートの配置
2)案件実施のためのサービスや施設、現地経費の提供